第96話 王の器
静かだった。
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戦場の喧騒が、遠い。
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ユウマは、息を呑んだ。
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「……なんだよ、これ」
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空気が違う。
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重い。
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立っているだけで、圧し潰されそうになる。
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ミサキが震える。
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「……怖い……」
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無理もない。
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これは“殺気”ではない。
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もっと根源的な――
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「……威圧」
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レオンが低く呟く。
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その正体を、理解していた。
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来る。
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確実に。
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足音が響く。
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ゆっくりと。
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一歩。
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また一歩。
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姿が現れる。
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巨大な体躯。
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背負うのは――
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大剣。
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ただの剣ではない。
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“塊”だ。
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それを、当然のように担いでいる。
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男が、止まる。
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「……ほう」
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低く、響く声。
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ユウマ達を見下ろす。
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「まだ残っているか」
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その一言で。
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空気が凍る。
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レオンが前に出る。
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一歩。
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それだけで、重い。
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(違う……)
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(こいつは……)
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直感が告げる。
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“今までの敵とは別格”
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男が名乗る。
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「魔王軍四天王」
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「炎将バルグ」
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静かに。
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だが。
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それだけで十分だった。
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ユウマの喉が鳴る。
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(これが……)
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(四天王……!)
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ミサキの手が震える。
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杖が、揺れる。
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その時。
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レンが前に出た。
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「……ここは」
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剣を構える。
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「俺がやる」
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ユウマが振り向く。
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「レン!?」
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レオンも言う。
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「無茶だ」
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短く。
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だが。
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レンは首を振った。
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「分かってる」
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一歩、踏み出す。
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「でも――」
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視線は、バルグへ。
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逸らさない。
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「ここで止めないと」
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一拍。
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「全員、終わる」
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静かな覚悟。
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バルグは、それを見ていた。
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じっと。
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「……悪くない目だ」
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小さく言う。
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「だが」
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大剣を持ち上げる。
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「軽い」
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その一言。
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レンの背筋に、冷たいものが走る。
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だが。
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引かない。
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「行くぞ」
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踏み込む。
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速い。
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正確。
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無駄がない。
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“完成された剣”
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バルグへ届く。
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だが――
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「遅い」
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一言。
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振る。
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ただ、それだけ。
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大剣が。
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空気を裂く。
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「――っ!!」
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レンが咄嗟に受ける。
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激突。
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その瞬間。
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「ぐっ……!」
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膝が沈む。
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重い。
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圧倒的に。
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違う。
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「……これが」
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レンの歯が軋む。
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「差か……!」
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バルグは、動かない。
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ただ、見下ろす。
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「技はある」
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淡々と評価する。
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「だが」
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一歩。
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踏み込む。
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地面が沈む。
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「足りん」
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再び振る。
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重い一撃。
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レンは受ける。
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だが。
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押し込まれる。
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「ぐっ……!」
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後退。
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止まらない。
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「レン!!!」
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ユウマが叫ぶ。
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だが。
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届かない。
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その時。
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レンが叫ぶ。
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「来るな!!!」
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振り返らない。
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「ここは俺がやる!!」
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バルグが目を細める。
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「ほう」
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その言葉に、興味を持つ。
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レンは、立つ。
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震えながらも。
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剣を構える。
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「……絶対に」
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息を吐く。
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「通さない」
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その覚悟に。
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バルグは、わずかに笑った。
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「ならば」
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大剣を構える。
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「見せてみろ」
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「貴様の“限界”を」
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空気が張り詰める。
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圧倒的な格差。
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だが。
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レンは退かない。
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その背中が。
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ユウマとミサキを、守っていた。
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