表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「役立たず鍛冶師と言われた俺、武器改良したら戦死率が激減した」 〜仲間を死なせない戦場工房〜  作者: 街角のコータロー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

76/100

第76話 折れない盾と、振り抜けない斧

 石畳を踏みしめる音が、規則正しく響いていた。


 王都の一角、聖騎士隊の訓練場。


 整然と並ぶ白銀の盾。揃った足運び。無駄のない動き。


 その中で――


 レンだけが、明らかに遅れていた。


「遅い」


 低い声が飛ぶ。


 聖騎士隊長の男は、感情を乗せずに言った。


「もう一度」


「……はい!」


 レンは盾を構え直す。


 腕が重い。


 昨日の訓練で、すでに限界に近い。


 だが――


(落とさない)


 歯を食いしばる。


 盾を前に出す。


 踏み込む。


「来い」


 隊長が軽く剣を振る。


 その一撃。


 ただそれだけで――


 ドンッ!!


「くっ……!」


 衝撃。


 足が滑る。


 体勢が崩れる。


 だが――


 落とさない。


 昨日とは違う。


 指に、力を込める。


「……ほう」


 わずかに、隊長の眉が動いた。


「だが――甘い」


 二撃目。


 角度が変わる。


 予測が遅れる。


 ガンッ!!


 盾が弾かれる。


「っ……!」


 腕が痺れる。


 視界が揺れる。


 だが――


 まだ、離さない。


「三撃目」


 来る。


 分かっている。


 だが体が追いつかない。


 衝撃。


 吹き飛ぶ。


 背中から石畳に叩きつけられる。


「がっ……!」


 息が詰まる。


 肺が空になる。


 動けない。


 空が見える。


 青い。


 やけに遠い。


「終わりだ」


 隊長の声。


 淡々としている。


 評価でも、否定でもない。


 ただの結果。


 レンはゆっくりと起き上がる。


 腕が震えている。


 盾が重い。


 それでも――


 拾う。


 構える。


「……もう一度、お願いします」


 声は震えていた。


 だが、折れてはいない。


 隊長は数秒、レンを見た。


「いいだろう」


 短く答える。


 そして――


「盾とは、守るためのものではない」


 レンの動きが止まる。


「……え?」


「守る“だけ”では、必ず崩される」


 隊長は一歩、踏み出す。


「押し返せ」


 その言葉と同時に、剣が来る。


 反射的に受ける。


 衝撃。


 だが――


「違う」


 止めるだけじゃない。


 押す。


 前に。


 力を込める。


 わずかに。


 ほんのわずかに――


 剣が止まる。


 押し返す感触。


「……!」


 初めての手応え。


 だが次の瞬間、崩される。


 それでも――


 レンの目に、光が宿る。


(今……止めた)


 ほんの一瞬でも。


 確かに。


 止めた。


「続けろ」


 隊長の声。


 レンは頷く。


「はい!」


 再び構える。


 何度でも。


 倒れても。


 盾を落とさないために。


 いや――


 押し返すために。



 一方、その頃。


 王都外縁。


 土煙が舞う荒れ地。


「振れ」


 低い声。


 無骨な男が腕を組んでいる。


 攻城部隊の隊長。


 その前で――


 ガイが斧を握っていた。


「オラァ!!」


 全力で振る。


 空気を裂く音。


 だが。


 スカッ。


 外れる。


「止まるな」


「分かってるっての!」


 もう一度。


 振る。


 振る。


 振る。


 だが。


 当たらない。


 重い斧。


 勢いに引っ張られる体。


 バランスが崩れる。


 足がもつれる。


 転ぶ。


「チッ……!」


 砂を噛む。


 口の中がじゃりっとする。


「遅い」


 隊長が言う。


「お前のは“振っている”だけだ」


「はぁ?」


 ガイが顔を上げる。


「当たらなきゃ意味ねぇだろ!」


「当たらない振りに意味はない」


 そのまま続ける。


「敵は壁じゃない。動く」


 ガイは立ち上がる。


「だから当てるんだろうが!」


「違う」


 一言で切り捨てられる。


「当てるのではない」


 一歩、近づく。


「当たる位置に持っていけ」


 ガイの眉がひそまる。


「……どういう意味だ」


 隊長は無言で棒を投げる。


「来い」


「……上等だ!」


 ガイが突っ込む。


 斧を振る。


 だが。


 スッと避けられる。


 また空振り。


 その瞬間――


 足を払われる。


 ドサッ!!


「ぐっ……!」


 転ぶ。


「今のは?」


「……避けられた」


「違う」


 隊長は言う。


「“避けさせた”」


「……は?」


「お前の動きは単純だ」


 ガイを見下ろす。


「だから読まれる」


 そのまま続ける。


「だが――」


 棒を構える。


「動きを作れ」


 ガイが立ち上がる。


「……やってみろよ」


 次の瞬間。


 隊長が踏み込む。


 一歩。


 フェイント。


 ガイが反応する。


 その逆。


 ドンッ!!


「がっ……!」


 腹に一撃。


 息が止まる。


「こうやって崩す」


 淡々と。


「相手の動きを“誘導”する」


 ガイは膝をつく。


 呼吸ができない。


 だが――


 笑う。


「……面白ぇじゃねぇか」


 口の端を上げる。


 立ち上がる。


「もう一回だ」


 斧を握る。


 さっきとは違う。


 少しだけ。


 ほんの少しだけ。


 考えている。


 振る。


 フェイントを入れる。


 踏み込みを変える。


 タイミングをずらす。


 それでも。


 まだ当たらない。


 それでも――


「いい」


 隊長が言う。


「今のは“考えている振り”だ」


「振りじゃねぇよ!」


「なら続けろ」


 短い。


 だが、それで十分だった。


 ガイは笑う。


「言われなくてもな!」


 斧を振る。


 何度も。


 何度も。


 地面が抉れる。


 腕が悲鳴を上げる。


 それでも止めない。


(当ててやる)


 その一心で。



 夕暮れ。


 空が赤く染まる。


 聖騎士隊の訓練場。


 レンは膝をついていた。


 汗で髪が張り付いている。


 腕はもう上がらない。


 だが。


 盾は、手の中にある。


 落としていない。


「今日はここまでだ」


 隊長の声。


 レンは深く頭を下げる。


「ありがとうございました……!」


 そのまま倒れ込む。


 空が滲む。


(……少しだけ)


 思う。


(ほんの少しだけ、前に進んだ)


 そう信じたい。



 同じ頃。


 荒れ地。


 ガイは地面に倒れていた。


 斧が横に転がっている。


 全身が痛い。


 腕が動かない。


「終わりだ」


 隊長が言う。


 ガイは笑う。


「……クソが」


 だがその目は、死んでいない。


 むしろ――


 燃えている。


(当ててやる)


(絶対に)


 拳を握る。


 砂がこぼれる。



 夜。


 それぞれの場所で。


 二人は、同じことを思っていた。



(まだ足りない)



 だが。


 確実に、何かが変わり始めていた。




もし「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら、ブックマークや評価、感想などをいただけると執筆の励みになります! よろしくお願いいたします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ