第78話 積み上げたもの
数ヶ月が過ぎた。
季節は巡り、空気はわずかに冷たさを帯びている。
王都の訓練場。
かつて無様に倒れ伏した場所に――六人は再び立っていた。
誰も、あの日と同じ顔をしていない。
ユウマは剣を握り直す。
掌に馴染む感触。
重さ。
違和感はない。
(……ちゃんと振れる)
ただそれだけのことが、あの頃とは違った。
視線を横に向ける。
レンがいる。
盾を構えている。
微動だにしない。
以前のような、危うさがない。
ガイは斧を肩に担いでいる。
無駄な力みが消えている。
ソウタは静かに呼吸を整えている。
魔力の流れを意識しているのが分かる。
ミサキは少し後ろ。
だが、視線は前を見据えている。
そして――
カズマ。
変わらないようでいて、一番変わっている。
余計な動きが、さらに削ぎ落とされている。
研ぎ澄まされている。
「……揃ったな」
低い声。
レオンが現れる。
全員の視線が集まる。
「数ヶ月。好きに鍛えさせた」
その言葉に、誰も軽くは頷かない。
“好きに”ではない。
地獄だった。
「成果を見せろ」
短い。
だが十分だった。
「王国兵を用意してある」
視線の先。
訓練用の装備をした兵士たちが並んでいる。
十数名。
決して弱くはない。
実戦経験もある。
あの日の自分たちなら――
間違いなく、負けていた。
「一対多数だ」
レオンが言う。
「連携しろ」
その一言で、空気が締まる。
ユウマは小さく息を吐く。
(やるしかない)
「……行くぞ」
誰に言うでもなく呟く。
だが――
「当たり前だ」
ガイが笑う。
「遅ぇんだよ、声かけんのが」
「すみません、ユウマ」
レンが軽く頭を下げる。
「合わせます」
「おう、任せろ」
ソウタが手を上げる。
「今回は外さねぇから」
「……回復、ちゃんと出します」
ミサキが小さく言う。
その声は、もう震えていない。
カズマは何も言わない。
ただ、一歩前に出る。
それだけで、全員の意識が揃う。
「始め」
レオンの声。
同時に――動く。
⸻
先に踏み込んだのは、ガイだった。
「オラァ!!」
斧を振る。
だが、ただの力任せではない。
踏み込み。
間合い。
タイミング。
全てが計算されている。
兵士が盾を構える。
受ける――
その瞬間。
ガイの動きが変わる。
軌道がずれる。
フェイント。
体勢を崩した兵士の横を――
ユウマが抜ける。
「っ!」
剣が閃く。
喉元で止まる。
一人、戦闘不能。
「いい連携だ」
レオンの声。
だが戦いは止まらない。
二人目、三人目が同時に来る。
ユウマが受ける。
重い。
だが――
(見える)
以前よりも。
動きが。
わずかに、だが確実に。
そこへ――
「右、二!」
ソウタの声。
直後。
火球が飛ぶ。
正確に。
兵士の進路を塞ぐ。
「おいおい、マジかよ」
ガイが笑う。
「当たってんじゃねぇか!」
「制御してるからな!」
ソウタが叫ぶ。
その間にも、魔法は続く。
当てるためではない。
“動かす”ため。
敵を誘導する。
空いた位置に――
レンが入る。
「ここは通しません」
盾を構える。
兵士の剣が叩きつけられる。
衝撃。
だが――
動かない。
以前のように弾かれない。
踏み込む。
押す。
「……!」
兵士の体勢が崩れる。
その隙を――
カズマが拾う。
音もなく背後に回る。
短剣。
首元で止まる。
「二人」
静かな声。
無駄がない。
圧倒的な処理速度。
だが――
それだけじゃない。
ミサキが手をかざす。
「ヒール」
光が走る。
ユウマの腕のかすり傷が、すぐに塞がる。
「……助かる」
短く言う。
ミサキは小さく頷く。
(届いてる)
今は、ちゃんと。
必要な場所に。
必要な分だけ。
⸻
戦闘は続く。
だが――
流れは完全にこちらにある。
連携が噛み合っている。
誰も無駄な動きをしない。
カバーが入る。
崩れない。
そして――
最後の一人。
ガイが斧を振る。
兵士が避ける。
だがそれは――
“誘導された回避”。
その先にいるのは――
「終わりです」
レン。
盾で押し込み、動きを止める。
ユウマが踏み込む。
剣を突きつける。
勝負あり。
⸻
静寂。
全員が、息を吐く。
肩で息をしている。
だが――
立っている。
誰も倒れていない。
レオンが歩み寄る。
しばらく無言で全員を見る。
そして――
「合格だ」
短く言った。
その一言で、空気が緩む。
ガイが笑う。
「はっ……やっとかよ」
その場に座り込む。
「いやキツすぎだろこれ……」
ソウタもその場にへたり込む。
「でも……」
ミサキが手を見る。
光はもう消えている。
だが、確かに使えた。
「ちゃんと、できました」
小さく呟く。
レンは静かに頷く。
「ええ。守れました」
ユウマは剣を収める。
胸の奥が、熱い。
(……強くなった)
間違いなく。
あの日より。
だが――
視線を上げる。
レオンがいる。
その目は、変わらない。
「だが」
一言で、空気が戻る。
「まだだ」
全員が顔を上げる。
「今のは“兵士”相手だ」
その言葉が、重く落ちる。
「戦場は、そんなに甘くない」
沈黙。
誰も反論できない。
「連携は形になった」
「だが――」
一人一人を見る。
「お前たちは、まだ“武器を使えていない”」
その言葉の意味は、まだ分からない。
だが――
軽くはない。
「次の段階に進む」
レオンが言う。
空気が張り詰める。
「覚悟しろ」
短く、それだけ。
⸻
夕焼けが、訓練場を赤く染めていた。
六人は並んで立つ。
疲労はある。
だが、それ以上に――
手応えがある。
(やれる)
ユウマは思う。
(このメンバーなら)
だが同時に。
胸の奥に、わずかな違和感が残る。
(……まだ、何か足りない)
その正体は分からない。
だが――
レオンの言葉が、それを示している。
⸻
“武器を使えていない”
⸻
その意味を知る時。
彼らは、さらに一段上へと進むことになる
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