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悪役令嬢・オブ・ザ・デッド ~転生悪役令嬢エレーナは肉食系腐男子(ゾンビ)による回避不能の世界破滅フラグに立ち向かいます~  作者: 佐々木鏡石@『じょっぱれアオモリの星』コミックス発売中
第三章 RESIDENT EVIL:悪役令嬢

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迫王姫 ~悪役令嬢奇譚~④

「あの、エレーナ、そろそろ就寝時間だろ? もう自分の部屋に戻っても……」

「ダメです」


私は笑顔でジークハルトに言った。

むう、と唸ったジークハルトに、私は更に笑顔で言った。


「今日一日は、療養していただくと言ったはずですわ。今日は何日まで? 深夜12:00までですわね? ならば一分一秒も無駄にすることは出来ませんわ」


その笑顔に何かしらの恐怖を覚えたのか、ジークハルトは紫の瞳を泳がせた。

こういうときは怖い顔をするよりもむしろ笑顔のほうが患者は勝手に動きづらい。

それは前世看護師であった高柳千鶴が発見した方法だった。


「さて……そろそろ寝る頃ですわね。殿下、どうぞおやすみなさいませ」

「さ、さすがに眠くないよ! 今日、何時間寝たと思ってるんだい!? もう眠れないよ!」

「その前に何時間起きていたとお思いですの? さぁさ、無理にでも寝てください。……そうだ、殿下は子守唄がよろしいですか? 昔話がよろしいですか?」

「なっ、何言ってるの?! 子供じゃないんだからそんなのなくても眠れるって!」

「なら眠ってくださいませ。私がここで見ていて差し上げます。遠慮なくどうぞ」


私がちょっとからかうと、ジークハルトはムッとした表情を浮かべ、布団で顔を隠した。

それが本当に眠れないと駄々をこねる子供のようで、私は思わずくすくすと笑い声を挙げてしまった。


さて、と私はひとつ背伸びをした。


今日一日は、本当につきっきりでジークハルトの面倒を見た。

食事とトイレ以外にはほとんどベッドから出さず、食事は三度三度届けさせたし、そのレシピはとっておきの体力回復メニューだった。

まさか今日一日で全ての疲労が取れたわけは無いだろうが、それでもジークハルトの顔色は格段によくなり、声にもハリが戻ってきた。




ねぇエレーナ、こんなところでいいかしら。




私は私の中のエレーナにそう語りかけた。

まさかエレーナの言葉が返ってくるわけはなかったが、きっとエレーナも今頃胸をなでおろしているだろうという予感があった。

今日一日で、私はエレーナとしての、ジークハルトの婚約者としての務めを立派に果たせたと言っていいと思う。


ふわぁ、と、気が緩むとあくびが出た。

すでに夜10時を回っているし、ほとんど徹夜をしたせいで私も眠かった。

またあのソファで寝るのはちと辛いが、ベッドはジークハルトが使っているし、致し方が無いだろう。


「おやすみなさいませ、殿下」


そう囁いて立ち上がり、私はソファに寝転ぼうとした。




「エレーナ、エレーナ!」




ん――と私は顔を上げた。コンラッドの声だ。

私はドアに駆け寄ると、ドアを開けた。

開けた途端、コンラッドはぬっと顔を部屋の中に入れてきた。


「わっ!? ちょ、コンラッド……?!」

「エレーナ、ちょっと顔貸してくれ。クラウス司祭が呼んでる」

「え? クラウス司祭が?」


何故? と問おうとする前に、コンラッドが表情から何かを読み取って首を振った。


「俺にも何でかなんてわかんねぇよ。ただアンリエッタが呼びに来たんだ。至急、お前とジークハルトに話が聞きたいことがあるんだと」


そう言うと、むくっ、とジークハルトが起き上がる音がして、私は振り返った。


「あぁ――僕ならここにいるけど、どうしたんだいコンラッド?」


ぎょっ、とコンラッドが目を瞠り、ジークハルトを見た。


「ジークハルト……!? おまっ、お前、なんでエレーナの部屋に……!?」


おっといけない、コンラッドには何も話していなかった。

私は慌てて「違うの! これは違うの!」浮気バレした若妻のような声を上げた。


驚くコンラッドと、下手な誤魔化しを繰り返す私を交互に見て。

ジークハルトの方が呆れたように頭を掻き、始末の悪そうな声で言った。


「もう……僕が昨日、疲労でふらついていたのをエレーナが見かねてこの部屋で療養させてくれてたんだ。全く、変な勘違いしないでくれ……なにもないよ」


ジークハルトの言葉に、私は必死に頷いた。

コンラッドは私とジークハルトの顔を交互に見つめて、それから安心したようなため息をついた。


「ま、まぁそういうことなら仕方がないな……とにかく、二人とも、ついてきてくれるか?」

「私が行くわ。殿下はまだ療養中なの」

「あ、いや、流石にそれは僕も――」

「ダメです!」


思ったより大きな声が出て、自分でもびっくりした。

ジークハルトがなにか言う前に、私は背後を振り返って釘を刺した。


「とにかく――殿下は寝ていてください、ね? 後で必要とあらばクラウス司祭をお呼びしますから。とりあえず私が要件を聞いてまいります。それならいいでしょう?」


いいですね? というように念押しすると、観念したようにジークハルトが言った。


「僕はここでいい子してるよ。悪いけど、二人で行ってきてくれ」


私は頷くと、コンラッドと二人で部屋を出た。




◆




広い王宮を突っ切り、王立図書館へ。

クラウス司祭が使っている部屋に入ると、資料に齧りついているクラウス司祭、そしてすでに呼ばれていたらしいアンリエッタが同時に顔を上げた。


「ああ、遅い時間に悪いねエレーナ君。……あれ、ジークハルト君はどうしたんだい?」


私がなにか言う前に、コンラッドが説明した。


「ジークハルトは昨日、過労で倒れたらしい。話を聞きたいなら、悪いけどクラウス司祭の方で出向いてくれないか?」

「そうか……後で彼にも事情を聞こう。まずは私の話を聞いてくれ」


クラウス司祭は興奮したような表情と声で、一冊の分厚い本を指した。

もうボロボロという表現すら当てはまらない、虫食いと埃にまみれた資料。

これが作られた当時は真っ白だっただろう紙面も背表紙も、日に灼けて表題すら読み取れなかった。


「これは何だと思う? 驚くべきことに、王族しか閲覧の許されない類の資料、ラビリシア王家の真実の歴史を記録した本だ。何かの手違いでここに紛れ込んでいたらしい。とにかく、ここを見てくれ」


どれどれ? と私とコンラッドが覗き込むと、そこには細かい文字がびっしりと書き込まれている。

読めども読めども目が滑るだけで、なにが書いてあるのかよくわからない。


結局、私とコンラッドは同時に顔を上げ、顔を見合わせた。

読める? いいや全く、というように顔をしかめた私たちを見て、クラウス司祭は眉を顰めた。


「……ふたりとも、古典魔法学から30点の減点だ」

「え、えぇ――!?」

「そんな殺生な――!」

「『古代、エルフは地上の盟主としての権限をラビリシア宗家に移管した』――とありますね」


代わりに本を読んだアンリエッタが言った。

そう、その通りだ、というようにクラウス司祭は頷いた。


「その通りだ。アンリエッタ君は流石だな。――とにかく、これがどういうことかわかるかい?」


そう言われて、アンリエッタも首を振った。

クラウス司祭は興奮したように言った。


「つまりだ――エルフは滅んだわけではない。エルフは自らの意思で地上を去ったのだ。そして地上の覇者としての地位は、ラビリシア宗家――つまりジークハルト君の高祖父の血筋に移管された。これは彼らと我々人類の間の、一種の協定であったとこの資料は示している」

「どこか――って、どこなんだ? この世界にまだ知られてない世界があるってことか?」


まさか、と言いたげなコンラッドに、クラウス司祭は「いい質問だ」と教師の声で言った。


「アンリエッタ君、今読んだ次を読んでくれ」


アンリエッタが紙面に顔を寄せ、ぼそぼそと話し始めた。




「『この後、エルフは魔法の叡智をもって世界を二つに絶ち割り、ひとつを人間の世界、ひとつを彼らの世界と定めた』――ですか……!?」




後半は、アンリエッタ自身も驚きの声になっていた。


世界を二つに割った? 馬鹿な。

この《琥珀のエルミタージュ》にそんな裏設定があったのか。

私は知らないぞ運営さん、そんなことは一行もファンブックにも書いてなかったぞ――。

あまりにもファンタジーすぎる話の内容に、私は驚く前に顔を引きつらせた。


「信じられないのも無理はない。世界が二つに別れた、なんて普通では考えられない。だがそれなら多くのことに納得が行くのも事実だ。彼らは歴史上、あまりに忽然と姿を消した。そして今現在、この地上のどこにもいない。だがそれが、彼らが異空間へと姿を消した結果だと言うなら――」

「ちょ、ちょっと待ってくれ、クラウス司祭」


コンラッドが話を止めた。


「いくらなんでも突飛すぎるだろう。異空間? 正直、信じられるかそんな話。世界を二つに割るなんて、そんなことが実際にできるわけ――」

「できるからエルフなのだ。そして、実際に考えられない話でもない」


コンラッドの反論を、クラウス司祭が止めた。


「実際、私の師はエルフだった。彼が話してくれたことがある。魔法の力は組み合わせ次第では想像を絶する力を創り出す。空間を割るどころか、空間を消し去るような魔法だって……考え方によっては有り得なくもない」


その説明に、私は思い出す言葉があった。




『エルフとはラビリシア王家以外は接触できない』――。




昨晩、ジークハルトがそう言っていた。

話は尻切れ蜻蛉に終わったが、確かに彼はエルフと言ったのだ。


「そしてその鍵は、ラビリシア王家なんだ。おそらく、ジークハルト君がエルフとの接触方法について何らかの情報を得ている可能性がある。だから彼に話を聞きたかったんだが――」


クラウス司祭がそこまで言いかけた時、私ははっと思い出した。




『明日の晩、僕は父に会う』――。

『彼らに接触するには王の証明が必要だ』――。




ジークハルトはそう言っていた。

やはり彼は――ジークハルトはエルフとの接触方法を知っている。

そして、それには王の証明が必要だと言っていた。



「マズイわ……!」



私は鋭く声を上げた。




ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


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