第22話 魔王軍の武器
空は鈍い灰色だった。
雲が低く垂れ込み、風が丘の草を揺らしている。
王国と魔王軍の前線。
大きな戦争ではない。
だが、小競り合いが繰り返される場所だった。
丘の上に整然と並ぶ銀の鎧。
王国騎士団第三隊。
その中央に、一人の男が立っていた。
王国騎士団第三隊長
レオルド。
歴戦の騎士だった。
副官が近づく。
「隊長」
「魔族部隊が接近しています」
レオルドは頷く。
「数は」
「百前後」
「こちらは?」
「八十」
レオルドは剣の柄を軽く叩いた。
「問題ない」
騎士団は精鋭だ。
多少の数の差など、問題ではない。
副官が続ける。
「……それと」
レオルド
「何だ」
副官は少し言いづらそうに言った。
「騎士団長からの通達ですが」
レオルドは小さくため息をつく。
「またその話か」
副官
「魔王軍に優秀な鍛冶師がいる可能性」
「武器性能が変化している」
レオルドは鼻で笑った。
「戦場の噂だ」
副官
「ですが団長自ら調査を」
レオルド
「調査するのは勝手だ」
空を見た。
「だが」
剣を抜く。
「戦場を決めるのは腕だ」
副官は黙った。
確かに騎士団ではその情報は共有されていた。
だが。
多くの隊長は半信半疑だった。
武器が変わった?
そんなことが戦争を左右するとは思えない。
その時。
見張りの声が響く。
「魔族接近!」
騎士たちが盾を構えた。
丘の下。
黒い鎧の軍勢が現れる。
魔王軍。
その先頭に、赤い髪の女がいた。
リアナだった。
「前線部隊!」
剣を抜く。
「突撃準備ッス!」
魔族兵たちが武器を構える。
リアナは腰の剣を軽く抜いた。
タクミの剣。
光を受けて鈍く輝く。
リアナは小さく笑う。
「今日は」
剣を振る。
「思い切り試すッス」
丘の上。
レオルドが剣を掲げた。
「騎士団!」
騎士たちが声を上げる。
「突撃!!」
銀の波が丘を駆け下りる。
リアナも叫んだ。
「行くッス!!」
二つの軍が衝突した。
金属音が戦場に響く。
剣と剣。
盾と槍。
火花が散る。
リアナは最前線だった。
王国騎士が剣を振るう。
重い斬撃。
リアナは剣で受けた。
ガン!!
衝撃が腕に走る。
だが。
剣はびくともしない。
リアナは笑った。
「やっぱり」
剣を返す。
「いい剣ッス」
一閃。
王国騎士の剣が弾かれる。
さらに踏み込む。
二撃目。
騎士の剣が。
パキン。
真ん中から折れた。
騎士が目を見開く。
「な……」
リアナ
「悪いッス」
回転斬り。
騎士は地面に倒れた。
周囲でも異変が起きていた。
魔族兵の槍が盾を貫く。
王国の剣が折れる。
盾が砕ける。
騎士たちが叫ぶ。
「武器が――!」
「何だこれは!」
丘の上。
レオルドの目が細くなる。
「……」
異様だった。
魔族の武器。
明らかに質が違う。
(団長の報告……)
頭をよぎる。
だが。
まだ確信はない。
レオルドは戦場へ踏み込んだ。
剣を振るう。
魔族兵を一人斬り伏せる。
だがその瞬間。
横から剣が来た。
リアナだった。
ガン!!
剣がぶつかる。
重い衝撃。
リアナが笑う。
「隊長ッスね」
レオルド
「魔族」
リアナ
「リアナッス」
レオルド
「覚える必要はない」
リアナ
「冷たいッス」
二人は打ち合った。
何度も。
何度も。
レオルドは驚いていた。
(強い)
だがそれ以上に。
(剣が……)
異常だった。
レオルドが全力で振る。
ガン!!
衝撃。
その瞬間。
自分の剣に細いヒビが入った。
「……!」
リアナが目を細める。
「そろそろッス」
レオルド
「何だ」
リアナ
「折れるッス」
レオルドは歯を食いしばる。
そして振る。
全力の一撃。
ガン!!
次の瞬間。
パキン。
剣が折れた。
真っ二つに。
レオルドは呆然とした。
リアナが言う。
「うちの鍛冶師」
剣を構える。
「すごいッスよ」
その言葉が。
妙に耳に残った。
戦場は終わり始めていた。
王国騎士団は撤退していた。
丘の上。
レオルドは折れた剣を見ていた。
副官が駆け寄る。
「隊長!」
レオルド
「撤退だ」
副官
「しかし!」
レオルド
「団長の言っていたこと」
空を見た。
「本当かもしれん」
副官
「……魔王軍の鍛冶師」
レオルドは折れた刃を握る。
「調べろ」
副官
「はい」
レオルドは静かに言った。
「戦争は」
「武器で変わる」
⸻
同じ頃。
魔王軍後方工房。
炉の火が揺れていた。
タクミは黙って剣を見ている。
リゼが横で呟く。
「魔力伝導」
「良好」
タクミ
「硬度は」
リゼ
「上昇」
タクミは頷いた。
ハンマーを握る。
「もう一度叩く」
リゼ
「了解」
炉の火が強く燃えた。
戦争は。
まだ始まったばかりだった。
もし「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら、ブックマークや評価、感想などをいただけると執筆の励みになります! よろしくお願いいたします




