犯人は……(シャーリー視点)
僕がそう口にするとウィーン婦人当人を除いた全員が驚きの声を上げた。もちろん、その中にはワトソン君も含まれている。
「おい、なんでだよ!? あの短剣は間違いなくマッキャロンのものだったし、だいたい庭の足跡もなく、魔法痕もなかったウィーン婦人は間違いなく外に出てない。どうやって殺したって言うんだ!?」
全く、僕と同じものを見ていたというのに、ワトソン君はそんなことにすら気付かないのか。
「弓矢だ」
あきれつつも、僕は彼の疑問に対しそう答えた。だがワトソン君は尚も反論してくる。僕が事件現場で発した、飛び道具ではないという言葉について。
だが、それは間違いだ。僕は飛び道具じゃないと言ったのではない。可能性が低いと言ったのだ。そして、僕はその考えをすぐに改めることとなった。
「暖炉を見たことによってね」
「暖炉? なんで暖炉を見て気づく?」
「よし、なら始めから説明してあげよう」
首をかしげるワトソン君に対し、僕はそう言って話を始めた。
「まずは、容疑者たちの証言だ。この時点で僕は犯人の候補を4人まで絞っていた。ローゼン、マッキャロン、ウィーン夫妻だ。
ライゼンと警備員たちはワトソン君のメモ通り、魔法を使わなければ物理的に不可能。
最初に最も可能性が高いと感じたのはマッキャロンだ。彼はワトソン君に話を聞かれた時に、非常に動揺していた。しかも嘘を吐くときの動揺の仕方で。
加えてその後に出てきた凶器は彼がモルゲンセン卿からもらった短剣だというじゃないか。これは、マッキャロンが犯人で間違いない。
と、普通の人間ならそう思うだろう。だが僕は違う。僕は暖炉の中から短剣を見つけた瞬間、都合が良すぎると感じた。
現場にもみ合った形跡がなかったことから、この事件が怒りなどからくる偶発的なものではなく、計画的犯行だという事は一目瞭然だった。となれば、短剣がそんな簡単に出てくることとつじつまが合わない。あまりに杜撰だ。
そこで僕はマッキャロンに罪を擦り付けようとする真犯人がいると確信した。故に凶器はこの短剣ではない、別にある」
そこまで説明し終えると、ローゼンが口をはさんできた。
「じゃあ、短剣についてた血は何だってんだ!?」
「単純なこと。犯人が偽装のために自分を切って血を付けたんだ。ウィーン婦人の腕を見てみたまえ。恐らく包帯か何かが巻いているはずだ」
「何! おい、ちょっと腕を見せろ!」
ローゼンは僕の言葉を聞くや否やウィーン婦人の方に近づいて、無理やり彼女のスーツの袖をまくった。するとそこには僕の予想通り血の滲んだ包帯が巻きつけてあったのだ。
「おい、こりゃなんだ?」
「夫の稽古に付き合って付いた怪我よ。そこの探偵の話をうのみにする気?」
苦しい言い訳を。
「まあいい、もう少し聞きたまえ」
僕は2人を制止して話をつづけた。
「凶器が短剣でないとすると本物はどこに隠されているのだろう、と僕はその後すぐに考えた。そこで目についたのが暖炉の傷だ。
暖炉はかなり年季が入っていて傷だらけだった。だけどその中でも異質なものがあったんだ。矢に穿たれたような大きな傷だ。しかも風化も進んでおらずかなり新しいことが見て取れた。これを見て僕は凶器が矢だろうと考えを改めたわけさ。
ああ、ワトソン君、言いたいことは分かる。魔法も使わず、使用した矢をどう回収したのかというのだろう? そこで出てくるのがモルゲンセン卿の首元に残っていた魔法痕だ。
自然系の魔法痕。加えて、暖炉の中には燃料用の木炭とは明らかに異なる、細かい炭が積もっていた。ここから導き出される答え」
「魔法……、木創か!」
「その通り、彼女はあらかじめ別の場所で木の矢を作り、それを使ってモルゲンセン卿を射抜いた。その矢はそのまま暖炉へと突き刺さり、炎ですぐに燃え尽き、炭になったんだ。そしてその後に偽の短剣もモルゲンセン卿の部屋へと投げ入れた。
これで殺害のトリックは分かった。だが、肝心の犯人はまだ確定ではない。マッキャロンが仕立てられた犯人であることを考えれば、残るはローゼンとウィーン夫妻。だが彼らはどちらも自分の部屋からモルゲンセン卿の部屋の窓と暖炉を一直線にとらえられる場所にあった。
だが、犯行の詳細が分かったのは大きな収穫だ。この殺し方をするには、相当な弓矢の腕前が必要。そこで僕はまずローゼンのそれを調べるためにギルドへと向かった。
必要な情報はすぐ手に入った。彼の弓矢の腕前はかじった程度。到底この犯行はできない。これでもうウィーン夫妻のどちらかになるわけだ」
「それを、レース場で調べたわけか」
「いや、確かにそれもあるが、一番はワイバーンの脱走の話を聞くためだ。
ワイバーンの制御用の魔法陣と、マッキャロンとすれ違ったときから、あれがレース用のワイバーンだという事は分かっていた。事件が発生し、オーナーが2人に騎手が1人関係していることから昨日の脱走事件がこの事件とかかわっていると睨んだんだ。
僕の予想は見事的中、そのワイバーンの騎手はマッキャロンであり、オーナーがウィーン卿だった。
彼の短剣が盗まれたのはその時だ。ワイバーンを暴走させ騒ぎの内に彼の短剣を盗んだのさ。ワイバーンの制御紋は首に記されていた。夫妻の内、首に触ったのは婦人の方。しかも、ウィーン卿はその後ずっとヴォンメルトレーナーと一緒にいたため犯行は不可能だ
そう、これでようやく特定できたわけさ。犯人はロゼリア・ウィーンだ」
僕の言葉にウィーン卿は自身の妻を悲しげな顔で見つめた。
「ロゼリア、一体どうしてこんなことを……」
「それも僕が説明しよう」
「何だって?」
「僕が教えようと言っているのさ。彼女はあなたのために彼を殺したんだ。この街の街長に据えられようとしていた、モルゲンセン卿を」




