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「役立たず鍛冶師と言われた俺、武器改良したら戦死率が激減した」 〜仲間を死なせない戦場工房〜  作者: 街角のコータロー


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第88話「違和感」

草原を、風が渡っていた。


揺れる草の音だけが、耳に残る。


――静かすぎる。


神崎ユウマは、無意識に足を緩めた。


青空。

視界を遮るものは何もない。


だが――


「……おかしいな」


小さく呟く。


隣を歩く白石ミサキが顔を向けた。


「どうしたの?」


ユウマは周囲を見渡す。


「魔物がいない」


言われて、ミサキも気づく。


確かに。


ここは前線だ。

魔族領との境界付近。


本来なら、低級魔物くらいは徘徊しているはずだった。


なのに――


何もいない。


橘レンが低く言う。


「警戒しろ」


腕を組み、周囲を睨む。


「静かすぎる」


黒崎ガイが舌打ちする。


「ビビりすぎだろ」


だが、その声にもわずかな違和感が混じっていた。


いつもの軽さがない。


秋葉ソウタは、しゃがみ込んで地面に触れる。


「……足跡が少ない」


眼鏡の奥の目が細まる。


「最近、人の出入りがあった形跡が薄い」


「でも」


顔を上げる。


「“ゼロ”じゃない」


桐生カズマが頷く。


「消してるな」


短い一言。


その重さに、空気が沈む。


ユウマは空を見上げた。


雲は流れている。


風もある。


なのに――


「……音が変だ」


ぽつりと漏らす。


ミサキが耳を澄ます。


草の音。


それだけ。


それだけのはずなのに、どこか引っかかる。


「軽い……?」


自分でもよく分からない言葉が出る。


その時だった。


前を歩いていたレオンが、足を止めた。


一瞬で全員が止まる。


振り返らないまま、低く言う。


「全員、停止」


空気が張り詰める。


レオンはゆっくりと周囲を見渡した。


視線が草原をなぞる。


地形。

風向き。

死角。


そして――


小さく息を吐いた。


「なるほどな」


その声には、確信があった。


レンが問う。


「何がですか」


レオンは振り返る。


その目は鋭い。


「これは待ち伏せではない」


一拍。


「誘導だ」


その言葉が落ちた瞬間。


空気が変わった。


ソウタの目が見開かれる。


「……誘導?」


レオンは頷く。


「敵は“ここに来させた”」


静かに続ける。


「戦場を選ばれている」


ユウマの喉が鳴る。


「じゃあ……」


言葉が続かない。


レオンは短く言った。


「既に、囲まれている可能性が高い」


沈黙。


ミサキの指が、わずかに震えた。


その時――


草が揺れた。


一瞬。


影が走る。


「来るぞ!」


レンの声。


次の瞬間、魔族兵が飛び出した。


速い。


一直線にユウマへ。


ユウマは反射で剣を振るう。


金属音。


弾いた。


だが――


「っ!?」


敵は止まらない。


二撃、三撃。


速いが、荒い。


ガイが笑う。


「なんだ、雑魚じゃ――」


その言葉の途中で。


魔族兵は、跳んだ。


後方へ。


距離を取る。


一瞬、目が合う。


その目には――


焦りがあった。


そして。


振り返り、走る。


撤退。


「は?」


ガイが間の抜けた声を出す。


誰も追わない。


追えない。


あまりにも唐突だった。


静寂が戻る。


ソウタが呟く。


「……なんだ今の」


カズマが低く言う。


「試されたな」


ユウマは、剣を見つめていた。


さっきの感触。


確かに“手応え”はあった。


だが――


(殺しに来てない?)


違う。


違和感の正体が、はっきりしない。


その時。


レオンが言った。


「追うな」


即断だった。


「今のは“餌”だ」


レンが頷く。


「誘い込み……」


レオンは続ける。


「敵は戦術を使う」


視線が全員を射抜く。


「そして――」


一瞬、間を置く。


「仲間を見捨てない」


ユウマの心臓が強く鳴った。


さっきの魔族。


あの目。


あれは――


「……逃げたんじゃない」


気づいてしまう。


「戻った……?」


誰も答えない。


だが、その沈黙が答えだった。


カズマが言う。


「回収だな」


短い。


だが重い。


「部隊で動いてる」


つまり――


敵もまた


組織であり


意思を持ち


仲間を助ける


存在。


ミサキが小さく言う。


「……魔族って」


その言葉は、最後まで出なかった。


レオンが切る。


「認識を改めろ」


冷たい声。


「敵は“化け物”ではない」


一拍。


「兵士だ」


その言葉が、胸に刺さる。


ユウマは息を飲んだ。


自分の手を見る。


剣を握る手。


(じゃあ……)


さっきのは何だ。


何と戦った?


考えかけた、その時。


レオンが言う。


「桐生」


「索敵に出ろ」


カズマは一切迷わなかった。


「了解」


一歩、前へ。


そして振り返る。


ユウマたちを見る。


その目は、教師のものだった。


「動くなよ」


短く言う。


「今は“待つ”のが一番難しい」


そして、草原へと消えた。


その背中を、誰も止められなかった。


風が吹く。


また、草が揺れる。


さっきと同じ景色。


なのに――


もう同じには見えなかった。


ユウマは、無意識に呟く。


「……ここ」


喉が乾く。


「戦場なんだな」


誰も否定しなかった。


ただ、風の音だけが続いていた。




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