第13話 一歩遅れた男
王国軍本部。
重い扉が開いた。
ギィ……
部屋に入ってきたのは一人の男。
金髪。
鋭い青い瞳。
長身。
白銀の鎧。
王国軍第三軍団
騎士団長 レオン
部屋には数人の軍人がいた。
レオンは机の前に立つ参謀へ言う。
「報告」
参謀は一枚の書類を差し出した。
「前線の戦闘記録です」
レオンは目を通す。
そこには同じ記述が並んでいた。
剣が折れない。
武器が壊れない。
レオンが言う。
「魔王軍の武器か」
参謀は頷く。
「はい」
「通常の魔力鋳造武器の三倍以上の耐久」
レオンの眉がわずかに動く。
「三倍」
参謀は続ける。
「先日、団長が命じた調査」
「その結果です」
レオンは黙って読む。
そして言った。
「魔力鋳造ではないな」
「はい」
参謀は別の資料を広げた。
「未知の鍛造技術です」
レオンは腕を組む。
「鍛冶か」
参謀が言う。
「可能性が高いです」
そして続けた。
「魔王城に鍛冶師がいると推測しています」
レオンは頷く。
「諜報部隊は」
参謀が答える。
「すでに潜入しています」
その時だった。
扉が激しく開く。
バン!!
兵士が飛び込んできた。
「報告!!」
レオンが振り向く。
「言え」
兵士は息を切らしながら言った。
「諜報部隊」
「全滅しました」
部屋が静まり返る。
参謀が信じられない顔をする。
「全滅だと?」
兵士は頷いた。
「はい」
「魔王軍諜報官」
「カティアという女に」
レオンの目が鋭くなる。
その名を知っていた。
魔王直属。
魔王軍最強の諜報官。
レオンは小さく息を吐いた。
「なるほど」
参謀が言う。
「団長」
「これは危険です」
レオンは頷いた。
「武器」
「鍛冶師」
「諜報官」
静かに言う。
「三つ揃ったか」
そして立ち上がる。
マントが揺れる。
「私が確認する」
参謀が驚く。
「騎士団長自ら?」
レオンは答えた。
「武器は戦争を変える」
参謀は言う。
「たった一人の鍛冶師が?」
レオンは言った。
「一人で十分だ」
その言葉には重みがあった。
「出発する」
数時間後。
王国騎士団が城を出た。
馬が走る。
砂煙が上がる。
レオンは先頭を走っていた。
副官が馬を並べる。
「団長」
レオンは前を見たまま答える。
「何だ」
副官が聞く。
「敵の鍛冶師」
「そこまで脅威ですか」
レオンは言った。
「剣は兵士の命だ」
「剣が折れない」
「それだけで戦争は変わる」
副官は黙る。
レオンは続けた。
「軽視する敵ではない」
半日後。
騎士団は目的地に着いた。
小さな建物。
煙突。
鍛冶工房。
副官が言う。
「報告の場所です」
レオンは馬を降りた。
扉へ歩く。
ギィ……
中に入る。
静かだった。
炉は冷えている。
工具はない。
武器もない。
空っぽだった。
副官が言う。
「撤収しています」
レオンは炉の前へ歩く。
灰を触る。
まだ温かい。
彼は小さく言った。
「一歩遅れた」
副官が悔しそうに言う。
「追跡しますか」
レオンは首を振った。
「無理だ」
「なぜです?」
レオンは言った。
「カティアがいる」
「すでに罠がある」
副官は黙る。
レオンは床を見る。
金床の跡。
鉄粉。
鍛冶の痕跡。
彼は少し笑った。
「面白い」
副官が聞く。
「何がです?」
レオンは答える。
「武器」
「鍛冶師」
「諜報官」
外へ歩きながら言う。
「すべて一級だ」
彼は馬に乗る。
副官が聞いた。
「撤退しますか」
レオンは遠くの魔王城を見る。
目が鋭い。
「今回はな」
そして小さく笑う。
「だが」
「次は逃がさない」
王国騎士団は撤退した。
その頃。
魔王軍の新工房。
炉の火が上がる。
ゴォォ……
タクミが鉄を炉に入れる。
リアナが周囲を見る。
「広いッスね」
タクミは言う。
「いい工房だ」
カティアが答える。
「防衛も完璧です」
リアナが笑う。
「王国騎士団長来たらどうするッス?」
タクミは鉄を取り出す。
赤く光る鉄。
ハンマーを振る。
カン。
カン。
彼は言った。
「武器を作る」
リアナが吹き出す。
「それだけッスか!」
タクミは頷く。
「それが仕事だ」
炉の火が強くなる。
新しい工房。
新しい戦争。
そして。
魔王軍の武器生産は――
ここから本格的に始まる。
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