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『召喚された俺のスキルは【理科】でした~辺境で始める科学文明再生記~』  作者: とびぃ


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第3節:公開実験

「待った」

ヴァレリウスが、審問の終わりと断罪の始まりを告げようとした、その瞬間。俺は、静かに、しかし土塁の上から広場全体に響き渡る声で、その言葉を遮った。

張り詰めた空気が、一瞬、凍りつく。神殿の最高権力者である審問官の言葉を、真正面から遮る者など、この世界の常識ではありえない。辺境伯の兵士たちからも、驚きの声が漏れた。

ヴァレリウスの氷の瞳が、再び俺を捉えた。その視線は、神の代理人たる自分の言葉を遮った無礼者に対する、明確な怒りを含んでいた。

「……まだ、何か弁明があると?」

「弁明じゃない。反論だ。そして、何より『証明』だ」

俺は、土塁の階段をゆっくりと降りながら、彼の前に進み出た。そして、神殿騎士に組み伏せられたままのボルツを強引に引き起こし、その肩を叩いた。続けて、恐怖で座り込んでいるセーラお婆さんに肩を貸して、毅然と立たせた。

「あんたは、このグレイウォールで起きたことの『結果』だけを見て、あんたたちの教義という名の『物差し』で、一方的に裁いただけだ」

俺は、ボルツとセーラ、そして俺の背後で震えるアリアを示した。

「だが、あんたは、最も重要な『過程』を見ていない。俺が彼らに何を見せ、何を教え、そして彼らが何を『学んだ』のか。その本質を、あんたは何も理解していない」

俺は、集まった全ての人間――不安げな領民たち、傲慢な辺境伯の兵士たち、そして信仰に揺れる神官たち――全員に聞こえるように、声を張り上げた。

「あんたは、俺の行いを『奇跡』だの『悪魔の業』だのと呼んだ。そして、領民たちの感謝の言葉を、すべて『人心掌握』と『神への反逆』という言葉にすり替えた。だが、そのどちらも間違っている」

「俺が彼らに教えたのは、ただ一つ。『科学』だ。それは、この世界がどのような『仕組み』で動いているかを知るための、知恵だ!」

「仕組み、だと?」

「そうだ。そして、その知恵は、俺だけが使える特別な力じゃない。神の啓示も、悪魔の囁きも必要ない。正しい『手順』と『材料』、そして『原理』さえ理解すれば、そこにいる誰もが、俺と同じ結果を再現できる!」

俺の言葉に、広場が大きくざわめいた。

特に、ヴァレリウスに従う若い神官たちの間に、動揺が走ったのがわかった。彼らの教義では、神の力は唯一無二であり、手順で再現できるものではないからだ。それは「奇跡」ではなく、ただの「技術」になってしまう。

「……面白い。そこまで言うならば」

ヴァレリウスは、俺の挑戦的な言葉に、あえて乗ってきた。彼の計算高い脳が、この状況を即座に判断したのだろう。俺のこの発言は、神の唯一無二性を否定する、最大の「異端の証拠」になる、と。

「ならば、見せてみるがいい。この、神聖なる神殿の目と、アードラー辺境伯の目、そして、貴殿に惑わされた哀れな領民たちの前で。貴殿の言う『誰にでも再現できる』とやらをな。もしそれが偽りであったり、あるいは、まごうことなき悪魔の呪術であった場合は……貴殿の魂だけでなく、この村全ての魂が、神罰によって浄化されることになるが、よろしいか?」

最大の脅迫。だが、俺は待ってましたとばかりに、即答した。

「望むところだ」

俺は、ヴァレリウスに背を向け、このやり取りを息を詰めて見守っていたアリアに向き直った。彼女は、恐怖と不安で顔を青くしていたが、俺の決意に満ちた目を見て、こくりと強く頷いた。彼女はもう、ただの村娘ではない。俺の最初の生徒であり、科学の信奉者だ。

「アリア!」

「は、はいっ!」

「科学教室の生徒たちを全員集めろ! これから、審問官殿と辺境伯様御一行を招いて、『特別公開授業』を開始する!」

「と、特別……じゅぎょう……?」

「ああ! 今から、この場で、『公開実験』を行う。俺がこの地で行った『奇跡』とやらが、いかに陳腐な『ことわり』に基づいているかを、白日の下に証明してやる!」

アリアの目に、瞬時に理解と決意の光が宿った。

「はいっ! すぐに!」

アリアが、弾かれたように走り出す。その背中に、俺は矢継ぎ早に指示を飛ばした。

「ボルツさん!」

「……おう! なんだ、先生!」

組み伏せられた痛みも忘れ、ボルツが立ち上がる。

「燃え残りの『木炭』を、できるだけ細かく砕いて持ってきてくれ! それと、鍛冶場の『砂鉄』と紙を一袋!」

「砂鉄と紙? 何に使うんだ?」

「磁力の実験だ!」

「セーラさん!」

「……あいよ!」

立ち上がったセーラお婆さんに、俺は告げる。

「村中の家に指示して、一番汚れた『泥水』と、一番汚れた『布』を持ってきてもらうんだ! それと、薬草の中から、色の濃い『紫色の花』と『酸っぱい果実』をありったけ!」

「紫の花と酸っぱい果実……? リトマス試験紙の代わりかい!」

「その通り! ロイド!」

「はっ!」

「川原に行って、大きさの違う『砂』と『小石』を、それぞれ袋に一杯ずつ! それと、畑の『実験区画』の黒い土と、手つかずの『痩せた土地』の白い土を、それぞれ別の樽に!」

俺の矢継ぎ早の指示に、今まで沈黙と恐怖に支配されていたグレイウォールの領民たちが、一斉に動き出した。アリアの指揮の下、科学教室の生徒たちが村中を駆け回り、領民たちが、それぞれの役割を果たすために散っていく。その動きは、恐怖に怯える「信者」の動きではなかった。自らの未来を自分たちの手で証明しようとする、「仲間」の動きだった。

ヴァレリウスは、その光景を、ただ黙って見つめていた。彼の表情は、相変わらず氷のように静かだったが、その瞳の奥に、ほんのかすかな焦燥の色が浮かんだのを、俺は見逃さなかった。

彼は、俺が一人で「奇跡」を起こすと思っていたのだろう。だが、違う。俺の科学は、すでに、この村の仲間たち全員のものになっていたのだ。

「審問官殿」と俺は、準備が進む広場の中心で、ヴァレリウスに言った。

「あんたは、神の『権威』で俺を裁こうとした。だが、俺が信じる『科学』の世界では、権威は何の意味も持たない。意味を持つのは、ただ一つ――『再現可能な真実』だけだ」

舞台は整った。これから始まるのは、異端審問ではない。科学と教義、二つの世界観が、どちらがより人々に真実を示す力があるかを競う、公開討論の始まりだった。

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