第6節:清澄なる希望
濁った水は、一番上の甕に敷き詰められた砂利の層に、ゴボゴボと音を立てて吸い込まれていく。
そして、木炭の層を抜け、小石の層を通り、甕の底に開けられた穴から、二段目の甕へと滴り落ち始めた。
ポタ、ポタ……。
まだ、水は濁っている。当然だ。一段階目では、大きなゴミしか取り除けない。
「……おい、何も変わってねえじゃねえか」
「やっぱり騙されたんだ……」
領民たちの中から、失望の声が漏れ始める。
「慌てるな。授業はまだ終わってない」
俺は彼らを制し、黙って二段目の甕を指差した。
二段目の甕に溜まった水は、やがて砂利と砂の層をゆっくりと通過し、その底の穴から、一番下の受け皿用の甕へと、再び滴り始めた。
ポタリ……、ポタリ……。
その雫は、明らかに最初の水とは違っていた。
「……あ」
誰かが、小さな声を上げた。
「濁りが……薄くなってる……?」
白く濁ってはいるものの、粘土が溶けているかのような、あの不透明感は消え、少し透き通って見えた。
そして、水は最後のフィルター――一番細かい砂の層を通過し、一番下の甕に被せられた布を通り抜け、最終的な受け皿の中へと、静かに滴り落ち始めた。
ポタリ……、……ポタリ……。
その一滴、一滴は、陽の光を浴びてキラキラと輝いていた。
そこには、濁りのかけらもなかった。
それは、山の湧き水のように、どこまでも澄み切った、完全な「透明な水」だった。
「…………すごい」
アリアが、夢見るような声で呟いた。
受け皿にコップ一杯分ほどの水が溜まるのを待ち、俺はゆっくりとそれを取り上げた。
そして、集まった全員の前で、その水を一気に飲み干してみせた。
「――うまい」
土の匂いも、腐った匂いもない。炭のおかげで、カルキ臭さもない、完璧な水だ。
その瞬間、今度こそ、本物の歓声が爆発した。
「うおおおおおおっ!」
「水だ! 綺麗な水だ!」
「呪いが……呪いが解けたんだ!」
領民たちは、熱狂で沸き立った。彼ら自身が森や川から集めてきた材料で、彼ら自身が見守る前で、その「理」が証明されたのだ。
「領主様! すげえ! あんたは神様か!」
「いや、神様じゃない」
俺は興奮する若者の肩を叩き、濾過装置を指差した。
「これを作ったのは、俺と、材料を集めてきてくれたあんたたちだ。奇跡でも魔法でもない。この仕組みさえ覚えれば、俺がいなくても、あんたたちの手で、明日からずっと綺麗な水が飲める。もう二度と、水に困ることはないんだ」
俺の言葉に、領民たちはハッとした顔をした。
そして、彼らの俺を見る目が、再び変わった。
「驚愕」や「期待」ではない。それは、もっと深く、確かな――「信頼」の光だった。
この日、グレイウォールの領民たちは、神の気まぐれな「奇跡」よりも、自分たちの手で掴み取れる「科学」の方が、よほど頼りになるということを、初めて学んだのだ。




