第25話 鍛冶師の価値
魔王軍本陣。
石造りの軍議室には、重い空気が漂っていた。
長い机。
その両側に将軍たちが座っている。
机の上には報告書が並んでいた。
一人の将軍が口を開く。
「第三戦線の戦況報告だ」
紙を広げる。
「王国軍、後退」
別の将軍が眉をひそめる。
「珍しいな」
魔王軍は強い。
だが王国軍も強い。
戦線は基本的に拮抗している。
一方的に押し返すことは、そう多くない。
将軍が続ける。
「理由はこれだ」
紙を机に置く。
「武器破損率」
読み上げる。
「三割減」
室内がざわついた。
「三割?」
「そんな馬鹿な」
「誤報では?」
将軍は首を振る。
「複数の部隊から同じ報告だ」
紙を指で叩く。
「武器が折れない」
沈黙が落ちた。
別の将軍が言う。
「鋳造品だろう」
「そんなはずはない」
「我が軍の鋳造技術は王国に劣る」
また沈黙。
やがて一人が言う。
「では」
「何が起きている」
その時だった。
重い扉が開く。
「後方工房長、到着しました」
兵士の声。
工房長が入ってきた。
後ろにタクミがいる。
リアナもいる。
将軍たちの視線が集まった。
工房長は机の前で止まる。
「報告いたします」
机の上に一本の剣を置いた。
「問題の武器です」
将軍が手に取る。
刃を見る。
「普通の鋳造剣だ」
工房長
「そうです」
将軍
「何が違う」
工房長は横を見る。
「タクミ」
タクミが一歩前に出た。
将軍が眉をひそめる。
「この男か」
リアナが小さく笑う。
「そうッス」
将軍
「説明しろ」
タクミは剣を持つ。
刃を指で叩く。
カン。
澄んだ音がした。
「叩いてある」
将軍
「何?」
タクミ
「鋳造の後」
刃を指す。
「鍛造している」
将軍たちは顔を見合わせた。
一人が言う。
「鋳造武器を鍛造する?」
タクミ
「そうだ」
別の将軍
「意味があるのか」
タクミ
「ある」
短く言う。
「流れが変わる」
将軍
「流れ?」
タクミ
「金属構造だ」
言葉を探すように少し止まる。
「叩けば」
刃を軽く打つ。
「強くなる」
リアナが言う。
「実際強いッス」
剣を抜く。
ヒュン。
「戦場で証明済みッス」
将軍たちは黙った。
一人が言う。
「偶然ではないのか」
その時。
小さな声が響いた。
「違う」
リゼだった。
いつの間にか後ろに立っていた。
将軍が驚く。
「誰だ」
工房長
「元鋳造部門の技術者です」
リゼは剣を持つ。
目を閉じる。
「魔力流」
刃を指す。
「鋳造」
「固定」
首を振る。
「鍛造」
「流れる」
将軍
「つまり」
リゼ
「折れない」
沈黙。
やがて将軍が低く言った。
「量産できるのか」
タクミ
「できる」
将軍
「どうやって」
タクミは言う。
「分業」
室内が静まり返る。
タクミ
「整形」
指を折る。
「鍛造」
「焼き入れ」
「研磨」
将軍を見る。
「工程を分ける」
工房長が続けた。
「すでに後方工房で実施中です」
将軍
「結果は」
工房長
「報告通り」
沈黙。
その時。
奥の席から低い声がした。
「面白い」
全員が振り向く。
魔王だった。
肘をつき、静かにタクミを見ている。
魔王
「鍛冶師」
タクミ
「何だ」
リアナが焦る。
「タクミ!」
魔王は笑った。
「構わぬ」
そして言う。
「武器は戦争を変える」
タクミ
「そうだ」
魔王
「お前はそれを理解している」
タクミは黙った。
魔王は将軍たちを見る。
「聞いたな」
静かな声。
「三割だ」
将軍
「はい」
魔王
「もし」
ゆっくり言う。
「これが軍全体に広がれば?」
将軍たちは黙った。
一人が言う。
「戦局が変わります」
魔王
「そうだ」
机を軽く叩く。
「だから決めた」
全員が顔を上げる。
魔王
「後方工房を拡張する」
将軍
「拡張?」
魔王
「違う」
少し笑う。
「専用工房だ」
リアナの目が丸くなる。
「え」
魔王はタクミを見る。
「鍛冶師」
タクミ
「何だ」
魔王
「お前の工房を作る」
沈黙。
リアナが叫んだ。
「マジッスか!?」
将軍たちもざわめく。
工房長が驚いている。
タクミだけが静かだった。
魔王
「どうした」
タクミ
「別に」
魔王
「嬉しくないのか」
タクミ
「炉があればいい」
リアナが頭を抱える。
「この人!」
魔王は笑った。
「面白い男だ」
そして静かに言う。
「戦争を終わらせる」
将軍たちを見る。
「そのための武器だ」
再びタクミを見る。
「頼んだぞ」
タクミは短く答えた。
「任せろ」
軍議室の空気が変わっていた。
戦争の流れが。
少しだけ。
変わり始めていた。
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