第66話 勇者という切り札
魔王城、玉座の間。
高い天井に響くのは、重厚な沈黙だった。
黒曜石の柱が並び、玉座の奥には巨大な魔族の紋章。
その中央――
魔王が静かに座している。
その前には四天王。
炎将バルグ。
氷姫セレナ。
獣王ガルド。
闇宰相ヴァルツ。
そして。
鍛将タクミ。
リアナ。
リゼ。
魔王が口を開いた。
「集まってもらったのは他でもない」
低く、重い声。
「勇者の話だ」
空気が引き締まる。
ヴァルツが一歩前に出た。
「諜報部隊の報告です」
「王国は勇者の育成を急いでおります」
魔王は頷く。
「知っている」
ヴァルツは続けた。
「かなり急ピッチです」
「通常では考えられない速度で訓練が進められております」
ガルドが鼻を鳴らす。
「へぇ」
「そんなに急ぐ理由があんのか?」
ヴァルツは静かに言った。
「あります」
「戦力差です」
玉座の間が静まる。
ヴァルツは続ける。
「王国は理解しています」
「正面戦力では魔王軍に勝てない」
セレナが腕を組む。
「だから勇者に賭ける」
ヴァルツは頷いた。
「その通りです」
魔王が言う。
「勇者は王国の切り札」
「今までもそうだった」
リアナが小さく呟く。
「今までも……?」
魔王は頷く。
「勇者召喚は初めてではない」
その言葉に、タクミの眉がわずかに動く。
魔王は続けた。
「人間は幾度も勇者を召喚してきた」
「そしてその度に」
一拍。
「神造兵器を授けられる」
リアナが言う。
「神造兵器……」
セレナが視線を細める。
「神が勇者に与える武器」
魔王は頷いた。
「そうだ」
タクミが口を開く。
「勇者の武器を、調べた」
全員の視線が向く。
タクミは腕を組んだ。
「再現は無理だ」
バルグが言う。
「やはりか」
タクミは続ける。
「構造が違う」
「神性が宿ってる」
「人の鍛冶じゃ届かない」
玉座の間が静まる。
魔王はゆっくり頷いた。
「それが神造兵器だ」
ヴァルツが補足する。
「歴代勇者も同じです」
「必ず神造兵器を携えていました」
バルグが腕を組む。
「つまり」
「それで毎回戦局ひっくり返されてきたわけだ」
魔王は否定しない。
「そうだ」
リアナが歯を食いしばる。
「そんなのズルいッス……」
セレナは静かに言う。
「戦争にズルも何もないわ」
魔王が続けた。
「だが」
「神造兵器を持つのは勇者だけではない」
リアナが目を瞬く。
「え?」
ヴァルツが小さく笑う。
「そうですね」
魔王は言う。
「我も持っている」
玉座の間に小さなざわめき。
リアナ
「魔王様もッスか!?」
魔王は頷いた。
「神造兵器」
「魔王の証だ」
リゼが小さく呟く。
「……解析」
タクミが言う。
「ああ」
「リゼに貸してもらった」
リアナが思い出す。
「あの研究してた武器ッスね!」
セレナがタクミを見る。
「何か分かった?」
タクミは少し考える。
そして言った。
「勇者の武器と同じ」
ガルド
「ってことは」
タクミ
「神が作った武器だ」
玉座の間が静まる。
だが。
タクミは続けた。
「ただし」
「一つ違う」
魔王が目を細める。
「ほう」
タクミは言う。
「魔王の神造兵器」
「魔王城でしか使えない」
リアナ
「え」
ヴァルツが頷いた。
「その通りです」
魔王は淡々と言う。
「制限だ」
「我の神造兵器は」
「この城の外では力を発揮しない」
リアナが言う。
「なんでッスか!?」
魔王は静かに答えた。
「世界のルールだ」
その言葉に、誰もすぐに返せなかった。
魔王は続ける。
「勇者の武器はどこでも使える」
「だが魔王の武器は城に縛られる」
セレナが言う。
「……つまり」
魔王は言った。
「世界は勇者が勝つように出来ている」
重い沈黙が落ちた。
ガルドが舌打ちする。
「気に入らねぇな」
ヴァルツは苦笑する。
「ですが、それが現実です」
リアナがタクミを見る。
「じゃあ……」
「どうするッスか」
タクミは短く言う。
「作る」
リアナ
「え?」
タクミは炉を見るような目で言った。
「神造兵器に届く武器」
セレナが少し笑う。
「簡単に言うじゃない」
タクミ
「簡単じゃない」
「でもやる」
魔王が言う。
「宝物庫の素材を使え」
タクミは頷く。
「オリハルコン」
「アダマンタイト」
「古龍素材」
「全部試す」
魔王はしばらくタクミを見ていた。
そして言う。
「それでも足りなければ」
玉座の間が静まる。
魔王は続けた。
「初代魔王の心臓を使え」
リアナ
「えっ!?」
ガルド
「マジか」
セレナの目が細くなる。
リゼは静かに呟く。
「……危険」
魔王は頷いた。
「危険だ」
「だが」
その声が低くなる。
「もし扱えるなら」
一拍。
「使え」
玉座の間に重い空気が広がる。
魔王はタクミを見た。
「鍛将」
タクミは魔王を見る。
魔王は言った。
「作れ」
「世界最強の武器を」
沈黙。
タクミは少しだけ考えた。
そして言う。
「……分かった」
リアナが拳を握る。
「絶対作るッス!」
バルグはタクミの肩を叩きながら
「期待している」
ガルドが笑う。
「面白くなってきたじゃねぇか」
セレナは小さく言う。
「神と鍛冶の勝負ね」
ヴァルツは静かに微笑んだ。
「興味深い」
魔王は玉座から立ち上がった。
「戦は近い」
その声が広間に響く。
「備えよ」
四天王が同時に膝をつく。
「「はっ!!」」
会議は終わった。
だが。
タクミの頭の中では、もう別の音が響いていた。
ドクン。
宝物庫で見た心臓。
ドクン。
初代魔王。
そして――
神造兵器。
タクミは小さく呟く。
「……やってやる」
炉の炎のような光が、その目の奥に灯っていた。
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