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「役立たず鍛冶師と言われた俺、武器改良したら戦死率が激減した」 〜仲間を死なせない戦場工房〜  作者: 街角のコータロー


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第85話 何を斬ったのか

 来る――はずだった。


 全員が、そう構えていた。


 草原の向こう。


 揺れる影。


 次の波。


 それを迎え撃つために、武器を構え、呼吸を整え――


 だが。


 ――来ない。


「……は?」


 ガイの間抜けな声が、妙に大きく響いた。


 影はある。


 確かにいる。


 だが。


 こちらに向かってこない。


 それどころか――


「……下がってる?」


 ミサキが呟く。


 信じられないものを見るように。


 ソウタが目を凝らす。


「なんで……」


 意味が分からない。


 敵だ。


 さっきまで、殺しに来ていた相手だ。


 なのに。


 カズマが、静かに言う。


「……回収だな」


「回収?」


 レンが振り返る。


 カズマは視線を動かさない。


「さっきの個体」


「……生きてる」


 その一言で。


 全員が気づく。


 視線が集まる先。


 草の中。


 数体の魔族が。


 一体を担ぎ上げている。


 動かない身体。


 だが――


 丁寧に。


 確実に。


 仲間として扱っている。


「……助けてるのかよ」


 ガイの声は低い。


 さっきまでの威勢はない。


 ただの困惑。


 レンの盾が、わずかに下がる。


「敵、だよな……?」


 確認するような声。


 誰も答えない。


 レオンが口を開く。


「当たり前だ」


 短く。


 断言。


「奴らも軍だ」


「組織で動いている」


「仲間がいる」


 一拍。


「――感情もある」


 その言葉は。


 重かった。


 沈むように。


 全員の中に落ちる。


 ユウマの手が、震える。


 剣を見る。


 さっきの戦い。


 目で追えなかった動き。


 必死で振った剣。


 確かな手応え。


 だが。


 倒したのは――


 自分じゃない。


 最後に仕留めたのは、レオンだ。


 自分たちは。


 ただ、必死に抗っていただけ。


「……じゃあ」


 声が出る。


 無意識に。


「俺たちが、さっき戦ってたのって……」


 言葉が続かない。


 頭の中で、何かが崩れている。


「……何なんだよ」


 敵。


 そう思っていた。


 魔族。


 そう教えられてきた。


 だが。


 今見た光景は――


 仲間を助ける存在。


 それは。


 自分たちと、何が違う?


 ミサキが小さく呟く。


「……人と、何が違うの……?」


 震える声。


 目が揺れている。


 ソウタが頭を押さえる。


「いや……でも……あいつら……」


 言葉がまとまらない。


 怖い。


 確かに怖かった。


 速くて。


 強くて。


 異形で。


 だが――


「……でも、助けてた……」


 それが、離れない。


 レンが歯を食いしばる。


「俺たちと……同じじゃないのかよ……」


 その一言で。


 空気が、完全に止まる。


 ユウマの胸が締め付けられる。


(同じ……?)


 じゃあ。


 自分は。


 何をしている?


 何をしようとしている?


 剣を見る。


 この剣で。


 さっき、自分は――


「……人を、斬ろうとしたのか……?」


 答えは出ない。


 出るはずがない。


 だが。


 その疑問は。


 確実に、心に刺さる。


 深く。


 抜けない。


「惚けるな」


 レオンの声が、叩きつけられる。


 全員が顔を上げる。


「戦場だ」


 視線が鋭い。


「今さら何を見た」


「何を知った」


「関係ない」


 冷たい。


 だが。


 現実だ。


「奴らは敵だ」


「こちらを殺しに来る」


「こちらも殺す」


「それだけだ」


 一歩、踏み出す。


「止まれば死ぬ」


「お前だけじゃない」


「隣も死ぬ」


 その言葉に。


 誰も反論できない。


 事実だからだ。


 カズマが、静かに前に出る。


 レオンの横。


 少しだけ視線を落とし。


 そして、六人を見る。


「……聞け」


 低い声。


 だが、よく通る。


「今感じてるそれは、間違いじゃない」


 一瞬、全員の表情が揺れる。


「むしろ、正常だ」


 カズマは続ける。


「敵に感情があると知って、迷う」


「当たり前だ」


 否定しない。


 逃がさない。


「だがな」


 そこで、声が少しだけ強くなる。


「そのまま戦場に立つな」


 言葉が重くなる。


「迷ったまま剣を振るうな」


「躊躇した瞬間、死ぬ」


 一拍。


「……俺は、それを何度も見てきた」


 静かに。


 だが確実に。


 重みがある。


 ソウタが息を呑む。


 ミサキの目が揺れる。


「お前らは強い」


「だが、戦争は“強いだけ”じゃ足りない」


 視線が鋭くなる。


「生き残る覚悟が要る」


「仲間を死なせない覚悟が要る」


 その言葉に。


 全員が、固まる。


「……守りたいなら」


 カズマは言う。


「迷いは、整理しろ」


「ここじゃない」


「戦場の外でやれ」


 はっきりと。


 断ち切るように。


「ここは、“決断する場所”だ」


 静寂。


 誰も何も言えない。


 言葉が、刺さっている。


 ユウマは。


 ゆっくりと剣を握り直す。


 震えは、消えていない。


 だが。


 目は、前を向く。


 答えは出ていない。


 出るはずもない。


 それでも。


 今は――


「……やるしか、ないのか」


 小さく呟く。


 誰も否定しない。


 レオンが短く言う。


「そうだ」


 それだけ。


 それが、全て。


 風が吹く。


 草が揺れる。


 その向こう。


 再び、影が動く。


 今度は――


 明確に、こちらへ。


 全員が構える。


 さっきとは違う。


 理解した上で。


 それでも、立つ。


 戦場に。



 それでも人は、剣を取る。



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