第62話 魔王城地下宝物庫
魔王城の廊下を、タクミは歩いていた。
隣にはカティア。
後ろにはリアナとリゼ。
先ほどまで、魔王から与えられた新しい政務室兼工房を見て回っていたところだった。
設備は完璧だった。
炉。
鍛造台。
冷却槽。
魔力制御装置。
どれも一級品。
タクミは頭を掻いた。
「……なんか申し訳ないな」
リアナが笑う。
「何言ってるッスか!タクミのための場所ッスよ!」
リゼも小さく頷く。
「……最高環境」
カティアは静かに言った。
「魔王様は、タクミさんの仕事が魔王軍にとって非常に重要だと判断されています」
「そう言われるとプレッシャーだな」
タクミは苦笑した。
だが――
ふと思い出したように口を開く。
「そういえばカティア」
「はい」
「魔王城の地下に宝物庫があるって言ってたよな」
カティアは頷く。
「はい。ございます」
リアナの目が輝いた。
「宝物庫!?」
「なんかすげぇ物ありそうッス!」
タクミは肩をすくめた。
「鍛冶師としては鉱石が気になる」
リゼが一言。
「……見たい」
カティアは少し考えたあと、言った。
「では、ご案内しましょう」
四人は廊下の奥へ進む。
城の中心部を抜け、さらに奥へ。
やがて――
石の階段が現れた。
下へと続く長い階段。
リアナが見下ろす。
「地下ッスね」
カティアは答える。
「はい。宝物庫は城の地下深くにあります」
四人は階段を降りていく。
足音だけが静かに響く。
しばらく進むと――
巨大な鉄扉が現れた。
高さ三メートル以上。
分厚い金属。
リアナが思わず口を開く。
「うわ……」
「めちゃくちゃ頑丈そうッス」
カティアが手をかざす。
魔法陣が浮かび上がる。
重い音。
ガゴン。
ゆっくりと扉が開いた。
そして――
その先の光景を見て、タクミは思わず立ち止まった。
「……」
広い。
とにかく広い。
巨大な空間。
倉庫のような空間がどこまでも続いている。
棚。
台座。
箱。
そのすべてに――
物が並んでいた。
武器。
鉱石。
魔獣素材。
古い遺物。
リアナが声を上げる。
「すげぇ……」
カティアが説明する。
「ここは魔王軍の宝物庫です」
「長い歴史の中で集められた物資が保管されています」
タクミは口笛を吹いた。
「……鍛冶師にとっては宝の山だな」
リゼはすでに歩き出していた。
棚に近づく。
鉱石を手に取る。
「……これ」
タクミも覗き込む。
虹色の光。
内部で揺れる輝き。
タクミの目が変わる。
「……まさか」
リアナが首を傾げる。
「有名なやつッス?」
タクミは頷く。
「予想が正しければ、伝説級の金属だ」
リゼが短く言う。
「……オリハルコン、神話素材」
カティアが補足する。
「魔王軍でもほとんど使用例はありません」
「理由は?」
タクミが聞く。
カティアは答える。
「加工できる鍛冶師がいないからです」
タクミは苦笑した。
「なるほどな」
オリハルコンを見つめる。
「だが……」
「ミスリルに微量混ぜるなら」
リゼが頷く。
「……性能跳ねる」
タクミ
「耐久も魔力伝導も全部上がる」
リアナが感心したように言う。
「そんなに凄いッスか」
「ミスリル武器が別物になる」
タクミはそう言った。
さらに奥へ進む。
次の棚。
そこにあったのは――
漆黒の鉱石。
光を吸い込むような黒。
タクミの表情が変わる。
「……こいつは」
リアナ
「またすごい奴ッス?」
タクミ
「オリハルコンと並ぶ伝説素材だ」
リゼ
「……アダマンタイト、硬度異常」
タクミ
「ただし重い」
リゼ
「……ミスリル混合」
タクミ
「バランス取れる」
リアナは呆れた。
「二人とも完全に研究モードッス」
さらに進む。
そこには奇妙な素材が並んでいた。
巨大な牙。
黒い骨。
瓶詰めの液体。
リアナが少し後ずさる。
「なんか怖いッス」
カティアが説明する。
「古龍の牙です」
「千年以上生きた龍のものです」
リアナ
「武器になるッス?」
タクミ
「なる」
即答だった。
「刃材として最高だ」
リゼ
「……魔力伝導も高い」
隣には黒い液体の瓶。
リゼが覗く。
「……血」
カティア
「ヴァンパイアの血液です」
リアナ
「うわぁ……」
タクミは真剣だった。
「魔力触媒になる」
リゼ
「……武器強化」
リアナは肩をすくめた。
「鍛冶師の世界怖いッス」
その時。
タクミの足が止まった。
台座。
そこにあったのは――
折れた剣の欠片。
だが。
ただの破片ではない。
異様な気配。
タクミが手に取る。
「……これは」
リゼが覗く。
「……強い魔力」
カティアが言う。
「古代勇者の武器の破片です」
タクミ
「勇者の?」
「数百年前の戦争の遺物です」
タクミは欠片を見つめた。
今も魔力が宿っている。
「……解析できるな」
リゼ
「……構造分かる」
タクミ
「神武器のヒントになるかもしれない」
リアナ
「それヤバいやつッスよね?」
タクミは少し笑った。
「鍛冶師としては最高の教材だ」
そして。
四人は宝物庫の奥へ進む。
最奥部。
そこには――
奇妙な装置があった。
巨大なガラス容器。
中には液体。
リアナが首を傾げる。
「なんスかこれ」
リゼが近づく。
覗き込む。
そして――
固まった。
「……」
タクミ
「どうした?」
リゼが小さく言う。
「……心臓」
タクミ
「は?」
タクミも覗く。
そこにあったのは――
巨大な心臓だった。
赤黒い。
禍々しい。
そして。
ドクン
動いた。
リアナ
「……」
もう一度。
ドクン
鼓動。
生きている。
タクミが低く言う。
「……なんだこれ」
リゼ
「……分からない」
カティアも首を振る。
「このような資料は見たことがありません」
ドクン
鼓動が宝物庫に響く。
リアナが小さく言った。
「……これ」
「ヤバいやつじゃないッスか」
タクミは黙ってその心臓を見つめていた。
ドクン
その鼓動は――
まるで。
誰かを待っているかのようだった。
もし「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら、ブックマークや評価、感想などをいただけると執筆の励みになります! よろしくお願いいたします




