↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/54

悪役令嬢 to the Liberty③

「よし、これで大丈夫――」


私はふう、とため息をつき、宝石商から買い取った鞄の口を締めた。

中身は結構余ったが、残ったイヤリングや指輪、ネックレスの類は今の私には必要のないものだった。


「何か武器は……」


武器を探していた私の目が、あるところで止まった。


教会らしく荘厳な祭壇。重厚かつ華やかなレリーフに彩られながらその祭壇に立つのは、一人の女性の姿である。



戦の女神・アエラ。

《琥珀のエルミタージュ》の公式Twitterアカウントが言うには、この《琥珀のエルミタージュ》の世界では最も崇拝されている女神であるという。



まだ天も地も固まっていなかった神話の時代、地上に降臨したアエラはあらゆる武器を人間たちに与え、はびこる魔族からこの大地を奪還させた。

この彫像はそのアエラが降臨した瞬間を現したものだそうだ。


確かに、レリーフの中のアエラは、剣だの盾だのメイスだの弓矢だの、幾千もの武器を人々に与えている。

私が注目したのは、アエラが両手で捧げ持っている手斧だった。


思わず近づいて見てみた。

彫像のように石造りではなく、明らかにその斧だけは鉄と木で別に作られている。


「使えそうね……」


私はフリフリのスカートの裾に気をつけながら彫像に足をかけ、女神を前に畏まる男の彫像の背中を踏み、かしずく女の頭を蹴って、アエラの肩に手を掛けた。

そのまま右手を伸ばし、彫像の手から斧を取った。


「ほほう」


おそらくはそれ自体が、この街の鍛冶屋か誰かが奉納したものだったのだろう。

多少煤けてはいるが、立派に刃もついている。

これを作った鍛冶屋の腕が良かったのか、軽く、片腕で持っても振り回すのに苦労はなかった。


「よし、斧。キミに決めた!」


声を上げた私は、ふと視線を感じて振り返った。


見ると、生存者たちが私を見ていた。


恐れ多くも女神の彫像によじ登り、その手から神の供物をもぎ取る貴族令嬢――。

背教者め! と石を投げられそうな雰囲気だった。


「あの、何か?」


私が威圧的に尋ねると、こっちを見ていた全員が慌てて視線を逸した。

フン、祟りを恐れてゾンビが殺せるかよ、と気合勝ちした私の耳に「褒められたことしてねぇなぁ、お嬢様」という呆れたような声が聞こえ、私はそっちを見た。


「リオン……」

「へ、クラウス司祭が物凄い目であんたを見てたぞ。すぐどっか行ったけどな」


相変わらず、ふてぶてしい声と表情だった。

リオンは祭壇に腰掛け、疲れたような絶望したような、何とも表現し難い表情で項垂れていた。


「あんた、昨日はどこ行ってたのよ。あれきり姿を見なかったけど」

「裏庭で麻布巻きつけて寝たさ。ここじゃうるさくて寝てられねぇよ。俺は悲鳴が聞こえないほうがよく眠れるんでね」

「相変わらず口の減らないクソガキね」


私が吐き捨てるように言うと、リオンが驚いたような顔をした。


「……貴族のお嬢様が利く口じゃ……」

「そのお嬢様言葉やめろって言ったのはアンタ。なら慣れた口調の方を使わせてもらうわ。そっちの方が嬉しいんでしょ?」


言い訳を封殺するように言うと、へ、とリオンは馬鹿にしたように笑って、明後日の方向を見た。


ややあって、リオンは私が持っている斧に視線を落とした。


「そんな斧ごときでゾンビどもが蹴散らせるかよ、バカバカしい――」


相変わらずの皮肉だったが、その手には乗るか。

私は言った。


「あなたこそ丸腰じゃない。これからどうするつもりよ。時間は十分にあったはずでしょ? 今まで何してたの? ただただ腐ってたの?」


私の一言にも、リオンは無言を貫いた。

その堅い横顔を見て、私は嘲るように黄色い声を出した。


「そっか、わかったわ! アンタ実はめちゃくちゃ強いのね!? コンラッドみたいに素手でゾンビたちを殴り倒せるんだ!! まるで英雄ね! すごく頼りになるわよ、頼もしい!!」

「うるせぇよ! んなこと――俺にできるわけねぇだろうがよ!」


リオンは苛立ったように言った。

だが私は、その表情と声にも、もう付き合うつもりはない。




男が男としてのプライドとやらを傷つけられた時に見せるらしい、傍目には不貞腐れているとしか見えない、その醜悪な態度。


その態度には――私はもう懲り懲りだった。




ふん、と、私は鼻を鳴らした。

私はリオンに近寄ると、無言で腕を掴み、リオンを立たせようとした。

リオンがぎょっと私を見た。


「っ――! 何すんだよ!?」

「とっとと立て、クソガキ。あんたはこれから私と一緒に武器を探すの。アンタのひんネジ曲がったわがままに付き合う余裕も暇も、今はないんだよ」


私はリオンの鼻先に顔を近づけ、呪いの言葉を吐くように言った。


「とっとと武器探して、脱出までそこで腐ってろ」

「は……離せよ! なんであんたにそんなこと言われなきゃなんねぇんだよ!」

「馬鹿ガキには言ってもわからないからでしょうが。構ってちゃんのくせにこれじゃ不満なの? いいから武器を――!」

「離せってんだろうが!!」


リオンが私の腕を力任せに振り払った。

あくまでワガママに付き合う気はない私は、無言でリオンを見下ろした。


そんな屈辱に耐えられなかったのか、リオンがとうとう、言わなくてもいい口を開いた。


「周りを見てみろ! ほとんど全員戦いについては素人なんだぞ! こんな奴らじゃ全員無傷で脱出なんかできっこねぇだろ!」


ざ、と、その場にいた生存者たちが一斉にリオンを見た。

ほうほうそれで? 私も無言で続きを促した。

多数の目に睨まれたリオンは、しどろもどろに口を開いた。


「どいつもこいつも捨てられねぇ希望ごっこしやがって……もうウンザリなんだよ! 何が作戦だよ! どう考えたって失敗するに決まってる! 違うか!?」


違わないかもしれない。だが、作戦の見通しが不確かなのはとっくにみんな了解済みだ。

こいつは一体、何にこんなにイラついているというのだ?


「あんたのせいだぞ、お嬢様……みんなあんたのせいで死ぬ。あんたが俺たちをここに連れてきたんだからな!」


リオンはヒステリックに怒鳴った。


「なのに……なのにアイツらはいつだって何も考えちゃいない! 足掻かなければ楽に死ねるんだ! あの貴族のバカ息子どもも、あの平民の娘もだ! 怪我人の治療なんてどうせ無駄なこと、俺たちは全部知って……!」




ブチッ、と、頭の中で音がした。

私の腕が意思とは無関係に動き、恐ろしい力でリオンの胸ぐらを掴んで捻じり上げた。




「な――」


リオンの身体が宙に浮いた。

私はリオンの胸ぐらを掴んだまま、ヒールを鳴らしてツカツカと歩くと、教会の反対側の壁に――思い切りリオンを叩きつけた。


「アンタみたいなクズが――!」


私は腹の底から怒声を張り上げた。




「アンタみたいなクズが、アンリエッタを馬鹿にすんじゃないわよ!!」


ここまでお読みいただきありがとうございました。


現在、このスプラッタ小説は、ポイント・評価共に非常に苦戦しております。

この作品を読まれた方の中に

もし「この小説にもうちょっとつきあってもいいよ」という奇特な方がおられましたら、

是非とも下の方から評価・ブックマーク等よろしくお願いいたします。


何卒お願い申し上げます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] リオンの存在が話をただのゲーム世界ではないと思わせてくれているように感じます。リオンの存在感に惹きつけられ、これからの物語の続きを楽しみにしております。頑張って続きを書いて下さい! [気に…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。