第32話 炎将バルグ
国境戦線。
朝霧がまだ地面に残っていた。
王国軍第三軍団前線基地。
兵士たちは慌ただしく動き回っていた。
「敵影確認!」
「魔王軍接近!」
見張り塔の兵士が叫ぶ。
ラッパが鳴る。
警戒の合図だ。
「総員戦闘準備!」
「盾兵前へ!」
兵士たちが陣形を組む。
重装歩兵。
弓兵。
騎兵。
王国軍の精鋭三千。
装備は全て魔力鋳造武器。
王国が誇る量産兵装だ。
若い兵士が槍を握りながら言う。
「魔族か……」
隣の兵士が笑う。
「ビビるなよ」
「俺たちは王国軍だ」
「魔族なんざ何度も追い返してるだろ」
周囲の兵士たちも頷く。
「そうだ」
「数も多くない」
「押し返せる」
だが。
その場にいた一人の男だけは、笑っていなかった。
黒髪。
鋭い目。
第三軍団指揮官。
レオン・アルヴァルト。
彼は遠くの地平線を見ていた。
魔王軍の旗が見える。
黒い旗。
その中央に、赤い紋章。
レオンの目が細くなる。
「……来たか」
副官が横に立つ。
「レオン様」
「敵兵数、およそ二千」
レオンは首を振る。
「違う」
副官が戸惑う。
「え?」
レオンは静かに言った。
「問題は数じゃない」
その時だった。
前線の兵士が叫ぶ。
「敵前衛接触!」
霧の向こうから、魔族の部隊が現れる。
黒い鎧。
重い足音。
兵士たちは槍を構える。
「来るぞ!」
「弓兵!」
「構え!」
だが。
魔族の軍勢は突然左右に割れた。
そして。
その中央から。
巨大な影が現れる。
兵士の一人が呟く。
「……でかい」
二メートルを軽く超える巨体。
全身に刻まれた戦傷。
炎のような赤髪。
そして。
肩に担がれた巨大な剣。
魔王軍四天王。
炎将バルグ。
彼はゆっくりと前に出た。
まるで散歩でもするような足取りだった。
兵士の一人が笑う。
「なんだあれ」
「一人で出てきやがった」
別の兵士が叫ぶ。
「弓兵!撃て!」
弓が一斉に引かれる。
次の瞬間。
矢の雨が降った。
ヒュン。
ヒュン。
ヒュン。
矢がバルグに向かう。
だが。
バルグは剣を振った。
ただそれだけだった。
風が走る。
次の瞬間。
矢が全て弾かれていた。
兵士たちが凍る。
「……は?」
バルグは軽く首を鳴らした。
ゴキリ。
「ウォームアップには」
低い声だった。
「ちょっと軽いな」
兵士たちが叫ぶ。
「突撃!」
「囲め!」
十人の兵士が一斉に飛び出す。
槍が突き出される。
剣が振り下ろされる。
次の瞬間。
バルグの剣が動いた。
一振り。
それだけだった。
ガンッ!!
金属音。
そして。
王国兵の剣が
全部折れた。
兵士が目を見開く。
「な……」
次の瞬間。
バルグの剣が横に薙いだ。
ズバン。
兵士たちが吹き飛ぶ。
地面に転がる。
動かない。
後ろの兵士が叫ぶ。
「嘘だろ……」
「剣が……折れた?」
バルグは剣を軽く振る。
血が飛ぶ。
そして呟く。
「軽いな」
彼は自分の剣を見た。
タクミが打った剣。
口の端が吊り上がる。
「いい」
そして前を向く。
王国軍三千。
その中央に、たった一人で歩き出す。
「来いよ」
次の瞬間。
王国軍が一斉に動いた。
「総攻撃!」
槍兵。
剣兵。
騎兵。
全てがバルグに殺到する。
だが。
バルグは笑った。
「いいねぇ」
剣が振られる。
ガンッ!
王国兵の剣が砕ける。
ドン!
盾ごと兵士が吹き飛ぶ。
騎兵が突撃する。
槍が突き出される。
バルグはその槍を掴んだ。
そして。
へし折った。
騎士の顔が青ざめる。
次の瞬間。
ズバン。
騎士が地面に転がる。
戦場が凍る。
その時だった。
「下がれ!」
鋭い声が響く。
一人の男が前に出た。
銀の鎧。
青いマント。
王国騎士団。
第一騎士団長。
アルベルト・クロイツ。
兵士が叫ぶ。
「団長!」
アルベルトは剣を抜く。
重厚な長剣。
王国でも名剣と呼ばれる武器だ。
彼はバルグを睨む。
「魔族」
バルグが笑う。
「いい目だ」
アルベルトは言う。
「ここは通さん」
バルグは肩を回す。
「やってみろ」
次の瞬間。
二人が動いた。
剣と剣がぶつかる。
ガン!!
凄まじい衝撃。
兵士たちが息を呑む。
アルベルトは強かった。
王国最強の騎士の一人。
斬撃が次々と繰り出される。
バルグの剣と何度もぶつかる。
五合。
十合。
二十合。
互角だった。
兵士たちが叫ぶ。
「団長!」
「押してる!」
だが。
その時。
嫌な音がした。
ピシッ。
アルベルトの剣に
亀裂が走る。
彼の目が細くなる。
「……なるほど」
バルグが笑う。
「気づいたか」
アルベルトは静かに言う。
「武器か」
バルグは頷く。
「悪くねぇ腕だ」
そして言った。
「だが」
次の瞬間。
剣が振り下ろされる。
ガキン!!
アルベルトの剣が
真っ二つに砕けた。
兵士たちが叫ぶ。
「団長!!」
アルベルトは目を閉じた。
「……そうか」
バルグの剣が振り下ろされる。
ズバン。
騎士団長が地面に倒れた。
戦場が静まり返る。
バルグは剣を振る。
血を払う。
そして言う。
「いい騎士だった」
その時。
後方から声が響く。
「全軍」
兵士たちが振り向く。
そこに立っていたのは。
レオン。
彼は戦場を見ていた。
冷静な目で。
そして言った。
「撤退」
兵士たちが叫ぶ。
「ですが!」
レオンは言う。
「死ぬぞ」
その一言で
全員が黙った。
レオンは静かに言う。
「全軍後退」
「隊列維持」
「急げ」
ラッパが鳴る。
撤退の合図。
王国軍が動き出す。
バルグはそれを見ていた。
追わない。
ただ。
ニヤリと笑う。
剣を見る。
タクミの剣。
バルグは小さく呟く。
「タクミ」
そして笑った。
「最高だ」
遠く。
撤退する王国軍の中で。
レオンが呟く。
「……武器で」
「戦争が変わるか」
彼は拳を握った。
「なら」
「こちらも変える」
その目は
まだ折れていなかった。
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