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Diabolik Priest②

「クラウス司祭……! 一体なにをした!?」




コンラッドの声にも、司祭は表情を変えずに言った。


「彼は既に数カ所を噛まれ、脈も呼吸も弱まっていた。彼が死んでしまえば、間もなく目を覚ます。彼らを人間のまま、神の御下に送る方法はこれしかない」


理路整然とした説明だった。

司祭は事務的な手付きで被害者の顔をシーツで覆うと、瓶とスプーンを机の上に置いた。


「話をする必要があるだろうな。今の私の行動に疑問があるんだろう?」


司祭はそれから執務机の椅子に腰掛けて足を組み、静かな目で私たちを見た。


「司祭は――彼らがこうなることに気づいていたのですか?」

「あぁ、もちろんさ。ヒルダのおかげだ」

「ヒルダ?」


クラウスは表情を変えずに言った。


「彼女は実に貞淑で敬虔な女性でね、いつもこの教会に来るときは私に差し入れをしてくれた。間もなく彼女は、街の若者と結婚する予定だったよ。そんな彼女がいきなり首から血を流して教会に入ってきたときは驚いたとも。私は持てる全ての知識を総動員して彼女を手当した」

「それで?」

「息を引き取って数分後、彼女は――私に襲いかかった。後はご想像の通りだ。私は自分の身を護った。おそらくは君たちと同じようにね」


クラウス司祭ははっきりと言った。

それから粗雑な紙を束ねたノートを取り、その紙面をパラパラと捲った。


「それから同じような状態の怪我人が三人、ここへ来たよ。噛まれた直後から始まる血圧の低下、頻脈、喘鳴、意識混濁、そこからの呼吸停止と心停止……これらの症状がすべて三十分以内に起こり、為すすべもなく死亡する。そして死後、彼らの全てがヒルダと同じように私を襲った」


その地獄を思い浮かべるかのように、クラウス司祭は虚空を眺めた。


「最初のヒルダはメスで頚椎を、次の二人は予め手足を縛り付けた上で、用意しておいた短剣で頭部を破壊した。そして今は――毒を使った」

「彼らは――彼らはまだ生きていたんじゃないのかい?」

「いずれは死ぬ。そして死んだ後は人を襲うようになる。これ以外は仕方がなかった」 


そう問われて、私たちは言葉がなかった。

その通りだ、そうであるから、私たちは――。


コンラッドが肩を落とし、悪事を反省する子供のように言った。


「クラウス司祭、俺たちは――」

「よせ、言わなくていい。君たちはまもなく彼らが怪物になるだろうことを知っていたんだろう? 批難するどころか、私はむしろその勇気に感謝している」


どう考えても褒められてはいけないことなのに、司祭の声は穏やかだった。

司祭は大きくため息をついた。


「怪我人はまだまだやってくるだろう。王都から救援が来た後は――私は王国の然るべき場所に出頭するつもりだ」


え――と、私たちは息を呑んで司祭を見た。


「何故――」

「彼らはまだ生きていた。私がやったことは立派な殺人行為だよ。私は裁かれねばならない罪人だ。そうだろう?」

「ちょ、ちょっと待ちたまえよ……!」


ジークハルトが慌てたように言った。


「そんな話はないだろう? 司祭は僕たちを助けようとやってくれたことだ。犯罪者どころか、王国はむしろ貴方に感謝をするはずだ!」

「その宝剣――君は――ジークハルト・フォン・ラビリシアン王太子だね?」


静かに言ったクラウス司祭に、ジークハルトは言葉を失った。


「ジークハルト殿下、いや……ジークハルト君。最初から私は人から感謝などされる謂れはない人間なんだよ。……昔も、今も、これからもね」


クラウス司祭は酷く疲れたように付け足した。


「それに人は誰しも、心の底から死にたいとは思っていない。私はその意志に反し、彼らの貴重な時間を奪った。その無念を濯ぐためには――私は裁かれねばなるまいよ」

「っ……」


ジークハルトがやるせないように顔を背けた。

反面、何故かほっとしたような、待ち受けていたものがやっときたような、奇妙に静かなクラウス司祭の言動に、私は心のどこかで納得もしていた


ユージーン・クラウス……。

彼が抱える心の闇。


王都でそれなり以上に名を挙げた彼が、急に何もかもを捨てて司祭になった経緯。

そう、私は、私だけは彼が抱える諦念の意味を知っている。

クラウス司祭ルートを、イベントからスチール絵までフルコンプリートした、私だけは。


「クラウス司祭……」


私が思わず声をかけようとした、その直後だった。


ドンドンドン! という、教会の門を叩く音が夜の静寂を引き裂いた。




「開けてくれ! ここを開けてくれ!」




必死の男の声に、私たちははっと天を仰いだ。





ここまでお読みいただきありがとうございました。


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