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「役立たず鍛冶師と言われた俺、武器改良したら戦死率が激減した」 〜仲間を死なせない戦場工房〜  作者: 街角のコータロー


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第91話 影と観測者

風は、ここには届かない。


草の揺れも。


仲間の気配も。


すべてが遠い。



桐生カズマは、ゆっくりと足を止めた。



「……ここか」



視線を巡らせる。


森の中。


視界は悪くない。


隠れる場所も多くない。



だが――



「いるな」



確信だった。



気配は薄い。


だが、消えてはいない。



“見せている気配”と


“隠している気配”



その二重構造。



カズマは小さく息を吐いた。



「面倒なのが来たな」



返事はない。



当然だ。



敵は、姿を見せない。



だが。



次の瞬間。



「……ええ」



声だけが、背後から響いた。



カズマは振り返らない。



「ご明察です」



柔らかい声。


丁寧な口調。



だが。



殺意だけは、隠していない。



「桐生カズマ様」



名前を呼ばれる。



カズマは、ゆっくりと口を開いた。



「……自己紹介は要らないな」



一拍。



「諜報か」



わずかな沈黙。



そして。



「はい」



素直に肯定する声。



「魔王軍四天王が一角」



「ヴァルツと申します」



カズマは、ようやく振り返った。



そこにいたのは――



一人の男。



整った服装。


落ち着いた佇まい。



戦場には似つかわしくない。



だが。



その目だけが、異質だった。



「……なるほどな」



カズマは剣を構える。



「当たりだ」



ヴァルツは微笑む。



「光栄です」



「貴方のような方を、ここで止められるのは」



カズマの目が細くなる。



「止める、か」



一歩、踏み出す。



「殺す気はないのか?」



ヴァルツは、ほんの少しだけ首を傾げた。



「もちろん、機会があれば」



「ですが――」



一歩も動かず、言う。



「今回の役割は“足止め”ですので」



その言葉に。



カズマの中で、何かが繋がった。



(分断)


(陽動)


(誘導)



「……やってくれる」



低く呟く。



ヴァルツは微笑みを崩さない。



「お褒めに預かり、光栄です」



その瞬間。



カズマが踏み込んだ。



速い。



一直線。


迷いのない一撃。



だが。



「――っ」



空を切る。



ヴァルツは、そこにいない。



「こちらです」



横。



ナイフが走る。



カズマは即座に受ける。



金属音。



重くない。


軽い。



だが――



「厄介だな」



距離が遠い。



ヴァルツは深追いしない。



一撃入れて、離れる。



「正面からは来ないか」



カズマは構えを崩さない。



ヴァルツは答える。



「その必要がありませんので」



事実だった。



カズマの役割は索敵。



今、ここに縛られている時点で――



敵の目的は達成されている。



「チッ……」



カズマは舌打ちする。



(戻れない)



背後に、仲間の気配はない。



この距離。


この状況。



戻ろうとすれば、確実に背を取られる。



つまり――



「ここでやるしかない…か」



ヴァルツが静かに頷く。



「ええ」



「お付き合いください」



次の瞬間。



また消える。



気配が散る。



上。


横。


背後。



全方位。



カズマは動かない。



目を閉じる。



(焦るな)



呼吸を整える。



(こいつは“削る”タイプだ)



(なら――)



目を開く。



「来い」



低く言う。



その瞬間。



影が動いた。



三方向。



同時。



「……はっ」



カズマは笑う。



一歩だけ動く。



最も遅い一撃へ。



弾く。



崩れる。



そこに――



本命。



ヴァルツ。



「見えた」



剣を振るう。



一閃。



だが。



紙一重で躱される。



ヴァルツの目が、わずかに細まった。



「……さすがですね」



カズマは構え直す。



「教師なめんな」



短く言う。



「ガキども守るのが仕事だ」



その言葉に。



ヴァルツは、ほんのわずかに表情を変えた。



「……ええ」



小さく頷く。



「その点においては」



一拍。



「私も同じです」



空気が、わずかに変わる。



カズマの目が細くなる。



(こいつ……)



ただの敵じゃない。



同じ側面を持つ者。



だが。



次の瞬間には、消える。



戦場に、情は要らない。



再び、影が動く。



終わらない削り合い。



時間だけが過ぎていく。



そして――



カズマは理解する。



(やられてるな)



戻れない。



時間を奪われている。



仲間がどうなっているかも分からない。



それでも。



剣を握る手に、力を込める。



「……それでもな」



低く呟く。



「止まるわけにいかないんだよ」



ヴァルツの声が、どこからか響く。



「ええ」



「承知しております」



その声は、どこまでも穏やかだった。



「ですから――」



一拍。



「ここで、止まっていただきます」



影が迫る。



戦いは、まだ終わらない。



だが――



この瞬間。



確定した。



桐生カズマは。



“戦場から外された”




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