第95話 静謐なる処刑台
静かだった。
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さっきまでの喧騒が、嘘のように消えている。
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ソウタは足を止めた。
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「……ここか」
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空気が違う。
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冷たい。
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張り詰めている。
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視線を巡らせる。
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誰もいない。
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だが――
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「いるな」
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確信。
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その瞬間。
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「ええ」
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声が、降ってきた。
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上。
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ソウタが見上げる。
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そこにいた。
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氷のような佇まい。
静かに立つ、一人の女。
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「ようこそ」
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淡々とした声。
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「よく辿り着きましたね」
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ソウタは目を細める。
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「……指揮官か」
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女は、わずかに頷いた。
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「魔王軍四天王」
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「セレナと申します」
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名乗り。
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だが。
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それ以上の情報はない。
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隙も。
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油断も。
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何もない。
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(やばいな……)
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ソウタの中で警鐘が鳴る。
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(こいつ……)
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(“全部分かってる”タイプだ)
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だが。
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止まれない。
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「……あんたを止める」
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短く言う。
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セレナは首を傾げる。
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「止める、ですか」
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一歩も動かない。
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「既に、遅いですが」
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その言葉と同時に。
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周囲の空気が変わる。
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「――っ?」
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ソウタが反応する。
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地面。
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空間。
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微細な光。
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「これ……」
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魔法陣。
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複数。
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重なっている。
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「気付くのが遅い」
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セレナが言う。
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「貴方がここに来た時点で」
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一拍。
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「盤面は完成しています」
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その瞬間。
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光が走る。
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足元。
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拘束。
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「――っ!」
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咄嗟に跳ぶ。
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ギリギリで回避。
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だが。
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着地地点。
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そこにも。
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「チッ!」
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さらに跳ぶ。
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また。
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「無駄です」
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セレナの声が落ちる。
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次の瞬間。
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一斉起動。
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氷。
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拘束。
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誘導。
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全てが連動する。
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「くそっ……!」
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ソウタは動く。
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回避。
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選択。
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最適解を探す。
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だが――
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「遅い」
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セレナの一言。
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その瞬間。
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足が止まる。
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完全な拘束ではない。
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だが。
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“最適な位置に誘導された”
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(読まれてる……!?)
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いや。
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違う。
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「読んでいません」
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セレナが言う。
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まるで心を読んだように。
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「選択肢を潰しているだけです」
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ソウタの背筋が凍る。
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(全部……)
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(最初から……)
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セレナは静かに続ける。
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「貴方は優秀です」
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「だからこそ」
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一拍。
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「ここに来ると分かっていました」
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その言葉が、突き刺さる。
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ソウタの拳が震える。
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「……最初から……」
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セレナは頷く。
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「はい」
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「三人目の分断要員として」
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静かに。
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言い切った。
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ソウタの呼吸が乱れる。
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(俺は……)
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(乗せられたのか……)
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だが。
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まだ終わっていない。
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「……だったら」
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魔力を高める。
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「力でぶち壊す」
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セレナは、わずかに目を細めた。
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「それも想定内です」
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次の瞬間。
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さらに魔法陣が展開する。
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層。
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重なり。
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逃げ場が、消える。
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「ここは――」
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セレナが告げる。
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「処刑台です」
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静かな宣告。
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「貴方が自ら上がった」
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一拍。
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「ね」
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氷が迫る。
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選択肢はない。
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ソウタは歯を食いしばる。
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(まだ……終わってない……!)
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だが。
その足場は、既に詰んでいた。
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