第47話 炎竜核の解析
魔王軍城――工房。
まだ朝早い時間だった。
炉の火だけが、静かに揺れている。
工房の中央。
作業台の上に置かれた一つの石。
赤く、深く、ゆっくりと脈打つように光っている。
炎竜核。
リアナが持ち帰った火竜の核だった。
その石を、リゼはじっと見つめていた。
小さな手でそっと持ち上げる。
石の奥。
内部に流れる魔力が、微かに揺れているのが見える。
「……」
リゼは目を細めた。
小さく呟く。
「魔力」
「循環してる」
その言葉を聞きながら、背後では槌の音が響いていた。
カン――
カン――
カン――
タクミだ。
いつものように炉の前で槌を振るっている。
規則正しい音。
無駄のない動き。
ただ鉄を整えているだけの作業だが、その一撃一撃には職人としての癖が染み込んでいる。
タクミは槌を振るいながら言った。
「循環?」
リゼは炎竜核を光にかざす。
赤い光がゆらめく。
「うん」
「魔力が止まってない」
「回ってる」
タクミの槌が一瞬止まる。
「……神造武器と同じか」
作業台の端。
そこには魔王から預かっている勇者の武器が置かれていた。
神造武器。
人の手で作られたとは思えないほど精緻な魔力構造。
リゼはその武器と炎竜核を交互に見た。
「完全じゃない」
「でも」
「似てる」
タクミはゆっくりと槌を置いた。
腕を組む。
そして炎竜核を見つめる。
「ドラゴン素材は強いが……」
「ここまで安定してるのは珍しいな」
リゼは小さく頷いた。
「普通の竜核」
「もっと暴れる」
「でもこれ」
炎竜核を軽く叩く。
「魔力が整ってる」
タクミ
「上位種か」
リゼ
「たぶん」
その時だった。
ガタン。
工房の椅子が動く音。
リアナだった。
さっきから二人の会話を聞いていたが、眉をひそめている。
難しい話になっている。
そして言った。
「つまり」
二人を見る。
「すごいってことッスか?」
タクミは思わず笑った。
「ざっくりだな」
リアナは胸を張る。
「難しい話は任せるッス!」
「自分は戦う担当ッス!」
リゼは小さく言った。
「でも」
リアナを見る。
「素材持ってきたのリアナ」
リアナは少し照れた。
「まあ……そうッスね!」
タクミは炎竜核を手に取る。
ずしりとした重み。
見た目よりもずっと重い。
魔力が詰まっている証拠だ。
タクミ
「問題はここからだ」
作業台の端に置かれている金属を見る。
ミスリル。
銀色に輝く魔金属。
魔力をよく通す希少金属だ。
リゼ
「相性」
タクミ
「炎とミスリルか」
リゼは少し考えた。
「ミスリル」
「魔力伝達いい」
「でも」
「炎属性」
「強すぎる」
リアナ
「ケンカするッス?」
タクミは少し考えた。
そして首を振る。
「いや」
「むしろ逆だ」
リアナ
「逆?」
タクミはミスリルを指で叩く。
「ミスリルは冷静な金属だ」
「魔力を整える」
リゼが頷く。
「炎」
「暴れる」
「ミスリル」
「抑える」
タクミ
「つまり」
リアナを見る。
「バランスが取れる可能性がある」
リアナは数秒考えた。
そして。
満面の笑み。
「……」
拳を握る。
「なんだかよく分からないけど!」
元気よく言う。
「つまり!」
胸を張る。
「めちゃくちゃ相性いいってことッスね!」
工房が静かになる。
タクミとリゼがリアナを見る。
数秒。
タクミは苦笑した。
「……まあ」
炎竜核を作業台に置く。
「そういうことだ」
リアナ
「やったッス!!」
リゼも小さく頷いた。
「成功率」
「高いと思う」
タクミは炉を見る。
赤い炎。
ゆらゆら揺れる熱。
そして炎竜核を見る。
赤い石。
まるで心臓のように脈打っている。
タクミは小さく呟いた。
「神造武器か」
リアナの目が輝く。
「できるッス!?」
タクミは槌を持ち上げる。
「まだ分からん」
そして静かに言う。
「だが」
炉の火が強くなる。
「挑戦する価値はある」
リアナは興奮している。
「神武器ッス!」
リゼも小さく言う。
「可能性」
「ある」
タクミはミスリルを見る。
そして炎竜核を見る。
職人の目になっていた。
そして言った。
「……面白い」
槌を握る。
カン――
工房に音が響く。
その音は、いつもと同じ。
だが。
これから始まる仕事は。
今までとは違う。
神造武器に届くかもしれない鍛造。
タクミは炎竜核を炉の光にかざした。
赤い光が強く輝く。
そして呟いた。
「やってみるか」
炉の炎が大きく燃え上がる。
次の瞬間。
工房に、金属を打つ音が響いた。
カン――
新しい武器の物語が。
今、始まろうとしていた。
もし「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら、ブックマークや評価、感想などをいただけると執筆の励みになります! よろしくお願いいたします




