第64話 神造兵器の壁
魔王城、地下。
新しく与えられたタクミの政務室兼工房では、炉の炎が静かに揺れていた。
ゴォ……。
低く唸る炎の前で、タクミは腕を組んで立っている。
机の上には三つの素材が並んでいた。
虹色に輝く鉱石。
オリハルコン。
闇を固めたような黒い鉱石。
アダマンタイト。
そして――
古代勇者の武器の欠片。
リアナがそれを覗き込む。
「こうして並べると……なんか、世界の終わりみたいな素材ッスね」
タクミは苦笑した。
「鍛冶師から見れば宝の山だ」
リゼは既に机に張り付いていた。
目が輝いている。
「……解析する」
「頼む」
リゼは小さな水晶の魔道具を取り出した。
透明な水晶球。
それをオリハルコンに近づける。
すると――
水晶が淡く光った。
リアナが目を丸くする。
「おぉ」
リゼが短く呟く。
「……魔力密度」
「高い」
タクミが頷く。
「やっぱりな」
「ミスリルの何倍だ?」
リゼは少し計測して答える。
「……三倍以上」
リアナが思わず声を上げた。
「三倍!?」
タクミは説明する。
「つまり、ミスリル武器に微量混ぜるだけで性能が跳ね上がる」
「魔力伝導、耐久、全部だ」
リアナは腕を組んだ。
「それってめちゃくちゃ強くなるッスよね?」
タクミは頷く。
「間違いなく強くなる」
「だが――」
そこで言葉を止めた。
リアナが首を傾げる。
「だが?」
タクミは隣の鉱石を指差した。
アダマンタイト。
闇のような黒。
リゼがすぐに解析を始める。
水晶がまた光る。
「……硬度」
「異常」
タクミが頷く。
「刃こぼれしない金属だ」
リアナが感心する。
「無敵じゃないッスか」
リゼは首を振った。
「……重い」
タクミが補足する。
「だからミスリルと混ぜる」
「軽さと硬さのバランスを取るんだ」
リアナはしばらく考えた。
「つまり」
「オリハルコンとアダマンタイトを使えば」
「勇者にも勝てるッス?」
工房の空気が少し静かになった。
タクミは答えない。
代わりに机の上の欠片を見た。
古代勇者の武器の破片。
「……本命はこっちだ」
リゼも頷く。
「……勇者武器」
タクミは言う。
「解析できるか?」
リゼは即答した。
「やる」
水晶を欠片に近づける。
その瞬間。
水晶が強く光った。
リアナが思わず身を引く。
「うおっ!?」
リゼの表情がわずかに変わる。
「……反応」
「強い」
タクミも身を乗り出した。
「どんな構造だ」
水晶の中に複雑な紋様が浮かび上がる。
魔力回路。
だが――
それだけではない。
タクミの眉が動いた。
「……なんだこれは」
リゼも覗き込む。
「……普通じゃない」
リアナが言う。
「何がッス?」
タクミはゆっくり言った。
「この武器」
「普通の魔力だけで動いてない」
リゼが一言。
「……神性」
リアナが目を瞬かせる。
「神?」
タクミは頷いた。
「勇者の武器は神から与えられる」
「つまり」
「神の力が宿ってる」
リアナの顔が少し強張った。
「それって……」
「ズルじゃないッス?」
タクミは苦笑した。
「まあ、そうとも言える」
リゼは黙って解析を続ける。
しばらくして、呟いた。
「……再現」
「不可能」
タクミも頷いた。
「だろうな」
リアナが慌てて聞く。
「ちょっと待つッス」
「それってつまり」
「勝てないってことッスか?」
工房の炉がゴォ、と鳴った。
タクミは少し沈黙した。
そして正直に言った。
「今のミスリル武器じゃ」
「届かない」
リアナの顔が固まる。
「え」
リゼも小さく頷いた。
「……同意」
タクミは机を指で叩く。
コン。
「オリハルコンを混ぜても」
「アダマンタイトを混ぜても」
「確実に強くなる」
リアナ
「でも?」
タクミ
「神造兵器には届かない」
その言葉は重かった。
リアナは拳を握る。
「そんな……」
リゼは欠片を見つめたまま言う。
「……差」
タクミは静かに言った。
「だが」
「ヒントはある」
リアナが顔を上げる。
「ヒント?」
タクミは欠片の紋様を指でなぞった。
「この構造」
「完全再現は無理だ」
リゼ
「……でも」
タクミ
「近づけることはできる」
リアナの目が少し明るくなる。
「本当ッスか?」
タクミは頷いた。
「研究が必要だ」
「素材も必要だ」
リゼが短く言う。
「……宝物庫」
リアナは腕を組み、ニヤリと笑った。
「よし」
「全部試すッス!」
タクミは苦笑した。
「気合いだけは十分だな」
リアナ
「タクミが武器作るなら」
「絶対勝てるッス!」
その言葉にタクミは少し黙った。
炉の炎を見る。
揺れる炎。
その奥で、ふと――
ある光景が浮かんだ。
宝物庫。
巨大なガラス容器。
赤黒い心臓。
ドクン。
タクミは小さく呟いた。
「……神の力、か」
リゼが顔を上げる。
「?」
タクミは首を振った。
「いや」
そして欠片を握る。
勇者の武器。
神造兵器。
タクミは炉の炎を見つめた。
「……届かない、か」
だが。
鍛冶師はそこで諦めない。
タクミは静かに言った。
「なら」
「届く武器を作るだけだ」
ゴォォ……。
炉の炎が一瞬、大きく揺れた。
まるで――
鍛冶師の闘志に呼応するかのように。
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