第9話 鍛冶師を探せ
戦場の空気は、すでに変わっていた。
つい数十分前まで、王国軍が優勢だった。
兵の数は五倍。
普通なら押し潰される戦力差。
だが。
今は違う。
王国兵が倒れていく。
一人。
また一人。
リアナは剣を振り抜いた。
ヒュン。
ザシュ。
敵兵が倒れる。
リアナは息を吐いた。
「次ッス」
前に出る。
敵兵が二人同時に襲ってくる。
剣を振る。
ガキン!
一人の剣を弾く。
もう一人が斬りかかる。
リアナはその剣を受けた。
ガン!
金属音。
だが次の瞬間。
バキッ。
王国兵の剣が折れた。
半分になった刃が地面に落ちる。
カラン。
王国兵が呆然とする。
「な……」
リアナは肩をすくめた。
「残念ッス」
ザン!
敵兵が倒れる。
周囲でも同じことが起きていた。
リアナ隊の兵士が敵兵と剣を打ち合う。
ガン!
ガキン!
三度目の衝突。
バキッ。
王国兵の剣が折れる。
兵士が笑った。
「またか」
ザシュ!
敵兵が倒れる。
若い兵士が叫ぶ。
「隊長!」
リアナが振り向く。
「なんだ!」
「十人目ッ!」
リアナが眉を上げる。
「何がッス?」
「折れた剣!」
リアナは周囲を見る。
確かに。
地面には折れた剣が転がっていた。
一本。
二本。
三本。
数えきれない。
だが。
リアナ隊の剣は。
まだ一本も折れていない。
古参兵が笑った。
「とんでもねぇ剣だ」
若い兵士が剣を見る。
血に濡れている。
だが刃は無傷だった。
「これ」
小さく呟く。
「マジで折れない」
リアナが言う。
「タクミ製ッス」
兵士たちが笑う。
「最高ッ!」
その頃。
丘の上
騎士団長が戦況を見る
彼の顔は険しい。
「……」
副官が恐る恐る言う。
「騎士団長」
「何だ」
「前線が崩れています」
騎士団長は答えない。
視線は一点に固定されていた。
リアナ隊。
十人の兵士。
そこだけ戦況が異常だった。
王国兵が倒れていく。
だが。
相手は倒れない。
一人も。
副官が言う。
「兵の腕でしょうか」
騎士団長は首を振った。
「違う」
彼は静かに言った。
「武器だ」
副官が眉をひそめる。
「武器……」
騎士団長は言う。
「剣の質が違う」
戦場を見る。
王国兵の剣が折れる。
だが。
あの十人の剣は折れない。
副官が呟く。
「そんな武器が……」
騎士団長は静かに言った。
「ある」
そして続ける。
「鍛冶師だ」
副官が驚く。
「鍛冶師?」
騎士団長は頷く。
「この剣を作った鍛冶師がいる」
戦場を見る。
リアナがまた敵兵を斬る。
王国兵が倒れる。
「戦場を変える武器」
騎士団長は笑った。
「面白い」
そして命じた。
「調べろ」
副官が姿勢を正す。
「はっ」
騎士団長は続ける。
「その武器」
「どこで作られた」
「誰が作った」
「全てだ」
副官が頷く。
「すぐに」
騎士団長は戦場を見ながら呟いた。
「もし本当に鍛冶師がいるなら」
目を細める。
「王国の物にする」
戦場では。
リアナが叫んだ。
「押すッス!」
兵士たちが前へ出る。
「おお!」
王国兵が後退する。
誰かが叫んだ。
「撤退!」
王国軍の太鼓が鳴る。
ドン。
ドン。
ドン。
撤退の合図だった。
王国兵が後ろへ下がり始める。
リアナは剣を下げた。
息を吐く。
「終わりッスね」
若い兵士が笑う。
「勝った」
古参兵が周囲を見る。
「……誰も死んでない」
リアナも確認する。
隊の兵士たち。
全員立っている。
誰も倒れていない。
リアナは小さく笑った。
「すごいッスね」
若い兵士が言う。
「隊長」
「なんだ」
兵士が剣を見る。
「これ」
リアナは答えた。
「タクミの剣ッス」
兵士たちは静かに頷いた。
そして――
夕方。
工房。
カン。
カン。
タクミは鉄を打っていた。
いつも通り。
いつもと同じ音。
そこへ扉が勢いよく開く。
バン!
「タクミ!」
リアナだった。
タクミが顔を上げる。
「終わったッス!」
リアナは笑っていた。
息を切らしている。
タクミが聞く。
「勝ったか」
リアナは頷く。
「勝ったッス!」
タクミは少しだけ頷いた。
リアナは続ける。
「しかも」
剣を抜く。
キン。
「誰も死んでないッス」
タクミの手が止まる。
「……本当か」
リアナは笑う。
「マジッス」
そして剣を見る。
「この剣」
タクミを見る。
「すごいッス」
タクミは少し黙った。
それから言った。
「そうか」
リアナはニヤッと笑う。
「戦場変わったッス」
タクミは鉄を炉に戻した。
火が揺れる。
その時。
城の外では。
王国軍の伝令が馬を走らせていた。
騎士団長の命令を持って。
内容は一つ。
「鍛冶師を探せ」
そして。
その名はまだ知られていない。
だが。
すぐに知られることになる。
その鍛冶師の名は――
タクミ。
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