第11話 カティアの調査
昨日まで激戦が行われていた平原。
今は静かだった。
風だけが草を揺らしている。
地面には戦いの跡が残っていた。
折れた槍。
割れた盾。
そして――
剣。
折れた剣がいくつも転がっている。
そこへ一人の女が歩いてきた。
黒いローブ。
長い銀髪。
鋭い瞳。
魔王直属諜報官。
カティア。
後ろには数人の部下がいる。
カティアは立ち止まった。
足元の剣を見る。
王国軍の剣。
折れている。
彼女はそれを拾い上げた。
刃の途中から完全に破断している。
カティアは破断面を指でなぞった。
「魔力鋳造」
部下が頷く。
「王国軍の標準装備です」
カティアは剣を軽く振った。
ヒュン。
そして静かに言う。
「強度不足」
部下が聞く。
「分かるのですか」
カティアは短く答えた。
「破断面」
折れた部分を見せる。
「衝撃破断です」
剣を地面に戻す。
周囲を見渡す。
折れた剣がいくつもある。
カティアは呟く。
「激しく打ち合ったようですね」
数歩歩く。
そして。
別の剣を拾った。
今度の剣は折れていない。
刃は傷だらけだ。
だが。
折れていない。
カティアの目が細くなる。
「……これですね」
部下が言う。
「リアナ隊の剣です」
カティアは剣を持ち上げた。
バランスを確かめる。
ヒュン。
ヒュン。
二度振る。
「重量配分」
小さく呟く。
「優秀」
部下が驚く。
「分かるのですか?」
カティアは淡々と言う。
「私は魔力鋳造技師でもあります」
そして刃を軽く叩く。
カン。
澄んだ音が響いた。
カティアの表情がわずかに変わる。
「……なるほど」
部下が身を乗り出す。
「何か?」
カティアは言った。
「鍛冶製です」
部下が驚く。
「鍛冶?」
カティアは頷く。
「魔力鋳造ではありません」
「金属組織が違う」
部下は困惑した。
「ですが鍛冶では量産が……」
カティアは言う。
「できません」
そして静かに続ける。
「だから異常なのです」
剣を鞘に戻す。
「この武器」
少し考える。
「戦場を変えます」
部下が黙る。
カティアは歩き出した。
「リアナ隊を調べます」
数時間後。
城の兵舎。
リアナ隊の兵士たちは休んでいた。
そこへ黒いローブの女が入ってくる。
兵士たちが振り向く。
リアナが言う。
「誰ッス?」
カティアは答えた。
「魔王直属諜報官」
「カティアです」
兵士たちがざわつく。
リアナは腕を組んだ。
「諜報官が何の用ッスか」
カティアはリアナの剣を見る。
「質問があります」
「その剣」
リアナが腰の剣を軽く叩く。
「これ?」
カティアは頷く。
「どこで入手しましたか」
リアナは少し考えた。
「工房ッス」
カティアの目がわずかに動く。
「鍛冶師の名前は?」
リアナは答えた。
「タクミ」
沈黙。
カティアは小さく頷く。
「特定しました」
リアナが聞く。
「何の話ッス?」
カティアは言う。
「あなたの剣を作った人物」
「非常に優秀です」
リアナは笑った。
「知ってるッス」
カティアは続ける。
「魔王様に報告します」
リアナが首を傾げる。
「そんな大事ッスか」
カティアは静かに言った。
「はい」
少し間を置く。
「この鍛冶師は」
「国家資産です」
兵士たちがざわめく。
リアナは目を丸くした。
「そこまで?」
カティアは言う。
「この技術は」
「戦争の優位性になります」
そして振り返る。
「一つ忠告します」
リアナが聞く。
「何ッス?」
カティアの声が冷たくなる。
「王国も気づきます」
リアナの表情が少し変わる。
カティアは続けた。
「時間の問題です」
そして静かに言う。
「その前に」
「手を打ちます」
魔王城。
玉座の間。
カティアは跪いていた。
「報告します」
魔王が言う。
「話せ」
カティアは言った。
「剣は鍛冶製」
「強度は魔力鋳造の数倍」
魔王の目が細くなる。
「そこまでか」
カティアは続けた。
「結論を申し上げます」
一拍置く。
「この鍛冶師は」
「戦略兵器です」
玉座の間が静まり返る。
魔王は笑った。
「面白い」
カティアは言う。
「提案があります」
魔王が言う。
「言え」
「工房を後方へ移設してください」
魔王が聞く。
「理由は」
カティアは即答した。
「敵諜報対策」
「この技術は秘匿すべきです」
そして静かに言う。
「王国に知られる前に」
魔王は短く言った。
「許可する」
カティアは頭を下げる。
「了解しました」
魔王は最後に言う。
「鍛冶師を守れ」
カティアは答えた。
「承知しました」
その頃。
王国軍本陣。
騎士団長が報告を聞いていた。
「折れない剣」
副官が言う。
「鍛冶師がいる可能性があります」
騎士団長は短く言った。
「探せ」
副官が答える。
「すでに諜報部隊を出しました」
騎士団長は頷く。
だが。
遅かった。
魔王軍はすでに動いている。
カティアの命令で。
タクミの工房は――
後方へ移設されようとしていた。
戦争は。
静かに。
次の段階へ進み始めていた。
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