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『召喚された俺のスキルは【理科】でした~辺境で始める科学文明再生記~』  作者: とびぃ


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第5節:団結の火

トレビュシェットの完成と時を同じくして、村の防衛設備の全てが、完成した。

村を囲む、深く幅の広い堀。その内側にそびえる、堅固な土塁。街道を見下ろす丘に仕掛けられた、巨大な丸太の罠。そして、鋼鉄で補強された城門と、独創的な跳ね橋。

わずか八日間で、かつては無防備だった小さな村は、難攻不落の要塞へと、その姿を変貌させていた。それは、この世界のどんな軍事専門家が見ても、信じられないような光景だっただろう。

最後の二日間、俺たちは、来るべき戦いのための、最後の準備と訓練に費やした。

ロイドは、村の若者たちをいくつかの部隊に分け、それぞれの役割を徹底的に叩き込んだ。

「第一部隊は、丘の上のデッドフォール・トラップ担当だ! 俺の合図があるまで、絶対にロープから手を離すなよ!」

「第二部隊は、堀と跳ね橋の防衛! 敵を十分に引きつけてから、一気に橋を落とすんだ!」

「第三部隊は、弓矢部隊だ! 数は少ないが、セーラさんが作ってくれた『秘密の矢』がある! 狙うのは、敵の指揮官だ!」

セーラお婆さんが用意した「秘密の矢」とは、矢じりの先に、強い催眠作用のある薬草の粉末を詰めた、布袋を取り付けたものだった。殺傷能力はないが、当たれば敵を眠らせ、混乱させることができるはずだ。

そして、最も重要な、トレビュシェットの運用部隊。そこには、ボルツとエミール、そして最も力のある男たちが選ばれた。俺は彼らに、砲弾となる石の重さと、投擲アームの角度によって、飛距離がどう変わるかを示した、簡単な射程表を渡した。

「いいか、これは数学だ。感情で撃つな。計算で撃て。最初の目標は、敵の陣地の、ど真ん中。指揮官のテントだ。初弾で、敵の頭を叩き潰すぞ」

ボルツは、射程表を睨みつけ、何度も頷いていた。

訓練を重ねるうちに、領民たちの顔つきは、日に日に変わっていった。最初の頃の、恐怖に怯える百姓の顔は、もうどこにもなかった。そこにあったのは、自分たちの知恵と力で、運命に抗おうとする、戦士の顔だった。

共に汗を流し、泥にまみれ、同じ釜の飯を食う。その中で、彼らの間には、かつてないほど強い連帯感が生まれていた。それは、恐怖で縛られた軍隊の規律とは違う、同じ未来を目指す仲間としての、熱い絆だった。

俺は、いつの間にか、単なる知識を教える教師ではなく、彼らの命を預かる、リーダーとなっていた。その重圧は、正直、教師の比ではなかった。だが、不思議と、不安はなかった。隣には、常に俺を支えてくれるアリアがいた。後ろには、俺の教えを信じ、実践してくれる、頼もしい仲間たちがいたからだ。

そして、運命の十日目の朝が来た。

見張り台に立つ若者が、声を張り上げた。

「――来たぞ! 西の街道から、砂埃だ! 敵の軍勢だ!」

その報告に、村の空気は一瞬で張り詰めた。だが、そこにパニックはなかった。

誰もが、静かに、しかし素早く、それぞれの持ち場へと散っていく。

俺は、アリアと共に、トレビュシェットが設置された、土塁の上の司令塔に立った。そこからは、村全体と、西の街道が一望できた。

やがて、砂埃の向こうから、黒い鉄の塊が姿を現した。赤地に黒い鷲の旗印が、風にはためいている。先頭には、重装備の騎馬隊。その後ろには、槍と盾で武装した歩兵部隊が、延々と続いている。その数は、目算で五百は下らないだろう。

対する俺たちは、戦闘員と呼べる者は、わずか五十名。絶望的な戦力差だ。

だが、俺たちの目には、もはや恐怖はなかった。

俺は、隣に立つアリアの手を、一度だけ、強く握った。彼女も、強く握り返してくれた。言葉は、必要なかった。

俺は、眼下に広がる、自分たちが作り上げた『科学の砦』を見下ろし、そして、迫り来る敵軍を、冷静に見据えた。

(さあ、授業の成果を見せてみろ、アードラー辺境伯。あんたたちの知らない、新しい戦争のやり方を、たっぷりと教えてやる)

戦いの火蓋は、今、切られようとしていた。

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