第24話 静かな革命
朝の後方工房は、いつもより騒がしかった。
炉の火はすでにいくつも灯っている。
鉄を打つ音があちこちで鳴っていた。
カン。
カン。
カン。
だが。
その音の中に、いつもとは違うざわめきが混じっている。
「最近、折れないな」
一人の鍛冶師が剣を持ち上げた。
刃を光にかざす。
「確かに」
隣の職人も頷く。
机の上には戦場から戻ってきた武器が並んでいた。
折れた槍。
曲がった剣。
欠けた斧。
そして。
その中に、妙に状態のいい剣が何本かある。
「第三戦線の回収品だ」
工房長が腕を組んで立っていた。
厳しい顔で剣を見ている。
「最近こういうのが増えている」
鍛冶師が言う。
「壊れにくい」
別の職人
「同じ鋳造武器なのに」
剣をひっくり返す。
「妙だ」
工房長が低く言う。
「理由は?」
誰も答えない。
その時だった。
奥の炉で、静かな音がした。
カン。
タクミだった。
炉の前で鉄を打っている。
リズムは一定。
無駄な動きがない。
その横に、小さな影が立っている。
リゼだ。
鍛冶師の一人が言う。
「……あいつが来てからだ」
別の職人
「確かに」
工房長がタクミを見る。
しばらく黙っていた。
そして言った。
「タクミ」
ハンマーの音が止まる。
タクミが振り向く。
「何だ」
工房長は机の剣を指した。
「見ろ」
タクミは近づく。
剣を手に取る。
刃を指でなぞる。
少しだけ頷いた。
工房長
「分かるか」
タクミ
「分かる」
職人たちが顔を見合わせる。
「何がだ?」
タクミは言う。
「叩いてある」
沈黙。
職人
「……は?」
工房長
「どういう意味だ」
タクミ
「整形」
「焼き入れ」
「鍛造」
短く言う。
「やらせただろ」
工房の奥を見る。
若い鍛冶師が慌てて言った。
「タクミ殿に教わった通りやっただけです!」
別の職人
「俺もだ」
「刃を叩く工程」
「追加した」
工房長は眉をひそめた。
「それで変わるのか」
その時。
小さな声がした。
「変わる」
リゼだった。
剣を手に取る。
目を閉じる。
しばらくして言った。
「魔力流」
刃を指す。
「柔らかい」
職人
「柔らかい?」
リゼ
「流れる」
首を振る。
「鋳造武器」
「普通」
刃を叩く。
「流れ固定」
タクミ
「だから割れる」
工房長
「……」
リゼ
「叩く」
「流れる」
タクミ
「強くなる」
職人たちは黙った。
やがて一人が言う。
「つまり」
タクミ
「鍛造だ」
工房長が低く言う。
「鋳造武器を鍛造する?」
タクミ
「そうだ」
工房長
「そんな話」
言いかけて止まる。
机の剣を見る。
折れていない。
職人の一人が言った。
「戦場の報告」
紙を持ち上げる。
「破損率」
読み上げる。
「三割減」
工房が静まり返った。
工房長
「三割……」
リアナが工房の入口から顔を出した。
「ほんとッスよ」
全員が振り向く。
リアナは笑っていた。
「前線で評判ッス」
剣を抜く。
ヒュン。
空気が鋭く切れる。
「折れないッス」
工房長
「リアナ」
リアナ
「隊長クラスの剣も折ったッス」
剣を見せる。
「でも」
刃を叩く。
「これ」
ニヤリと笑う。
「まだ無事ッス」
工房長はしばらく黙っていた。
そしてタクミを見る。
「お前」
低い声。
「全部考えていたのか」
タクミ
「工程を組んだだけだ」
職人
「工程?」
タクミは炉を指す。
「鉄を整える」
別の炉
「叩く」
別の机
「焼き入れ」
そして研磨台。
「仕上げ」
職人たちを見る。
「分けただけだ」
職人たちは顔を見合わせた。
工房長が呟く。
「分業……」
リゼ
「量産」
タクミ
「そうだ」
工房長
「つまり」
机の剣を見る。
「この武器」
タクミ
「量産できる」
工房が静まり返った。
その時。
兵士が駆け込んできた。
「工房長!」
息を切らしている。
「軍議です!」
工房長
「軍議?」
兵士
「武器の件で!」
工房長はタクミを見る。
長い沈黙。
そして言った。
「来い」
タクミ
「俺が?」
工房長
「お前の話だ」
リアナが笑う。
「来たッスね」
リゼが小さく言った。
「革命」
タクミは何も言わなかった。
ただ。
炉の火を見た。
鉄はまだ赤い。
そして静かに呟く。
「まだ途中だ」
炉の火が揺れる。
後方工房。
小さな場所だ。
だが。
ここから。
魔王軍の武器は。
確実に。
変わり始めていた。
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