第10話 魔王の命令
戦いの翌日。
城の中は妙に騒がしかった。
中庭では兵士たちが集まっている。
誰もが同じ話をしていた。
「聞いたか?」
「リアナ隊の話だろ」
若い兵士が身を乗り出す。
「十人で王国軍押し返したって」
別の兵士が言う。
「それだけじゃない」
声を潜める。
「死者ゼロだ」
一瞬、空気が止まる。
「……嘘だろ」
古参兵が腕を組んだ。
「俺も最初はそう思った」
そして低い声で言う。
「理由は剣だ」
兵士たちが顔を見合わせる。
「剣?」
古参兵は頷いた。
「リアナ隊の剣だけ違う」
「王国兵の剣は折れる」
「だがあいつらの剣は折れない」
若い兵士が笑う。
「そんな武器あるかよ」
古参兵は言った。
「鍛冶師が作ったらしい」
その頃。
城の鍛冶工房。
カン。
カン。
鉄を打つ音が響く。
タクミはいつも通り仕事をしていた。
戦争も。
勝敗も。
関係ない。
彼の世界はここだ。
炉の火。
鉄の色。
ハンマーの重さ。
それだけ。
カン。
扉が開く。
「タクミ」
リアナだった。
タクミが振り向く。
「どうした」
リアナは笑う。
「城中で噂ッス」
「噂?」
「タクミの剣」
タクミは鉄を炉に戻す。
「そうか」
リアナが呆れる。
「反応薄いッスね」
剣を抜く。
キン。
「王国兵の剣」
「いっぱい折れてたッス」
タクミが言う。
「魔力鋳造だろ」
「そうッス」
タクミは短く言う。
「折れる」
リアナが笑う。
「でもこれ」
剣を見る。
「折れない」
タクミは言った。
「鍛冶だからな」
リアナは肩をすくめる。
「すごい鍛冶師ッス」
タクミは何も言わなかった。
その頃。
魔王城。
巨大な玉座の間。
黒い玉座に男が座っている。
魔王。
魔族の王。
その前で側近が跪いていた。
「王国軍との戦い」
「我が軍が勝利しました」
魔王は短く言う。
「当然だ」
側近は続けた。
「ですが……奇妙な報告があります」
魔王の視線が下がる。
「話せ」
「リアナ隊」
「十人の部隊ですが」
「王国軍を押し返しました」
魔王は言う。
「珍しくはない」
側近は首を振る。
「死傷者です」
魔王の目が細くなる。
「何人だ」
「ゼロです」
沈黙。
魔王はゆっくり言った。
「ありえんな」
側近は続ける。
「理由は武器だそうです」
魔王の目がわずかに光る。
「武器」
「折れない剣」
魔王は少し考えた。
そして言った。
「鍛冶師か」
側近が驚く。
「分かるのですか」
魔王は言う。
「武器の差は」
「職人の差だ」
そして命じる。
「カティアを呼べ」
数分後。
玉座の間の扉が開く。
入ってきたのは一人の女性だった。
黒いローブ。
長い銀髪。
冷たい瞳。
魔王直属の諜報官。
カティア。
彼女は跪いた。
「お呼びでしょうか」
魔王は言う。
「戦場の報告を聞いたか」
カティアは答える。
「すでに」
魔王が眉を上げる。
「早いな」
カティアは淡々と言った。
「仕事ですので」
魔王は続ける。
「折れない剣」
「調べろ」
カティアの瞳がわずかに細くなる。
「武器ですか」
魔王は言う。
「それを作った鍛冶師がいる」
カティアは小さく笑った。
「興味深いですね」
魔王は言った。
「もし本当なら」
「戦争が変わる」
カティアは静かに答える。
「その可能性は高いかと」
魔王が聞く。
「理由は」
カティアは即答した。
「兵士が死なない武器は」
「戦力を減らさない」
少し間を置く。
「戦争を長引かせるか」
「終わらせるか」
「どちらにもなります」
魔王は笑った。
「面白い」
そして命じる。
「見つけろ」
カティアは深く頭を下げた。
「了解しました」
そして静かに言う。
「必ず」
カティアは玉座の間を出た。
廊下を歩きながら呟く。
「折れない剣」
少し考える。
「良い鍛冶師ですね」
遠くの工房では。
カン。
カン。
タクミが鉄を打っていた。
まだ知らない。
王国も。
魔王軍も。
同じ命令を出している。
鍛冶師を探せ。
戦争は。
静かに。
変わり始めていた。
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