第57話 情報という武器
魔王城・戦略室。
厚い扉の向こうは、魔王軍の中枢だった。
巨大な戦場地図。
王国との国境線。
各地の前線状況。
そして机の前に――魔王が座っている。
部屋にいるのは三人。
タクミ。
カティア。
そして闇宰相ヴァルツ。
静かな空気が流れていた。
魔王がゆっくり口を開く。
「タクミ」
低い声。
「貴様の技術によって魔王軍の武器は変わった」
タクミは頭を掻いた。
「……俺は鍛冶をしているだけだ」
魔王は小さく笑う。
「それが戦争を変えている」
部屋が静まる。
魔王は続けた。
「壊れない武器」
「ミスリル混合武器」
「四天王専用武装」
「すべて貴様の仕事だ」
タクミは少し困ったような顔をした。
「作ったのは俺だが……」
「広めたのは鍛冶師たちだ」
魔王は頷く。
「だからこそだ」
そして視線を動かす。
「カティア」
カティアが一歩前に出る。
背筋を伸ばす。
「は」
魔王が言う。
「今日より貴様を」
「タクミ専属秘書官に任命する」
一瞬、静寂。
タクミが目を瞬かせる。
「……俺に秘書?」
カティアはすぐに片膝をついた。
「謹んで拝命いたします」
丁寧で整った声。
魔王は頷く。
「役割は三つ」
指を一本立てる。
「第一」
「タクミとリゼの研究成果を全て記録すること」
二本目。
「第二」
「その内容をその日のうちに私と四天王へ報告すること」
三本目。
「第三」
「情報の選別」
そこで魔王はヴァルツを見る。
ヴァルツが静かに笑った。
「つまり」
「どこまで外に漏らすか、ということです」
タクミが眉を上げる。
「外?」
ヴァルツは指先で地図を叩いた。
王国。
「情報というものは面白い」
穏やかな声。
「隠すだけが戦略ではありません」
「時には見せる」
「時には誤解させる」
タクミは腕を組んだ。
「……情報戦か」
ヴァルツは頷く。
「ええ」
「例えば」
「四天王の武器がミスリル製になった」
「これは王国に流しても良い情報です」
カティアが静かに記録を取る。
ヴァルツが続ける。
「ですが」
「ミスリル量産技術」
「これは秘匿すべきでしょう」
タクミは少し笑った。
「なるほど」
「全部隠す必要はないってわけか」
「そういうことです」
ヴァルツは微笑む。
「恐怖は想像で膨らむ」
魔王が口を開いた。
「カティア」
「貴様は諜報官でもある」
カティアは背筋を伸ばした。
「はい」
魔王は言う。
「タクミの研究は」
「魔王軍の未来だ」
「それを正しく伝え」
「正しく隠せ」
「そして必要ならば」
「敵に見せろ」
カティアは力強く答える。
「承知いたしました」
静かな決意がそこにあった。
魔王は最後に言った。
「タクミ」
「貴様の技術は武器だ」
「だが」
少し間を置く。
「情報もまた武器だ」
タクミは苦笑した。
「鍛冶師が戦争の中心とはな」
ヴァルツが静かに言う。
「すでにそうなっていますよ」
タクミは頭を掻いた。
「……面倒な話だ」
カティアが立ち上がる。
タクミの横に立つ。
「本日より」
「タクミ様の研究は全て記録いたします」
「そして魔王様と四天王へ即時共有」
「また必要に応じて」
「ヴァルツ様と情報選別を行います」
丁寧な口調。
だがどこか嬉しそうだった。
タクミは苦笑する。
「鍛冶場に書類机が置かれるのか?」
カティアは頷いた。
「はい」
「既に準備しております」
タクミは天井を見上げた。
「……鍛冶場が役所みたいになるな」
ヴァルツが笑う。
「それもまた進化ですよ」
魔王は椅子にもたれた。
「行け」
「戦争は続いている」
タクミは軽く手を振った。
「了解」
カティアが後ろにつく。
タクミ
「ああ……それと」
「タクミ様ってのは、よしてくれ」
「痒くなってくるからな。今まで通りで頼む」
カティアが少し笑みを浮かべる
「承知しました。タクミさん」
2人は扉へ向かう。
その姿を見ながらヴァルツが小さく言った。
「面白くなってきましたね」
魔王は静かに答える。
「技術」
「情報」
「戦略」
「すべてが揃った」
戦略室の窓の向こう。
魔王城の鍛冶場から火花が上がっていた
もし「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら、ブックマークや評価、感想などをいただけると執筆の励みになります! よろしくお願いいたします




