第98話 合流阻止
森は、静かだった。
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つい先ほどまでの喧騒が、嘘のように遠い。
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金属のぶつかる音も、怒号も、悲鳴も。
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すべてが、背後へ置き去りにされた。
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代わりに聞こえるのは。
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自分たちの呼吸と。
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枝を踏む、小さな音だけ。
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「……はぁ……はぁ……っ」
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ミサキが肩で息をする。
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杖を握る手が、わずかに震えていた。
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「ユウマ……少し、離れられた……?」
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不安と、わずかな安堵が混じった声。
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ユウマは答えない。
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代わりに、周囲を見渡す。
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木々。
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影。
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風の流れ。
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――静かすぎる。
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「……いや」
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短く、否定する。
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「むしろ……嫌な感じしかしねえ」
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ミサキの顔が強張る。
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「え……?」
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ユウマは眉をひそめる。
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「敵の気配が無いってのが、おかしい」
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「普通なら、追ってくるはずだろ」
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逃がした敵を。
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そのままにする理由がない。
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なのに。
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何も来ない。
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(……見逃された?)
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いや。
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違う。
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「……待ってる?」
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思考が、形になる。
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その瞬間。
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「――正解ッス」
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声。
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前方。
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ユウマの足が止まる。
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ミサキも、息を呑んだ。
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木々の隙間。
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影が、一つ。
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ゆっくりと、姿を現す。
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軽装。
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だが、隙が無い。
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両手には、双剣。
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そして――
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こちらを、まっすぐに見ている。
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ユウマの喉が、わずかに鳴る。
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「……誰だ、お前」
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警戒を隠さず問う。
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少女は、軽く首を傾げた。
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「初めまして、ッスね」
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その口調。
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場違いなほど、軽い。
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だが。
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立ち位置がすべてを語っていた。
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道を、塞いでいる。
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ミサキが、小さく呟く。
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「……止められてる……」
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その一言で。
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全てが、繋がる。
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カズマ。
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ガイ。
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ソウタ。
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レン。
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レオン。
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そして――自分たち。
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ユウマの目が見開かれる。
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「……最初から、これが目的か」
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少女は、頷いた。
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あっさりと。
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「そうッス」
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そして。
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双剣を、静かに構える。
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「今回の役目は――」
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一拍。
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視線が鋭くなる。
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「合流させないことッス」
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はっきりと。
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言い切った。
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ミサキが、一歩下がる。
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「ユウマ……どうするの……?」
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震える声。
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だが。
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ユウマは、前を見る。
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逃げない。
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目の前の“壁”を。
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「……突破する」
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短く、言い切る。
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少女――リアナが、わずかに笑う。
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「そう来ると思ったッス」
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足の位置が変わる。
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重心が沈む。
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空気が変わる。
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軽いのに。
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重い。
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(……強い)
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ユウマの直感が告げる。
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今までの敵とは、違う。
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だが。
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止まる理由にはならない。
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「行くぞ!」
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踏み込む。
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一直線。
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最短距離で、距離を詰める。
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剣を振る。
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速い。
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正確。
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だが――
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「甘いッス」
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一閃。
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火花。
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甲高い音が、森に響く。
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「っ!?」
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弾かれる。
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体勢が崩れる。
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速い。
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軽い動きなのに、重い衝撃。
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そのまま。
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二撃目。
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横から。
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死角。
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「くっ!」
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咄嗟に受ける。
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衝撃。
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腕が痺れる。
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押される。
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「ユウマ!」
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ミサキの声。
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回復魔法が飛ぶ。
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光が、体を包む。
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だが。
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リアナは止まらない。
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「悪いけど――」
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一歩。
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さらに踏み込む。
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距離を詰める。
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「ここは通さないッス!」
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連撃。
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速い。
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間断なく。
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絶え間なく。
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防ぐ。
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受ける。
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だが。
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押される。
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「くそっ……!」
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距離が取れない。
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離れようとする。
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だが。
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離れられない。
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「逃がさないッスよ」
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ピタリと張り付く。
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常に間合いの内側。
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一歩離れれば、詰められる。
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二歩離れれば、追いつかれる。
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完全に。
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“拘束されている”
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ミサキが息を呑む。
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「……これ、突破できない……!」
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ユウマの中で、確信になる。
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(こいつ……)
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(倒す気がない……)
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(止めることに、全振りしてる……!)
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その通りだった。
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倒す必要はない。
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進ませなければいい。
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それだけで。
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勝ち。
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リアナが言う。
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「無理はしないッス」
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淡々と。
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「でも――」
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わずかに、力が入る。
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「役目は果たすッス」
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その言葉に。
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ユウマの胸がざわつく。
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敵のはずなのに。
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理解できてしまう。
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(こいつも……)
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(やるべきことを、やってるだけか……)
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脳裏に浮かぶ。
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倒れていった魔族。
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あの時の、感覚。
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(……人間と、何が違うんだよ)
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一瞬。
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迷いがよぎる。
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その隙を。
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リアナは、逃さない。
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「隙ッス」
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一撃。
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鋭い。
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ユウマの肩を掠める。
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「ぐっ……!」
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血が滲む。
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ミサキが叫ぶ。
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「ユウマ!」
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回復が飛ぶ。
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だが。
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ユウマは、歯を食いしばる。
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「……どけよ」
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低く。
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絞り出す。
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リアナは、首を横に振る。
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「無理ッス」
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即答。
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迷いは無い。
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「ここが、分かれ道ッスから」
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その一言。
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重く、刺さる。
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森の奥。
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進めば――合流。
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だが。
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進めない。
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戦場は、もう繋がらない。
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その現実が。
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静かに、突きつけられる。
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ユウマは、剣を握る手に力を込める。
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「……だったら」
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息を吐く。
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覚悟を決める。
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「ここで、こじ開けるしかねえな」
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リアナが、構えを深くする。
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「来るッス」
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森の空気が、張り詰める。
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逃げ場は無い。
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引き返す道も、無い。
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あるのは――
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“ぶつかる”だけ。
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