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「役立たず鍛冶師と言われた俺、武器改良したら戦死率が激減した」 〜仲間を死なせない戦場工房〜  作者: 街角のコータロー


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第83話 初陣の空気

 胸の奥が、重い。


 その感覚のまま。


 一行は丘を越えた。


 視界が開ける。


 そこにあったのは――


 王国軍の駐屯地だった。


 木製の柵。


 即席の見張り台。


 粗雑に張られた天幕。


 旗は立っている。


 だが。


 そこに“華やかさ”はない。


 あるのは――疲労だ。


「……なんだよ、これ」


 ガイが小さく呟く。


 思っていたものと違う。


 もっとこう。


 整然とした軍。


 規律。


 威圧感。


 だが実際は――


 座り込む兵士。


 横になっている者。


 包帯を巻いた腕。


 血の匂い。


 鉄の匂い。


 ミサキが息を呑む。


「……怪我人が」


 その声に。


 一人の兵士が顔を上げる。


 疲れ切った目。


 だが。


 勇者たちを見ると、わずかに表情が変わる。


「……来たのか」


 小さく呟く。


 その声に、周囲も反応する。


 視線が集まる。


 期待。


 安堵。


 そして――


 どこか他人事のような空気。


「勇者様だ」


「本物か?」


「これで、少しは楽になるか……」


 ざわめき。


 だが。


 誰も立ち上がらない。


 歓声もない。


 ただ――


 見るだけだ。


 その視線に。


 ユウマは、少しだけ違和感を覚えた。


(……なんだ)


 期待されている。


 それは分かる。


 だが――


 それだけじゃない。


 どこか。


 諦めにも似た何か。


「整列!」


 鋭い声が響く。


 一瞬で空気が締まる。


 兵士たちが動く。


 無理やり立ち上がり、列を作る。


 そこに現れたのは――


 一人の将校だった。


「騎士団長殿」


 敬礼。


 レオンが軽く頷く。


「状況は」


「小競り合いが継続中です」


 即答。


「敵は数を絞って接触してきます」


「深追いはしてきません」


 レオンの目が細まる。


「偵察か」


「その可能性が高いかと」


 短い会話。


 だが。


 緊張が滲んでいる。


 レオンが視線を動かす。


 駐屯地全体を見る。


「被害は」


「軽傷多数」


 一瞬、言葉を選ぶ。


「……死亡者は、出ていません」


 だがその間で、分かる。


 ギリギリだと。


 レオンは頷く。


「勇者パーティを前線に回す」


 その言葉に。


 空気が変わる。


 兵士たちの目が変わる。


 期待が、強くなる。


「マジで……」


「助かる……」


 小さな声が漏れる。


 ユウマの胸が、重くなる。


(俺たちが……?)


 ここにいる全員の。


 命が。


 かかっている。


「ついて来い」


 レオンが歩き出す。


 六人も続く。



 駐屯地の奥。


 前線へと続く道。


 地面は踏み固められている。


 だが――


 所々、黒い。


 乾いた血。


 ソウタが目を逸らす。


「……これ、全部」


「昨日のだ」


 カズマが言う。


 淡々と。


 ソウタの喉が鳴る。


「……え」


「毎日だ」


 短く。


 それだけ。


 ソウタは何も言えなくなる。


 ガイも、黙る。


 軽口は出ない。


 レンが拳を握る。


 ミサキは目を伏せる。


 ユウマは、前を見る。


 足を止めない。


(……やるしかない)


 それしかない。



 やがて。


 前線が見えた。


 簡易の防壁。


 その向こう。


 広がる草原。


 静かだ。


 風が吹いている。


 あまりにも――静かすぎる。


「……敵、いなくね?」


 ガイが言う。


 小声で。


 確かに。


 何も見えない。


 気配もない。


 だが。


「油断するな」


 レオンが言う。


「いる」


 断言。


 その一言で、空気が張り詰める。


 カズマが目を細める。


 視線が動く。


 風。


 草。


 地面。


 すべてを見る。


「……来るぞ」


 低く言う。


 その瞬間だった。


 ――ザッ


 音。


 草が揺れる。


 一瞬。


 何も見えない。


 だが――


 次の瞬間。


 “現れた”。


 黒い影。


 地面から、這い出るように。


「――ッ!」


 ソウタが息を呑む。


 魔族。


 人型。


 だが、人ではない。


 歪んでいる。


 目が光る。


 口が裂けている。


「接敵!」


 レオンの声。


 一瞬で、世界が変わる。


「前衛、構え!」


 レンが前に出る。


 盾を構える。


 ガイが斧を振り上げる。


「来やがったな!」


 叫ぶ。


 だが。


 次の瞬間。


 魔族が“消えた”。


「――は?」


 ガイの目が見開く。


 消えた。


 そう見えた。


 だが。


「上だ!」


 カズマの声。


 同時に。


 影が落ちる。


 レンの頭上。


 魔族が、跳んでいる。


 速い。


 異常な速度。


「くっ――!」


 レンが盾を上げる。


 衝撃。


 鈍い音。


 体が沈む。


「重……ッ!」


 押し込まれる。


 ガイが横から斧を振る。


「どけぇッ!」


 だが――


 空振る。


 魔族はすでに動いている。


「なっ――!」


 速い。


 見えない。


「右!」


 カズマ。


 その声に反応して。


 ユウマが剣を振る。


 ――ガンッ


 金属音。


 弾いた。


 だが。


 腕が痺れる。


(重い……!)


 想像以上。


 強い。


「距離取れ!」


 レオンの声。


 六人が一歩引く。


 呼吸が乱れる。


 たった一撃。


 それだけで。


 理解する。


(……これが)


(戦場……)


 訓練とは、別物。


 完全に。


 別だ。


 ソウタが震える手で魔法を構える。


「い、行くぞ……!」


 詠唱。


 だが――


 焦りで噛む。


「くっ……!」


 魔力が乱れる。


 狙いが定まらない。


「落ち着け!」


 カズマの声。


「視ろ!」


 短く。


 強く。


 ソウタは歯を食いしばる。


 視る。


 風。


 位置。


 動き。


 そして――


「……そこだ!」


 魔法を放つ。


 光が走る。


 魔族の肩をかすめる。


「当たった……!」


 だが。


 浅い。


 致命には遠い。


 ミサキが手を掲げる。


「回復――」


 だが。


 言葉が止まる。


 誰を優先するか。


 一瞬、迷う。


 その一瞬が――


 長い。


「ミサキ!」


 ユウマの声。


「俺だ!」


「……うん!」


 回復光。


 ユウマの腕が軽くなる。


 だが。


 遅い。


 その間に。


 魔族はまた動いている。


 翻弄される。


 押し切れない。


 崩されかける。


(まずい……!)


 誰もが思う。


 その時。


 ――ドンッ


 衝撃。


 魔族の体が吹き飛ぶ。


 地面に叩きつけられる。


 動かない。


 静寂。


 全員が振り向く。


 そこにいたのは――


 レオン。


 剣を下ろしている。


「……これが現実だ」


 低く言う。


 六人を見る。


「一体でこの程度だ」


 その言葉が、重く刺さる。


 誰も、反論できない。


「気を抜けば死ぬ」


 それだけ言う。


 そして。


 視線を前に戻す。


「来るぞ」


 その一言。


 草原の向こう。


 再び――


 影が揺れた。



 初陣は。


 まだ、始まったばかりだった。




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