ミッドナイトゾンビ ~悪役令嬢遊戯~③
「クラウス司祭、それに皆様、お聞き下さい」
私が言うと、みんなが私を見た。
「もう救助が来る可能性は絶望的です。それにここには食料の備蓄もない。もはやここは、意を決して打って出る他にはありません」
その一言に、全員がぎょっと私を見た。
「おい、やけを起こすなエレーナ! 俺たちだけであいつらの中に飛び込んでいこうってのか?」
「いくらなんでも無茶だよ。僕たちだけで奴らと戦って王都に辿り着けるわけがない」
「出来ますわ。少なくとも、その可能性はある」
私の反論に、二人は口を閉じる。
私はクラウス司祭を見た。
「クラウス司祭、奴らの目、眼球についてお聞きします」
「眼球――?」
「そう、眼球ですわ。奴らの目は必ず白く濁っていた。ご覧になりましたか?」
いきなり何を言うんだという表情で、司祭はしどろもどろと話し始めた。
「確かに――怪我人の水晶体や強膜に異常があったのは確かだ。曇りガラス状に白く濁っていた。おそらくだが、視覚は失明レベルで弱まっていたかもしれない」
「その通り。そもそも今は夜です。私たちでさえ、お互いにお互いの顔が見えないのに、奴らは実に正確に私たちを発見している。となれば、奴らは――」
そこまで言うと、クラウス司祭が得たりと頷いた。
「奴らは弱まった視覚を聴覚で補っている――か。確かにそうかも知れない」
「その通りですクラウス司祭。奴らは音でこちらの位置を割り出している。ならば大きな音を立てれば奴らの注意を引きつけることができるはずです」
「で、でも、そんな大きな音、一体どこに……!?」
私はクラウス司祭を見た。
その視線に戸惑っていた司祭だが――次にははっと何かに気づいた表情になり、私を見て大きく頷いた。
「なるほど――時計塔か」
私も頷いた。
コンラッドとジークハルトはわけがわからないという表情で私とクラウス司祭を交互に見つめている。
「ついてきたまえ。君たちにも説明する」
そう言ってクラウス司祭は踵を返した。
階段を登り、教会の二階からバルコニーに出た。
私が手すりから身を乗り出して下を見ると、ゾンビたちが教会にうようよと集っている。
その数は視界に入るだけでざっと百人程度、どう頑張っても太刀打ちはできそうにない数だった。
「彼女が言ったのはあの時計塔だ」
クラウス司祭がコンラッドとジークハルトに示した時計塔。
この町にはやや不釣り合いとも言える、巨大な歯車と、これまた巨大な釣り鐘が印象的な時計塔――。
この街で起こるイベントのスチル絵には必ず登場する建物だった。
「あれがナルフィの時計塔だ。完全な機械仕掛けの時計で、約百年前からこの国のどこよりも正確に時を刻んでいる――あの鐘は正午になると一分間、あの巨大な鐘が動いて時を告げるんだ」
「なるほど……その鐘の音に乗じて脱出できれば――!」
「突破できる可能性はある、か。なるほど」
コンラッドとジークハルトが頷いた。
その顔には既に先程の弱気の影はなく、闘志に燃えた横顔だった。
これでとりあえず希望はつながった。私は安堵の気持ちとともに時計塔を見た。
その長針と短針は既に深夜の十二時を示そうとしていた。
脱出決行は約十二時間後。なんとしてもここを突破し、全員で王都を目指すのだ。
「しかしエレーナ君、君は一体何者なんだ?」
クラウス司祭が困惑したような、呆れたような表情で私を見た。
「あの化け物が音に敏感であることだけでなく、時計塔の音を利用して脱出しようだなんて――君、そんな知識を誰から教わった?」
その質問には、はい? と私が逆に首を傾げてしまった。
なんでそんなことを訊くんだろう。
ゾンビ映画に詳しくない私だって、奴らが聴覚でこちらを察知してることくらい知っている。
だからゾンビの前でわーわー大声を上げて走り回る馬鹿はいない。
だから映画のヒーローたちは極限まで息を潜めて、奴らに気づかれないように行動することになるのだ。
「誰から、って……常識ですわ」
「常、識――?」
その言葉に、クラウス司祭が困惑したような表情を浮かべた。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
言ってなかったですが、このスプラッタ小説のサブタイトルは
ゾンビ映画もしくは乙女ゲームのタイトルのパロディになっております。
ホント毎度毎度考えるの面倒くさいです。
この作品を読まれた方の中に
もし「この小説にもうちょっとつきあってもいいよ」という奇特な方がおられましたら、
是非とも評価・ブックマーク等よろしくお願いいたします。




