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悪役令嬢・オブ・ザ・デッド ~転生悪役令嬢エレーナは肉食系腐男子(ゾンビ)による回避不能の世界破滅フラグに立ち向かいます~  作者: 佐々木鏡石@『じょっぱれアオモリの星』コミックス発売中
第三章 RESIDENT EVIL:悪役令嬢

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あんさんぶるS.T.A.R.S.④

えっ? とアンリエッタがクラウス司祭を見た。




「こっ、これ! あなた噛まれてるじゃない! 気づいてないの!?」

「えっ? か、噛まれてるって……?」


アンリエッタは不思議そうに私を見てから、「あぁ、そういえば……」と思い出したように言った。


「そう言えば、数日前からなんか首元が痒いような気が……ナルフィを脱出したときぐらいからでしょうか。なにしろあの時は必死だったから気づいてなかったかも……」


ぼんやりとした口調に、私よりもクラウス司祭のほうが慌てた。

慌ててクラウス司祭が部屋の時計で時間を確認し、うーん、と唸る。

どうやら噛まれてからの時間を計算しているらしかった。

深緑の髪を手で掻き毟り、滅多になく慌ててから。

そして――なんだかはっとしたような表情で言った。




「――四日と……十四時間以上経ってるな」




その一言に、私は信じられない思いでアンリエッタを見た。


「アンリエッタ――あなた、なんで肉食系腐女子(ゾンビ)にならないの?」

「えっ?」

「あなた、やつらに噛まれて血まで出てるのに……」

「あ、あの、私――なにかしちゃいましたか?」


アンリエッタがどぎまぎと言った。

その様子に、クラウス司祭が信じられないものを見る目で呻いた。


「あり得ない……今までの患者は早くて三十分、長くても三時間以内には肉食系腐男子(ゾンビ)化が始まっていたのに……」


そこまで言って、はっとクラウス司祭は再び何かに気づいた表情になった。


「そう言えばナルフィの教会の患者たちは――負傷から十二時間以上経過してるのに肉食系腐男子(ゾンビ)化しなかった……何故だ?」


私もクラウス司祭を見た。




「まさか……白の治癒魔法?」




これが病だとするなら。

不死のものと白の治癒魔法が全く反対の性質のものなら。

白の治癒魔法はそれを無効化できる――?


クラウス司祭が大きく頷いた。


「治癒魔法だ、間違いない。あの時、私はすべての患者のデータを取っていた。だが、アンリエッタ君が治療に加わってくれてからは、明らかに怪我人たちの症状の進行が遅延したと言える。影響を与えるものがあったとするなら――治癒魔法しかない」


アンリエッタが、わけがわからないというように私を見上げた。

私はアンリエッタの襟から手を離した。


「え、エレーナ様……」


そして――喜びを爆発させた。




「いやったあああああああああ!!」

「うわっ!?」




私はアンリエッタを両手で抱え上げ、ユサユサと振り回した。


「アンリエッタ! あなたよ! あなたがワクチンなのよ!」

「えっ、えええ――!?」

「あなたの力が世界を救うんだわ! あなたの治癒魔法! あなたが人類を救うの!」

「えっ、どういうことですか……!? あ、ちょ! えっ、エレーナ様ぁ! あんまり揺さぶらないで……!」

「いや、それはまだ早い」


冷静な声が聞こえ、私は頭から冷水を浴びせかけられたように興奮が冷めた。

私はアンリエッタの細っこい身体を持ち上げたまま、クラウス司祭を見た。


「確かに白の治癒魔法で肉食系腐男子(ゾンビ)化の原因を癒せる可能性は高い。だが、現状ではまだ不完全だ」

「えっ――?」

「覚えていないのか。完全に肉食系腐男子(ゾンビ)化した人間は治癒魔法をかけられると著しくダメージを負ってしまう上に、教会では完全に怪物化していない感染者も完全に癒やし切ることはできなかった。治療、あくまでそこに限るなら、まだまだアンリエッタ君の力では不十分なのだ」


そうだ、そうだった。

学園で治癒魔法をかけられたギュンターゾンビは、濃硫酸をかけられたかのように痙攣していた。

ナルフィでは白魔法を攻撃魔法に転じて使っていたぐらいだ。

そしてナルフィの教会でも――私たちは怪我人を救うことが出来なかったのだ。


興奮が急速に萎んだ。

私はストンとアンリエッタを降ろした。

アンリエッタは服の袖を直しながら、訳がわからないというように私の顔を見た。


私の落胆ぶりを見たクラウス司祭は「落胆するのもまだ早い」と慌てて付け加えた。


「つまりだな――白魔法と治癒魔法は厳密には別なのだ」

「えっ?」

「アンリエッタ君、隠しているところ悪いが、元々白の魔法は術者の生命力を他人に変換して分け与えるものだね?」


アンリエッタが驚いたように目を見開いた。


「気づいて――いたのですか?」

「ああ、ちなみにそれはエレーナ君も知っているようだし、おそらくジークハルト君もだね」


ジークハルトが?

私がクラウス司祭を見ると、クラウス司祭は目だけで肯定した。


「彼が王都で怪我人の治療を控えてくれと言ったのは、君の身体を思ってのことだろう。君の魔法が単なる治癒魔法とは違うことに彼も気づいていたのだ」


なんだ、アイツ――意外に鋭いところもあるじゃないか。

私が勝手にジークハルトを見直した気でいると、クラウス司祭が言った。


「だがそれでは不完全なのだ。現時点では、君は死体に生命力を直接注ぎ込んでしまう。これは蝋で出来た人形に煮え湯を注ぐのと同じ。身体は生命エネルギーに耐えきれずに崩壊してしまう」

「では一体どうすれば――」


質問攻めで申し訳ないが、ここで打開策を思いついてもらわなければおしまいだ。

急かす私に、しばしクラウス司祭は考え込んでから、言った。




「アンリエッタ君の白魔法を完成させることができれば、あるいは――」




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