第58話 軽い剣
魔王軍前線基地。
朝の武器配給の時間だった。
武器庫の前に魔族兵たちが並んでいる。
一人の兵士が肩を回しながらぼやいた。
「またあの剣か……」
隣の兵士が苦笑する。
「ああ」
「タクミ製のやつな」
壊れない剣。
それは魔王軍に革命を起こした武器だった。
盾に叩きつけても折れない。
鎧に当てても刃こぼれしない。
前線の兵士にとって、それは命綱と言っていい。
だが――
兵士が肩をすくめた。
「確かに強くていいんだがよ」
「一般兵の俺たちには少し重いんだよなぁ」
別の兵士が笑う。
「贅沢言うな」
「前の剣なんか三回ぶつけりゃ折れたぞ」
「それはそうなんだけどな」
兵士は腕を振る真似をする。
「振り回すのがきついんだよ」
「長く戦うと腕が死ぬ」
その時だった。
武器庫の扉が開く。
配給係が叫んだ。
「整列!」
兵士たちが姿勢を正す。
配給係は言った。
「本日より前線武器が更新される!」
ざわめきが広がる。
「更新?」
「また重くなるんじゃねぇだろうな」
「勘弁してくれ」
兵士たちの前に新しい剣が運ばれてきた。
一本、手渡される。
兵士は剣を受け取った。
そして――
固まった。
「……なんだこれ」
隣の兵士が聞く。
「どうした?」
兵士は剣を振った。
軽い。
信じられないほど軽い。
「軽い……」
周囲の兵士も振り始める。
「おい」
「軽いぞこれ!」
「なんだこの剣!?」
さらに兵士が魔力を流す。
刃がわずかに光った。
「……魔力も通る」
「通りが全然違う!」
兵士たちは顔を見合わせた。
「すげぇ」
「こんな武器が」
「一般兵の俺たちに配布されるのかよ!」
一人が言った。
「聞いたことあるぞ」
「ミスリル混合武器らしい」
「ミスリル!?」
ざわめきが広がる。
「あの加工できない鉱石か?」
「それを武器に?」
兵士が呟く。
「……タクミの仕事か」
誰かが笑った。
「だろうな」
「もうあの鍛冶師なんでもありだ」
その時。
見張り台から声が飛ぶ。
「王国軍接近!」
空気が一瞬で変わる。
兵士たちが剣を握る。
「来たか」
前線では珍しくない。
小競り合い。
様子見の戦い。
魔族兵たちが前へ出る。
王国兵が突撃してくる。
盾。
長剣。
重装。
王国兵が剣を振り下ろした。
ガキィン!!
激しい衝撃。
兵士は歯を食いしばる。
剣がぶつかる。
だが。
腕が軽い。
剣が速い。
兵士はそのまま押し返した。
王国兵の体勢が崩れる。
「今だ!」
魔族兵が斬り込む。
王国兵が後退した。
別の場所では仲間が囲まれていた。
三人の王国兵。
一人の魔族兵。
魔族兵が剣を振る。
速い。
軽い。
一人目。
二人目。
三人目。
王国兵が崩れた。
戦いは長く続かなかった。
王国軍はやがて撤退する。
静寂が戻る。
兵士たちは息を吐いた。
一人が剣を見る。
刃は綺麗なままだ。
兵士が笑った。
「おい」
「これなら」
「一日戦えるぞ」
隣の兵士も笑う。
「確かにな」
少し沈黙が流れる。
兵士がぽつりと呟いた。
「なあ」
「タクミって鍛冶師」
「顔知ってるか?」
「いや」
「俺も知らん」
兵士は剣を肩に担ぐ。
遠い魔王城を思い浮かべる。
顔も知らない。
会ったこともない。
だが。
兵士は笑った。
「いつか会えたら」
「礼くらい言わせてほしいな」
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