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「役立たず鍛冶師と言われた俺、武器改良したら戦死率が激減した」 〜仲間を死なせない戦場工房〜  作者: 街角のコータロー


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第75話 分解

静まり返った訓練場に、乾いた風が吹いた。


 誰も、すぐには立ち上がれなかった。


 地面に転がったまま、荒い呼吸だけが響いている。


 ――完全敗北。


 それ以外の言葉が見つからない。


 ユウマは仰向けのまま、空を見ていた。


 青い。


 やけに、青い。


(……何もできなかった)


 剣は握っていたはずだ。


 動いたはずだ。


 だが結果は――この有様だ。


 視界の端で、ガイが地面を殴っている。


「クソが……っ!」


 斧は少し離れた場所に突き刺さったままだ。


 レンは盾を拾い上げていた。


 その手は、わずかに震えている。


「……私が、落とすなんて……」


 ソウタは座り込んだまま笑っていた。


「はは……無理ゲーだろ、これ……」


 ミサキは俯いている。


「……ごめん……回復、出なかった……」


 誰も、互いに目を合わせない。


 空気が、重い。


 そして――


「立て」


 レオンの声。


 低く、短く。


 命令。


 ユウマは歯を食いしばり、体を起こした。


 全員が、ゆっくりと立ち上がる。


 足元が不安定だ。


 それでも、立つ。


 レオンは全員を見渡した。


 その視線には、怒りも、失望もない。


 ただ、事実を見ているだけの目。


「確認する」


 一拍。


「お前たちは、弱い」


 言い切った。


 誰も反論できない。


「連携以前の問題だ」


 その通りだった。


 連携など、そもそも成立していない。


 各自が勝手に動き、勝手に崩れた。


「だが」


 レオンが続ける。


「それは異常ではない」


 意外な言葉だった。


 ユウマが顔を上げる。


「当然だ」


 レオンは淡々と言う。


「戦場を知らない。技術も未熟。経験もない」


「むしろ、あれで何とかなると思う方が間違いだ」


 ぐうの音も出ない。


 正論だった。


「だから」


 レオンが一歩、前に出る。


「分ける」


「……え?」


 ソウタが声を漏らす。


「今のままでは、何も積み上がらない」


「全員を同時に鍛えるのは非効率だ」


 視線が、一人一人に向けられる。


「お前たちは未熟だ。だから分解する」


 その言葉が、重く落ちた。


「分解……」


 ミサキが不安げに呟く。


「個別に最適化する」


 レオンは続ける。


「それぞれの適性に合わせ、専門家の元で鍛える」


 空気が、ざわつく。


 つまり――


「……別行動、ってことかよ」


 ガイが言う。


「そうだ」


 即答だった。


 ガイが舌打ちする。


「チッ……面倒くせぇな」


「面倒でもやる」


 レオンは一切揺れない。


「やらなければ、お前たちは戦場で死ぬ」


 その一言で、全員が黙った。


 軽口が消える。


 現実が、突きつけられる。


「配置を言う」


 レオンの声が、空気を締める。


「レン」


「……はい」


「聖騎士隊へ配属する」


 レンの目が見開かれる。


「防御の専門だ。お前の盾を完成させろ」


「……了解しました!」


 声に、わずかに力が戻る。


「ガイ」


「おう」


「攻城部隊だ」


「は?」


 ガイが眉をひそめる。


「壁を砕き、敵陣を崩す部隊だ」


「力の使い方を叩き込まれる」


 ガイは一瞬黙り、そして笑った。


「面白ぇじゃねぇか」


「ぶっ壊す方が得意だ」


 だがその目は、どこか真剣だった。


「ミサキ」


「は、はい!」


「教会に行け」


「司祭の下で回復術を学べ」


「……はい」


 ミサキは小さく頷く。


 不安は消えていない。


 だが逃げてはいない。


「ソウタ」


「お、俺か」


「宮廷魔導士に預ける」


 ソウタが息を呑む。


「魔法の制御、演算、すべて叩き直せ」


「……ガチじゃん」


 苦笑い。


 だがその目は、どこか嬉しそうでもあった。


「カズマ」


 その名を呼ぶと、空気が少しだけ変わる。


「王国軍暗部だ」


「了解」


 即答。


 迷いがない。


 当然のように受け入れる。


 ユウマはその横顔を見る。


(……やっぱり、違う)


 どこか、全員と違う。


 同じ場所に立っているのに、見ている景色が違う。


「そして――」


 最後に視線が来る。


「ユウマ」


「……はい」


「お前は俺のところに来い」


 予想外だった。


「俺が直接見る」


 心臓が跳ねる。


「……分かりました」


 声が少しだけ硬い。


「以上だ」


 レオンは言い切る。


「明日から各配属先へ移動する」


 あまりにも、あっさりと。


 決まった。


 そのまま、背を向ける。


「待ってください!」


 ミサキの声。


 レオンが止まる。


「その……」


 言葉を探す。


「みんな……バラバラになっちゃうんですか……?」


 静寂。


 誰も口を挟まない。


 レオンは振り返らないまま答える。


「今のまま一緒にいても、意味はない」


 冷たい言葉。


 だが、嘘はない。


「強くなれ」


「話はそれからだ」


 それだけ言って、レオンは去った。


 残された六人。


 沈黙。


 誰もすぐには動けない。


「……なんかさ」


 ソウタが呟く。


「ゲームでパーティ解散させられるやつみたいだな」


「笑えねぇよ」


 ガイが吐き捨てる。


 レンは静かに言う。


「でも……必要なことです」


 自分に言い聞かせるように。


 ミサキが小さく頷く。


「……うん」


 ユウマは拳を握る。


(弱いから、分けられた)


 それだけのことだ。


 カズマが一歩、前に出る。


「いい判断だ」


 ぽつりと言う。


「……そうなんですか?」


 ユウマが聞く。


「ああ」


 短く答える。


「今のままじゃ、全員まとめて死ぬ」


 事実だった。


「分けて、生かす」


「合理的だ」


 その言い方は、どこまでも現実的だった。


「……先生は」


 ユウマが口にする。


 カズマはわずかに視線を向ける。


「強くなれたんですか」


 一瞬、沈黙。


 そして――


「必要だったからな」


 それだけ言った。


 多くを語らない。


 だが、その一言で十分だった。


 ユウマは頷く。


(……やるしかない)


 それぞれが、それぞれの場所へ行く。


 ここで終わりじゃない。


 むしろ、ここからだ。


 風が吹く。


 訓練場の土を巻き上げる。


 六人は、それぞれ違う方向を見ていた。


 同じ場所に立っているのに。


 もう、同じではいられない。


 それでも――


 また、集まるために。


 強くなる。


 そのために、分かれる。


(次に会う時は)


 ユウマは静かに思う。


(今より、少しでも――)


 握った拳に、力を込めた。



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