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「役立たず鍛冶師と言われた俺、武器改良したら戦死率が激減した」 〜仲間を死なせない戦場工房〜  作者: 街角のコータロー


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第84話 逆側の恐怖

 痛みが、遅れてやってきた。


 呼吸が、うまくできない。


 肺が焼けるようだ。


「……っ……」


 声にならない。


 視界が揺れる。


 空が見える。


 青い。


 あまりにも、綺麗で――


(なんで……だ)


 理解が追いつかない。


 さっきまで。


 自分は走っていた。


 あの“人間”に向かって。


 勇者に。


 勝てば。


 認められると思った。


(俺だって……)


 あの背中。


 炎を纏って突っ込んでいく女――リアナ。


 あの姿を、何度も見た。


(俺だって、ああなれるって……)


 思っていた。


 思い込んでいた。


 だが。


 現実は。


 ――一撃。


 それだけだった。


 速い。


 重い。


 理解する前に、叩き潰された。


「……化け物……」


 思わず、呟く。


 あれは。


 本当に、人間なのか。


 足音。


 複数。


 近づいてくる。


「いたぞ!」


 声。


 仲間だ。


 同じ隊の兵。


「生きてるか!?」


 顔が覗き込む。


 安堵の表情。


 だが、その奥にあるのは――恐怖。


「……やられ、た……」


 それだけで。


 全てが伝わる。


 仲間の顔が、強張る。


「やっぱり……」


 誰かが呟く。


「あれは、ダメだ」


 別の声。


「勇者だぞ……」


 低い声。


 震えている。


 担ぎ上げられる。


 体が軋む。


「退くぞ!」


 号令。


 誰も逆らわない。


 即座に撤退。


 迷いがない。


 それだけで分かる。


 ――勝てない。


 そう判断している。


 走りながら。


 誰かが言った。


「見たか……あの動き」


「ああ」


「目で追えなかった」


「剣も……なんだあれ」


「受けたら終わりだ」


 言葉が重なる。


 恐怖の共有。


 それは、静かに広がっていく。


「……悪魔だ」


 ぽつりと。


 誰かが言った。


 誰も否定しない。



 魔王軍前線。


 仮設の指揮所。


「報告します」


 膝をつく。


 運び込まれた兵の隣で。


 隊長が頭を下げる。


「勇者パーティと接敵」


 空気が変わる。


 その場にいた者たちの視線が集まる。


「被害は」


 冷たい声。


 氷のように整った響き。


 セレナだ。


「重傷一名」


「交戦時間、極短」


「……圧倒されました」


 沈黙。


 重い。


 その一言の意味を、全員が理解している。


「詳細を」


 セレナ。


 短く促す。


「速い」


 隊長は言う。


「そして重い」


「一撃で、前衛が崩される可能性があります」


 言葉を選ぶ。


 だが、隠さない。


「連携も未熟」


「ですが……個々の性能が高すぎる」


 一瞬、息を吸う。


「――正面からは、推奨できません」


 結論。


 明確。


 セレナは目を細める。


「なるほど」


 理解した。


 その一言。


 感情はない。


 だが。


 思考は、速い。


「ガルド」


 名を呼ぶ。


 巨体が動く。


「面白ぇじゃねぇか」


 口元が歪む。


 だが。


 その目は笑っていない。


「ぶっ壊し甲斐がある」


 戦意。


 だが同時に――警戒。


 ヴァルツが静かに口を開く。


「“勇者”か」


 指先で顎をなぞる。


「……厄介ですね」


 淡々と。


 だが、その声にはわずかな興味。


「情報を集めましょう」


「無駄にぶつける必要はありません」


 合理。


 それが全て。


 セレナが頷く。


「同意します」


「接触は最小限に」


「観測を優先」


 決定。


 速い。


 無駄がない。


「リアナは」


 誰かが言う。


 その名に。


 空気が少しだけ変わる。


「出さない」


 セレナは即答した。


「現時点では、まだ」


 切り札。


 使う場ではない。


 判断は冷静だ。



 その報告は。


 すぐに後方へと伝わる。



 魔王軍工房。


 火の音。


 鉄の匂い。


 いつもと変わらない空間。


 だが――


「……来たか」


 タクミが呟く。


 短く。


 手は止めない。


 槌を振るう。


 カン、カン、と音が響く。


「勇者パーティ」


 リゼが言う。


 淡々と。


 記録を見ながら。


「前線接触。結果、魔族側負傷」


「予測通り」


 無機質な声。


 だが。


 その奥で、思考が回っている。


 カティアが腕を組む。


「想定内、ね」


 静かに言う。


 だがその目は鋭い。


「問題はそこから先よ」


「“どこまで通用するか”」


 タクミは答えない。


 ただ。


 叩く。


 鉄を。


 形を作る。


 やがて。


 小さく言った。


「……通用はする」


 断言。


 だが。


「勝てるかは別だ」


 その一言に。


 空気が少しだけ重くなる。


 リゼが頷く。


「同意」


「現状、出力不足」


「改良余地あり」


 即座に次へ。


 止まらない。


 カティアが息を吐く。


「時間が足りないわね」


「戦場は待ってくれない」


 その通りだ。


 だから。


 タクミは叩く。


 止めない。


 ただ一つ。


 最高の一振りへ。



 その頃。


 前線では。


 再び影が揺れていた。



 人は、魔族を恐れる。


 魔族は、人を恐れる。


 そして。


 そのどちらから見ても――


 勇者は、異質だった。




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