第60話 「鍛将タクミ」
魔王城、戦略会議室。
城の最奥。
重厚な扉の向こうに、その部屋はある。
魔王軍の中枢。
幹部会議室。
巨大な円卓が部屋の中央に据えられていた。
その席に座るのは、魔王軍を支える四人の幹部。
炎将バルグ。
氷姫セレナ。
獣王ガルド。
闇宰相ヴァルツ。
そして――
円卓にはもう一つ、新しい椅子が置かれていた。
まだ誰も座っていない席。
その時。
扉が開いた。
「……失礼する」
入ってきたのはタクミだった。
相変わらずの作業着。
腰には鍛冶用の革エプロン。
完全に鍛冶場帰りの格好だ。
その姿を見た瞬間。
ガルドが吹き出した。
「ガハハハハ!!」
「本当にその格好で来たのか!」
タクミは肩をすくめた。
「鍛冶の途中だったんだ」
「着替える時間がなかった」
セレナが口元に手を当てて笑う。
「いいじゃない」
「あなたらしいわ」
タクミは円卓を見た。
そして新しい椅子を見る。
「……これ」
「俺の席か?」
バルグが頷く。
「そうだ」
低い声。
「今日からお前は幹部だ」
「円卓に座れ」
タクミは頭を掻いた。
「鍛冶師が円卓か……」
椅子を引く。
座る。
少しだけ落ち着かない。
「なんか場違いだな」
ガルドが笑う。
「気にするな!」
「俺も最初は落ち着かなかった!」
ヴァルツが静かに言う。
「安心してください」
「この部屋で落ち着いている人間など」
「魔王様くらいです」
セレナが頷く。
「円卓は慣れるものよ」
その時。
扉がもう一度開いた。
カティアだった。
手には書類の束。
「タクミさん」
「会議資料です」
タクミは受け取る。
「悪いな」
「助かる」
ガルドがニヤニヤする。
「秘書付きとは偉くなったじゃねぇか」
タクミは苦笑する。
「俺は何も変わってない」
「鍛冶師のままだ」
バルグが腕を組む。
「それでいい」
低い声。
「お前の武器は前線を救っている」
ガルドも頷く。
「俺の部隊でも評判いいぞ!」
「壊れねぇ!軽い!切れる!」
セレナが言う。
「兵士の持久力が上がったわ」
「戦闘時間が伸びている」
ヴァルツが小さく笑う。
「王国軍も気づき始めていますよ」
「最近の戦闘報告を見る限り」
「魔王軍の兵が倒れにくくなっている」
タクミは肩をすくめた。
「武器が壊れないだけだ」
「それだけでも」
バルグが言う。
「戦争は変わる」
その時だった。
重厚な扉が開いた。
魔王が入ってくる。
全員が立ち上がった。
魔王は円卓の上座へ歩く。
席に座る。
そして言った。
「座れ」
全員が着席する。
魔王の視線がタクミへ向いた。
「慣れたか」
タクミは苦笑した。
「まだ落ち着かない」
魔王は言う。
「そのうち慣れる」
少し間を置く。
「タクミ」
「貴様の武器により」
「前線の生存率は上がった」
タクミは頭を掻く。
「俺は武器を作ってるだけだ」
魔王は言った。
「武器は兵を守る」
静かな声。
重い言葉。
「兵は国を守る」
そして続けた。
「その武器を作る者もまた」
「軍の柱である」
部屋が静まり返る。
ガルドがニヤリと笑う。
「聞いたか」
「鍛将」
タクミが顔を上げる。
「……鍛将?」
セレナが微笑む。
「あなたの異名よ」
バルグが言う。
「鍛将タクミ」
「悪くない」
ヴァルツが頷く。
「実に分かりやすい」
タクミは少しだけ困った顔をした。
「なんか大げさだな」
ガルドが笑う。
「ガハハハ!」
「そのうち慣れる!」
魔王が続ける。
「タクミ」
「城の地下に宝庫がある」
タクミが顔を上げる。
「宝庫?」
「ミスリル」
「魔鉱石」
「魔獣素材」
「過去の戦争で集められた資源だ」
魔王は言う。
「必要なら使え」
タクミは目を丸くする。
「……いいのか?」
「構わん」
魔王は即答した。
「貴様の武器は軍を強くする」
ガルドが笑う。
「好きなだけ作れ!」
セレナも頷く。
「研究環境としては最高ね」
ヴァルツが静かに言う。
「新しい武器」
「期待しています」
タクミは少し考えた。
そして言った。
「……なら」
「最高の一振りを作る」
バルグが笑う。
「それでいい」
魔王が言う。
「では議題に入る」
円卓の上に地図が広げられた。
王国との前線。
膠着状態。
魔王が言う。
「王国軍の動きが活発化している」
「どう見る」
バルグが答える。
「攻めてくる」
ガルドが笑う。
「来たら叩き潰す」
セレナは冷静だった。
「補給線を整えている可能性が高い」
ヴァルツが言う。
「情報でも」
「兵の補充が進んでいます」
魔王はタクミを見る。
「貴様はどう思う」
突然振られた。
タクミは少し考えた。
そして言った。
「兵は死ぬ」
部屋が静まる。
タクミは地図を見る。
「武器は壊れる」
「補給が止まれば」
「どんな軍でも戦えない」
ヴァルツが笑った。
「なるほど」
セレナが頷く。
「兵站ね」
タクミは言う。
「戦争は」
「兵站で決まる」
バルグが腕を組む。
「悪くない」
ガルドが笑う。
「気に入った!」
魔王は静かに言った。
「良い」
そして宣言する。
「魔王軍幹部会議」
「これより開始する」
円卓の会議が
静かに動き出した。
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