巾着袋と王都
始めてルビ使ったわ
モルドの町を旅立ってから、数ヶ月。
ジェスターとリリィは、王都プティシュを目指して旅を続けていた。
普段のジェスターであれば、道中で面白そうなものを見つけるたびに足を止め、気まぐれに寄り道を楽しんでいたことだろう。
しかし、今回は違った。
出発前、モルドから念を押されていたのだ。
──余計な寄り道はせず、真っ直ぐ王都へ向かうように、と。
その言いつけを、ジェスターは意外にも律儀に守っていた。
もっとも、本人にとっては相当な苦行だったらしい。
『ああ……あんなにも楽しそうな舞台があるというのに、立ち寄ることもできないとは……なんたる口惜しさ!』
道端に見える賑やかな町並みを遠目に眺めながら、ジェスターは大げさに嘆いた。
「ジェスター、まだ言ってるの? モルドさんに言われたでしょ! 寄り道は駄目って!」
『そんな殺生な……』
「駄目ったら駄目! 駄目駄目駄目!」
『クゥ〜ン……』
ジェスターは帽子の先をしょんぼりと垂らし、まるで叱られた犬のような声を漏らした。
「もう……。ちゃんと王都に着いたら、いくらでも遊べばいいじゃない」
『おやおや! リリィちゃん、それは本当でございますかな!?』
「え? うーん……まあ、少しくらいなら」
『ヨホホホ! 言質を取りましたぞ! これは楽しみになってまいりましたなぁ!』
「ちょっと! 今のはそういう意味じゃないからね!」
そんな他愛のないやり取りを交わしながら、二人は緩やかな坂道を上っていった。
そして──。
「あ! それよりも、ほら! 見えてきたわよ、ジェスター!」
リリィが前方を指差した。
二人が丘を上り終えた、その先。
眼下に広がっていたのは、広大な平原と、その中央にそびえ立つ巨大な城壁だった。
城壁は地平線の彼方まで続いているかのように見え、その内側には数え切れないほどの建物が密集している。
さらに遠くには、都市の中心を見守るように、ひときわ巨大な王城の姿があった。
大陸有数の大都市。
王都プティシュ。
『ヨホホホホ! これが王都プティシュですか……! いやはや、実に大きいですねぇ!』
「そうね! 今まで見てきた中で一番大きいわ!」
リリィは目を輝かせながら、眼下の街並みを眺めていた。
これまで訪れた町や村とは、規模がまるで違う。
人々の暮らしがあり、商いがあり、さまざまな文化が交わる場所。
そこには、きっと今まで見たこともないような光景が広がっているのだろう。
『さてさて、それでは早速向かうといたしましょうか!』
「うん! 早く行こう!」
二人は顔を見合わせ、再び歩き出した。
数ヶ月にわたる旅路の終着点。
そして、新たな舞台の幕開けとなる王都プティシュへ。
二人の足取りは、自然と軽くなっていた。
◇
王都プティシュの城門前。
ジェスターとリリィは、王都へ入るための検問を受けるべく、長い列に並んでいた。
周囲には商人や旅人、冒険者など、さまざまな人々の姿がある。大きな荷車を引く商人もいれば、護衛を連れた貴族らしき者たちもいた。
大勢の人々が行き交う光景は、それだけで賑やかなものだった。
そんな列の中から、突然、赤子の泣き声が響いた。
「ホギャァ! ホギャァ!」
「お〜よしよし。泣かないで、私の坊や。お〜よしよし」
若い母親が、腕の中で泣きじゃくる赤子をあやしている。
『おやおや……』
ジェスターがそちらへ目を向けた、その時だった。
「チッ! うるっせーぞ! さっさと黙らせろ! ババア!」
近くに並んでいた粗暴な男が、苛立たしげに声を荒らげた。
「す、すみません……」
母親は申し訳なさそうに頭を下げる。
しかし、その様子を見ていたリリィは、黙っていられなかった。
「ちょっと! 赤ちゃんは泣くことが仕事なのよ! そんなことも知らないわけ?」
「あぁ!? なんだよ、ガキが出しゃばってんじゃねぇよ!」
「何よ! そのガキでも知ってることを教えてあげてるのよ!」
「テメェ……!」
「あ……あの……」
母親が止めようとするが、二人の耳には届いていない。
「アブゥ」
赤子だけは、そんな騒ぎなど気にも留めず、母親の腕の中で声を上げていた。
いつの間にか、親子そっちのけで言い争いを始めてしまった二人。
その様子を眺めていたジェスターは、やれやれと肩をすくめた。
『〜〜〜〜♪』
次の瞬間、どこからともなく取り出した笛を口元へ運び、ジェスターは美しい旋律を奏で始めた。
澄み渡るような音色が、城門前に響き渡る。
言い争っていた男とリリィも、思わず口を閉ざした。
そして、演奏が終わると同時に──。
『ヨホホホ! せっかくの王都です。皆様、笑顔でまいりましょう!』
ジェスターは懐から一組のトランプを取り出し、空高く放り投げた。
パチンッ!
指を鳴らす。
すると、宙を舞っていたカードが次々と姿を変えた。
あるものは色鮮やかな蝶となり、あるものは美しい花となり、またあるものは小鳥となって空を舞い始める。
「ジェスター!?」
リリィが驚きの声を上げる。
「わぁ!」
「キャッキャッ!」
赤子は先ほどまで泣いていたことも忘れ、楽しそうに手足をばたつかせた。
「うおっ!? どうなってんだ!?」
周囲の人々からも驚きの声が上がる。
『ヨホ! お次の演目は……』
ジェスターは今度はどこからともなく色とりどりのボールを取り出した。
まずは二つ。
それらを軽やかに宙へ放り、両手で器用に受け止めながら、次々と投げ返していく。
すると、ボールはいつの間にか四つに増えた。
さらに八つ。
そして十六個。
数え切れないほどのボールが、ジェスターの周囲を鮮やかに飛び交う。
「うおおお! すげぇ!」
「いいぞ、兄ちゃん!」
「すげぇぞ! どうなってんだ!」
いつしか列のあちこちから歓声が上がっていた。
ジェスターは最後にボールを一斉に空へ放り投げる。
それらは一瞬にして小さな光の粒となり、青空へ溶け込むように消えていった。
『ヨホホホホ!』
ジェスターは帽子を軽く持ち上げ、観客たちへ一礼した。
拍手と歓声が広がる中、彼は隣にいるリリィへと顔を向けた。
『ところで、リリィちゃん』
「なに?」
『先ほどの一件、どう思われましたかな?』
「……さっきのこと?」
『ええ。あの冒険者さんと、あちらの奥様のことでございます』
リリィは少しだけ頬を膨らませた。
「だって、あのおじさんが悪いんだもん。赤ちゃんが泣いてるだけなのに、あんなひどいことを言うなんて」
『ヨホホ! 確かに、あの方の言い方には問題がございましたなぁ』
ジェスターは頷き、続けた。
『ですが、誰しも事情を抱えているものでございます。あの冒険者さんも、今日は何か嫌なことがあったのかもしれません。あるいは、長旅で疲れていたのかも』
「……それでも、あんな言い方をしていいわけじゃないわ」
『もちろんでございます。だからこそ、人は話し合う必要があるのですよ』
ジェスターは、先ほどの母親と冒険者へ視線を向けた。
『相手の事情を知らぬまま決めつけてしまえば、互いに分かり合う機会を失ってしまいますからなぁ』
「む〜……」
『おやおや。まだ少々難しかったですかな?』
「……わかったわよ。私もすぐに喧嘩腰になっちゃった。あのおじさんの話も聞かずに怒っちゃったもの」
『ヨホホ! それでは、言うべきことは分かりますね?』
「うん!」
リリィは男の方へ歩み寄った。
「冒険者のおじさん!」
「あん?」
「さっきはごめんなさい。いきなり怒鳴っちゃって」
男は少し意外そうに目を瞬かせた。
そして、頭を掻きながら気まずそうに口を開く。
「あ〜……俺も悪かったよ。大声出して悪かったな」
リリィは小さく頷いた。
『ヨホホ! そして冒険者さん。もう一人、謝る相手がいらっしゃいますよね?』
「ああ、そうだったな」
男は母親へ向き直った。
「奥さん、さっきは悪かった。赤ん坊は泣くのが仕事だからな。気にしなくていいぜ」
「いえ、こちらこそ騒がしくしてしまって申し訳ありませんでした」
「いいさ。な? 嬢ちゃん」
男が赤子に向かって笑いかける。
「アブゥ!」
赤子はご機嫌な様子で手を伸ばした。
その姿を見て、男も母親も、そしてリリィも自然と笑みをこぼした。
『ヨホホホホ! これにて万事解決!』
ジェスターは満足げに両手を広げた。
◇
それからというもの、ジェスターとリリィは列を進みながら、ちょっとした催しを続けていた。
ジェスターは手品で人々を驚かせ、リリィは魔法で小さな光の花を咲かせたり、空中に水の球を浮かべたりしてみせる。
最初は驚いていた人々も、いつしか二人の芸を楽しみにするようになっていた。
長い検問の待ち時間も、今ではあっという間に過ぎていく。
そして、ついに二人の順番が回ってきた。
「おいおい、なんだこの騒ぎは……」
検問を担当していた門兵が、列の向こうから聞こえる歓声に気づいて顔を上げた。
「あ! 門番の兄さん。いやね、面白いピエロがいるもんで、退屈な待ち時間があっという間だったんだよ」
「ピエロ?」
『ヨホホホホ! ワタクシたちのことでございます!』
「うおっ!? いつの間に!」
『ヨホ!』
門兵の目の前には、いつの間に移動したのか、ジェスターがにこやかに立っていた。
その隣では、リリィが楽しそうに笑っている。
どうやら、王都の正門に到着して早々、二人はちょっとした騒ぎを巻き起こしてしまったようだった。
◇
門兵は、目の前に立つ奇妙な道化師をじっと見つめていた。
「それで、そちらの荷物を確認させてもらう。武器や危険物は持ち込んでいないな?」
『ヨホホホ! もちろんでございますとも!』
ジェスターは胸を張り、腰にぶら下げた巾着袋を軽く叩いた。
『こちらはワタクシの大切な商売道具でございます。中身をお見せすれば、すぐにご納得いただけるかと!』
「ならば、そこに入っているものを確認させてもらおう」
『かしこまりました!』
ジェスターは腰巾着に手を突っ込むと、さっそく中を探り始めた。
そして、最初に取り出したのは──。
「……これは?」
門兵が怪訝そうに眉をひそめる。
ジェスターの手に握られていたのは、ひびの入った小さな木箱だった。
『おや? これは古いおもちゃ箱でございますなぁ!』
「おもちゃ箱?」
『ええ。中身は……おっと、空っぽでございますねぇ』
ジェスターは木箱をひっくり返した。
カラン。
中から小さな木製の歯車が一つ転がり落ちる。
「……次だ」
『ヨホ! では、こちら!』
続いて取り出したのは、片方の車輪が外れた小さな馬車のおもちゃだった。
「これは?」
『子供向けのおもちゃでございます! なかなか精巧な作りでしょう?』
「……そうだな。次」
『では、こちらはいかがでしょう!』
今度は、色褪せたぬいぐるみ。
さらに、欠けた陶器の人形、用途の分からない金属片、曲がったスプーン、片方だけの靴下。
「おい、ちょっと待て」
門兵の眉間に深い皺が寄った。
「なんだ、そのガラクタの山は?」
『おやおや! ガラクタとは失礼な! どれもこれも、いつか何かの役に立つかもしれない大切な品々でございますぞ!』
「役に立つようには見えんが……」
「ジェスター、そんなものばかり出してないで、ちゃんと検査を終わらせようよ」
リリィが呆れたように声を掛ける。
『おや、これは失礼! では、次の品を──』
「まだあるのか!?」
門兵が思わず声を上げた。
『もちろんでございます! ワタクシの腰巾着は、夢と希望が詰まった不思議な袋でございますからなぁ!』
そう言って、ジェスターは再び手を突っ込んだ。
ごそごそ。
ごそごそ。
そして、取り出したのは一本の短剣だった。
「……おい」
『おや? これは短剣でございますな』
「そんなことは見れば分かる! 武器じゃないか!」
『ヨホホホ! 確かに武器でございますねぇ!』
ジェスターは悪びれる様子もなく、短剣をくるりと回してみせた。
「まだあるのか?」
『さてさて、どうでしょう?』
「全部確認させてもらうと言ったはずだ!」
『これはこれは、失礼いたしました!』
ジェスターはさらに袋の中を探り、今度は小さな瓶を取り出した。
中には、紫色の液体が揺れている。
「……それは何だ?」
『さぁ? 何でしょうなぁ?』
「知らないのか!?」
『ヨホホホ! 中身を確かめてみますかな?』
「やめろ! 絶対に開けるな!」
門兵は慌てて瓶を取り上げると、慎重に蓋が閉まっていることを確かめた。
その直後。
『おやおや、まだ何かございますなぁ!』
「もういい! もう十分だ!」
門兵の制止も聞かず、ジェスターは袋の奥から何かを引っ張り出した。
それは、手のひらほどの大きさをした黒い球体だった。
表面には、幾重にも重なった複雑な紋様が刻まれている。光を吸い込むような黒い表面は、見る角度によってわずかに揺らいでいるようにも見えた。
「…………」
門兵は、思わず息を呑んだ。
何か危険なものだと断言できるわけではない。
しかし、目の前の球体には、どこか生理的な不安を掻き立てるものがあった。見つめていると、得体の知れない深淵を覗き込んでいるような感覚に襲われる。
「おい……それは何だ?」
『おや? これはこれは、懐かしいものが出てまいりましたなぁ』
ジェスターは黒い球体を手のひらで転がし、楽しげに眺めた。
「知っているのか?」
『ええ。大切な思い出の品でございますよ』
「思い出の品……?」
『左様。今となっては、ただの魔力を蓄えた器のようなものですがねぇ』
「魔力を蓄えた器?」
『ええ。ちょっとばかり容量が大きいだけでございます』
ジェスターは何でもないことのように答えた。
だが、門兵にはその説明だけで納得できるはずもなかった。
「……本当に、それだけなのか?」
『ヨホホホ! 少なくとも、今すぐ爆発したり、何かを襲ったりするような代物ではございませんぞ!』
「今すぐ、という言い方が気になるんだが……」
「ジェスター! だから、そんなものを出しちゃ駄目だってば!」
リリィが慌てて口を挟む。
『おやおや、リリィちゃん。こちらは大切な品でございますよ?』
「そういうことじゃないの!」
門兵は二人のやり取りを見つめたあと、周囲の兵士たちへ目配せした。
「……念のため、少し離れていろ」
兵士たちは警戒しながらも、黒い球体を見つめる。
その異様さに、誰もが言葉を失っていた。
「貴様ら、いったい何者だ! そのような得体の知れないものを持ち歩いているとは……!」
『持ち歩いているというより、袋に入れていたのでございますが』
「同じことだ!」
「隊長! この男、ほかにも武器らしきものを持っています!」
「何だと!?」
門兵たちの警戒がさらに強まった。
やがて、最初に対応していた門兵が一歩前へ出る。
「二人とも、こちらへ来てもらおう。詳しい事情を聞く必要がある。場合によっては拘束し、詰所で取り調べを行う」
『おやおや! これは困りましたなぁ!』
ジェスターは、まるで芝居の途中で予想外の展開に出くわした役者のように、両手を広げた。
『ワタクシたちは、ただ冒険者ギルドへ向かいたいだけなのでございますが!』
「冒険者ギルドだと?」
「そうよ! 私たちは冒険者なの!」
リリィが慌てて説明する。
「冒険者……?」
門兵は二人を見比べた。
奇抜な道化師と、幼い少女。
どう見ても、冒険者には見えない。
「証明できるものはあるか?」
『もちろんでございます!』
ジェスターは腰巾着へ手を伸ばしかけた。
「待て!」
門兵が即座に声を張り上げる。
「もうその袋に手を入れるな! 何が出てくるか分かったものではない!」
『おやおや、これは失礼!』
ジェスターは両手を上げてみせた。
「リリィちゃん、冒険者カードをお願いできますかな?」
「うん。はい、これ!」
リリィは懐から冒険者カードを取り出し、門兵へ差し出した。
門兵はカードを受け取ると、記載された情報を確認する。
「……Cランク冒険者か」
「そうよ。私たちは各地で依頼を受けながら旅をしているの」
「なるほど……」
門兵はカードを返し、今度はジェスターへ視線を向けた。
「そちらもカードを見せてくれ」
『かしこまりました!』
ジェスターは今度こそ、ゆっくりと腰巾着へ手を入れた。
門兵たちが一斉に身構える。
しかし、取り出されたのは一枚のカードだった。
「……確かに、こちらもCランクだな」
『ヨホホホ! これでワタクシたちが怪しい者ではないと、ご理解いただけましたかな?』
「いや、カードがあるからといって、さっきの品々まで見逃すわけにはいかん」
門兵は短剣と紫色の瓶、それから黒い球体を順番に見やった。
「武器の携帯については、冒険者ならば認められている。だが、薬品や正体の分からない道具については、確認が必要だ」
『なるほど、なるほど!』
「その瓶は、危険性が分かるまでこちらで預からせてもらう。黒い球体についても、詳しいことが分かるまでは不用意に人目にさらさないようにしてくれ」
『承知いたしました。こちらはワタクシの手元に置かせていただきますが、むやみに取り出さないようにいたしましょう』
「本当に頼むぞ……」
門兵は疲れたように額を押さえた。
「それと、今後は荷物の中身をきちんと把握しておいてくれ。次に同じようなことがあれば、冒険者であろうと詰所で事情を聞かせてもらう」
『ヨホホホ! 善処いたしましょう!』
「善処ではなく、きちんと頼む!」
こうして、二人はどうにか拘束を免れ、城門を通過できることになった。
門兵は最後にもう一度だけジェスターを見つめ、深いため息をつく。
「……まったく。こんな騒ぎになるとは思わなかった」
『ヨホホホ! これもまた、旅の醍醐味でございますなぁ!』
「お前は少し反省しろ!」
門兵の怒声を背に、ジェスターとリリィは城門をくぐった。
◇
城門を抜け、城下町へと足を踏み入れる。
目の前には、見渡す限りの街並みが広がっていた。
石畳の大通りには馬車が行き交い、色とりどりの露店が軒を連ねている。建物の壁には看板が掲げられ、道行く人々の声や商人たちの呼び込みが、街全体を賑やかに彩っていた。
「わぁ……!」
リリィは思わず目を輝かせた。
「すごいね、ジェスター! こんなに大きな街、初めて!」
『ヨホホホ! これはこれは! 実に賑やかで、活気に満ちた街でございますなぁ!』
ジェスターも周囲を見回し、楽しげに帽子の鈴を鳴らした。
だが、今は街を見物している場合ではない。
「そういえば、冒険者ギルドってどこにあるんだろう?」
リリィが首を傾げる。
『おや、そうでございましたな! それでは、先ほどの門兵さんに尋ねてみましょう!』
ジェスターはくるりと振り返り、まだ門の近くにいた門兵へ声を掛けた。
『門兵様! ひとつお尋ねしてもよろしいでしょうか!』
「……今度は何だ?」
門兵は、少し警戒した様子で振り返った。
『冒険者ギルドへ向かいたいのですが、道を教えていただけますかな?』
「ああ、それなら大通りをまっすぐ進んで、中央広場を右へ曲がるといい。大きな建物が並んでいる一角がある。その中でも、青い看板に翼の紋章が描かれた建物が冒険者ギルドだ」
「ありがとう!」
「それと、ギルドの名前は蒼穹の旅人だ。王都でも最大級のギルドだから、すぐに分かるはずだ」
『ほほう! 蒼穹の旅人!』
ジェスターは、その名を口の中で転がすように繰り返した。
『いやぁ、すんばらしい名前でございますなぁ! 青く広がる空を渡り歩く旅人たち……実にロマンを感じますぞ!』
「ふふっ。ジェスターらしい感想ね」
「道に迷って騒ぎを起こすんじゃないぞ」
『ヨホホホ! ご心配なく! 今度こそ、寄り道せずに目的地へ向かうといたしましょう!』
「本当かなぁ……」
リリィは、どこか疑わしそうにジェスターを見上げた。
『おやおや? ワタクシを信用していないのでございますか?』
「だって、さっきから気になるものばっかり見てるじゃない」
『ヨホホホ! それはそれ、これはこれでございます!』
「もう……」
二人は顔を見合わせて笑うと、門兵に礼を告げて歩き出した。
目指すは、王都最大級の冒険者ギルド──蒼穹の旅人。
果たして、そこでどのような出会いが待っているのか。
二人の新たな旅が、いよいよ始まろうとしていた。
読んでくれてあんがとな




