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『召喚された俺のスキルは【理科】でした~辺境で始める科学文明再生記~』  作者: とびぃ


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第4節:トレビュシェット計画

トレビュシェットの建設は、困難を極めた。それは、今まで俺たちが作ってきた濾過装置や反射炉とは、規模も、要求される精度も、桁違いだったからだ。

主柱となるのは、森で切り出した、最も太く、硬い樫の木。それを何本も組み合わせ、土塁の頂上に深く埋めて固定する。領民たちが総出でロープを引っ張り、滑車を軋ませながら、巨大な柱を垂直に立てていく。その光景は、まるで古代の巨石文明の建設現場のようだった。

投擲アームとなる長い腕木には、一本の、しなやかで強靭なトネリコの木が選ばれた。長さを稼ぐために二本の木を継ぎ合わせ、その接合部は、ボルツが特別に鍛え上げた鋼鉄の帯で、何重にも補強された。

「ちくしょう、何度やっても、ここの角度が微妙にずれる!」

ボルツは、回転軸の部品を金床の上に乗せ、汗だくになりながら槌を振るっていた。わずか数ミリの誤差が、投石の精度に致命的な影響を与えることを、彼は経験則で理解していた。俺が提示した設計図の数値を、彼はミリ単位で再現しようと、寝る間も惜しんで鉄と向き合っていた。もはや、そこに以前の頑固な職人の姿はなく、未知の課題に挑む、真摯な科学者の顔があった。

最も困難だったのは、やはり、カウンターウェイトとなる巨大な箱の製作だった。分厚い木の板を組み合わせ、鉄の帯で補強したその箱には、最終的に数トンもの石が詰め込まれる。その重量を支え、かつスムーズに落下させるための機構は、極めて高い精度が要求された。

「だ、だめです、サトシ先生……。僕の手じゃ、こんなに硬い鋼を、図面通りに削るなんて……」

トリガー部分の部品加工を任されたエミールが、涙目になってヤスリを置いた。彼の細い指は、豆が潰れて血で滲んでいる。気弱な彼にとって、この村の運命を左右するかもしれない部品を作るというプレッシャーは、あまりにも大きすぎた。

俺は、彼の肩にそっと手を置いた。

「エミール。焦らなくていい。疲れた時は、休むのが一番だ」

俺は、彼に水差しを渡した。そして、彼が作った、わずかに歪んだ部品を手に取る。

「確かに、少しだけ形が違うな。だが、君の仕事は、誰よりも丁寧だ。このヤスリの跡を見ればわかる。君が、どれだけ心を込めて、この部品と向き合っていたかが」

「……でも」

「失敗は、悪いことじゃない。失敗は、最高のデータだ。『こうすると、うまくいかない』という、貴重な発見なんだ。科学は、その失敗の積み重ねの上に成り立っている。さあ、もう一度、どこで、なぜうまくいかなかったのかを、一緒に考えてみよう」

俺は、叱責するでも、安易に励ますでもなく、ただ一人の教師として、彼の失敗の原因を、一緒に分析し始めた。温度による金属の膨張、ヤスリをかける角度、力の入れ具合。一つ一つの変数を、根気よく検証していく。

その様子を、アリアが少し離れた場所から、静かに見守っていた。彼女の目には、エミールを気遣う優しさと、俺への深い信頼の色が浮かんでいた。

俺とエミールが夜遅くまで作業を続けていると、アリアが、温かいスープとパンを持ってきてくれた。それは、以前、俺が一人で研究に没頭していた時に、彼女が作ってきてくれたものと同じ、優しい味がした。

「先生、エミール。少し、休んでください」

三人で、黙々と夜食を食べる。作業の合間の、静かで、穏やかな時間。この何気ない時間こそが、俺たちが守りたいものなのだと、改めて実感した。

「……アリア姉ちゃん。……ありがとう」

スープを飲み干したエミールが、ぽつりと礼を言った。そして、彼は再びヤスリを手に取った。その目には、もう迷いの色はなかった。

数日後。

領民たちの努力と、ボルツの執念、そしてエミールの繊細な技術が、ついに一つの形となった。

土塁の上にそびえ立つ、巨大な木の怪物。天を突くように伸びる、長さ15メートルの長大な腕。その根元には、鋼鉄の輝きを放つ、精密な回転軸と、複雑なトリガー機構が組み込まれている。

グレイウォールの最終兵器、トレビュシェットが、ついに完成したのだ。

完成を祝う歓声の中、俺はアリアと二人、少し離れた場所からその威容を眺めていた。

「……すごいものが、できてしまいましたね」

アリアが、畏怖の念を込めて呟く。

「ああ。すごい力だ。だが、力は、それを使う者の心次第で、薬にも毒にもなる」

俺は、トレビュシェットを見つめながら言った。

「俺は、この力が、誰かを傷つけるためではなく、俺たちの大切なものを守るためだけに使われることを、心から願っている」

俺の言葉に、アリアは何も言わず、ただ、そっと俺の隣に寄り添った。彼女の小さな手の温もりが、俺の心に静かな勇気を与えてくれた。

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