第8話 戦場を変える鍛冶師
戦場には金属音が鳴り響いていた。
ガキン。
ガン。
ギィィン。
剣と剣がぶつかる音。
盾が叩かれる音。
叫び声。
血の匂い。
平原の中央で、王国軍と城の守備隊が激しくぶつかっていた。
普通の戦場だった。
少なくとも――最初の数分までは。
リアナは敵兵の剣を受け止めた。
ガキン!!
重い衝撃が腕に伝わる。
王国兵が力任せに剣を振り下ろしてきた。
だがリアナは落ち着いていた。
剣を横に流す。
敵兵の体勢が崩れる。
リアナは一歩踏み込む。
ヒュン。
ザシュ。
王国兵が倒れた。
リアナは息を吐く。
「次ッス」
その横で、若い兵士が戦っていた。
ガン!!
剣がぶつかる。
王国兵が叫ぶ。
「死ね!」
ガン!!
もう一度。
ガキン!!
三度目の衝突。
普通なら。
ここで刃が欠ける。
魔力鋳造の剣なら、折れてもおかしくない。
だが――
若い兵士の剣は、びくともしなかった。
逆に。
王国兵の剣の刃が欠けた。
「な……?」
王国兵が目を見開く。
若い兵士も一瞬驚く。
だがすぐ笑った。
「悪いな」
ヒュン。
ザシュ。
敵兵が倒れる。
少し離れた場所。
古参兵が敵兵の剣を受けた。
ガキン!
火花が散る。
もう一度。
ガキン!
三度目。
バキッ!!
王国兵の剣が折れた。
半分が地面に落ちる。
カラン。
王国兵が呆然とする。
古参兵は笑った。
「お前の剣」
軽く振る。
「先に死んだな」
ザン!!
敵兵が倒れる。
古参兵は自分の剣を見る。
刃は綺麗だった。
傷一つない。
「……本当に折れねぇ」
リアナはそれを見ていた。
そして口元が少し上がる。
「やっぱりッスね」
敵兵が二人同時に襲ってくる。
リアナは前へ出た。
ヒュン。
ガキン!!
一人の剣を弾く。
体を回す。
ザン!!
もう一人が倒れる。
さらに敵兵が斬りかかる。
ガン!!
剣がぶつかる。
その瞬間。
パキン!!
王国兵の剣が折れた。
「は?」
リアナはそのまま振り抜く。
ザシュ。
敵兵が倒れた。
リアナは剣を振る。
血が飛ぶ。
刃は光っていた。
「いい剣ッス」
だが。
その異変に気づく者がいた。
王国軍の後方。
小高い丘。
赤いマントの男。
王国軍第三軍団
騎士団長だった。
彼は腕を組みながら戦場を見ている。
副官が言う。
「敵は押されています」
騎士団長は小さく首を傾げた。
「……そうか?」
副官が驚く。
「何か?」
騎士団長は戦場を指差した。
「そこだ」
副官が目を凝らす。
兵士たちが戦っている。
だが。
ある場所だけ違った。
王国兵が倒れていく。
魔族兵が倒れない。
副官が言う。
「偶然では?」
騎士団長は首を振った。
「違う」
彼の目は鋭かった。
戦場を何百回も見てきた目。
死傷率。
兵の動き。
武器の状態。
全てを見ている。
そして気づいた。
「剣だ」
副官が聞く。
「剣?」
騎士団長は頷く。
「武器の質が違う」
彼は静かに言った。
「面白い」
そして。
赤いマントが揺れた。
騎士団長は歩き出す。
「団長?」
副官が驚く。
騎士団長は言った。
「前線に出る」
兵士たちが道を開ける。
王国軍の兵がざわめく。
「騎士団長だ……」
「団長が出るぞ!」
リアナはそれに気づいた。
一人の男が歩いてくる。
鎧。
赤いマント。
落ち着いた足取り。
リアナは小さく呟く。
「……強いッスね」
騎士団長は剣を抜いた。
静かな音。
キン。
リアナは笑った。
「いいッスよ」
構える。
二人がぶつかった。
ガキィィン!!
凄まじい金属音。
衝撃が腕に走る。
リアナの目が少しだけ見開かれた。
強い。
騎士団長は冷静だった。
「ほう」
もう一度。
ガキン!!
刃がぶつかる。
騎士団長は剣を見た。
欠けていない。
折れていない。
三度目。
ガキィン!!
火花が散る。
騎士団長は小さく笑った。
「なるほど」
リアナが聞く。
「何がッス?」
騎士団長は言った。
「武器か」
リアナはニヤッと笑う。
「気づくの遅いッス」
騎士団長は興味深そうに剣を見る。
「良い剣だ」
リアナは言った。
「最高ッス」
二人は少し距離を取る。
騎士団長は振り返った。
「退くぞ」
副官が驚く。
「団長!?」
騎士団長は戦場を見た。
リアナ隊。
折れない剣。
王国兵が倒れている。
彼は静かに言った。
「武器の差は埋まらん」
副官が言う。
「ですが数で――」
騎士団長は首を振る。
「無駄な損耗だ」
そして命令した。
「調べろ」
副官が姿勢を正す。
「はっ」
騎士団長は言う。
「その武器」
目を細める。
「作った鍛冶師がいる」
副官が驚く。
「鍛冶師?」
騎士団長は笑った。
「ただの鍛冶師じゃない」
戦場を見る。
「戦場を変える鍛冶師だ」
彼は呟いた。
「欲しいな」
そして命令する。
「捕らえろ」
その頃。
遠くの工房では。
カン。
カン。
カン。
タクミが鉄を打っていた。
汗が落ちる。
赤い鉄を見つめる。
「……少し柔らかい」
もう一度叩く。
カン。
「次は折れない」
その頃。
戦場では。
折れない剣が。
戦況を変えていた。
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