第97話 決断の代償
戦場は、限界に近づいていた。
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「はぁ……っ、はぁ……っ……」
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ミサキの呼吸が荒い。
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杖を握る手が震えている。
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「……まだ、いけるか」
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レオンが低く問う。
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「……っ、はい……!」
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答える。
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だが。
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無理をしているのは明らかだった。
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光が灯る。
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傷を癒す。
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だが――
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足りない。
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「くそっ……!」
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ユウマが歯を食いしばる。
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斬る。
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倒す。
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それでも。
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減らない。
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「なんなんだよこれ……!」
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敵は弱い。
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一体一体なら、問題ない。
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だが。
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“減らない”
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補充。
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交代。
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流れるように。
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戦線が、維持されている。
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レオンは、見ていた。
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全体を。
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(……削られている)
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確実に。
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ゆっくりと。
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「……時間をかけて、崩すつもりか」
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その時。
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――ズンッ!!!
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地面が揺れた。
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「なっ!?」
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遠方。
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煙が上がる。
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そして。
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新たな影。
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「……増援!?」
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王国兵の声が上がる。
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現れたのは――
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まとまった数。
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中隊規模。
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整然とした動きで、戦線へ流れ込む。
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「チッ……!」
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ユウマが舌打ちする。
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「まだ来んのかよ……!」
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レオンの目が細くなる。
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(……来たか)
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(ここが臨界点だ)
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戦線。
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維持ギリギリ。
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ここで崩れれば。
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一気に壊れる。
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だが。
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ここに留まれば。
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勇者パーティも、巻き込まれる。
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一瞬。
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迷いが走る。
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(……どちらを取る)
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わずかな沈黙。
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だが。
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それは長くは続かない。
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決断。
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レオンが口を開く。
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「ユウマ、ミサキ」
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二人が振り向く。
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「このままでは巻き込まれる」
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低く。
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確実に伝える。
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「一度、位置を下げろ」
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ユウマが叫ぶ。
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「どこまでだ!?」
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レオンは、わずかに間を置いた。
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そして。
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「……森側だ」
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短く言う。
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「状況を見て判断しろ」
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その言葉に。
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ユウマの眉が歪む。
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「判断しろって……!」
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ミサキが、ユウマの袖を掴む。
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「ユウマ……!」
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その声。
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震えている。
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周囲を見る。
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倒れていく兵士。
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迫る増援。
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崩れかけた戦線。
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(ここにいたら……)
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理解する。
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守れない。
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「……っ」
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拳を握る。
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だが。
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まだ言う。
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「レオンさんはどうする!?」
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レオンは、振り返らない。
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「俺は増援を止める」
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一歩、踏み出す。
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「ここを崩させるわけにはいかない」
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その背中。
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迷いは、もう無い。
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ユウマが歯を食いしばる。
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「……クソッ!」
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叫びたい。
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止めたい。
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だが。
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分かっている。
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これが、最善だと。
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ミサキが言う。
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「……行こう、ユウマ」
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小さな声。
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だが。
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確かな決意。
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ユウマは、目を閉じる。
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一瞬。
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そして。
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開く。
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「……分かった」
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決断。
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「森に入るぞ!」
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レオンが、わずかにだけ振り向く。
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「……すぐ戻る」
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短く言う。
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嘘ではない。
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だが――
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戻れる保証は、どこにもない。
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そのまま。
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背を向ける。
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戦場へ。
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ユウマ達は、逆へ。
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森へ。
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足音が遠ざかる。
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戦場の音が、薄れていく。
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ユウマは、一度だけ振り返る。
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そこにいるはずの背中は。
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もう、見えなかった。
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「……クソ……」
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吐き捨てる。
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だが。
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止まらない。
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止まれない。
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その選択が。
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何を意味するのか。
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まだ、知らない。
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