犯人は……
別館へと戻ってきた俺はシャーリーが戻ってくるのを待ちつつ、自分の考えをまとめていた。
「推理、推理ねえ……。あの知識バカみたいに完璧に起きた出来事を当てるなんて無理だ。そう、俺は俺のやり方で推理する!」
俺のやり方、それは……、直感だ!
わかる、それは推理じゃないと言いたいのだろう。だけど仕方ないじゃん!
と言い訳はここまでにして、一応ちゃんとやらないと後でシャーリーにどやされるからしっかりしよう。
まずは、容疑者たちの証言だ。この時点で3人は除外することができる。
まずは老練の大商人ライゼンとその車いすを引いていた警備員。彼らはモルゲンセンの死が発覚する前、1時間ほどの散歩に出ていた。これは先ほどホテルから帰ってくる前に近くの露店や住民たちから複数の目撃証言を得られたことからも確実にあり得ないだろう。
次にもう一人の警備員、トム・リール。彼も正門に常駐していたことが受付のルイーズから証言されている。
ルイーズが言うには正門で数分の間リールと談笑してから、モルゲンセンの部屋に向かったらしい。扉を数度叩いても反応がなく、開けっ放しの扉を開けて彼の遺体を見て悲鳴を上げるまでにも数分かかっている。
検死から、彼が死んだのはルイーズの悲鳴から10分以内。これは確実だ。となればリールも物理的に彼を殺傷することは不可能となる。
よって残る容疑者は4人。アスコットの官僚ウィーン卿と婦人、冒険者のローゼン、そして騎手のマッキャロンだ。
ウィーン卿は最初こそ武芸が趣味であるという事で怪しんでいたが、やはり犯行を行うのは難しいだろう。
彼がいたのは003号室。モルゲンセン卿は004号室で最も遠く、対角に位置している。003号室から004号室まで向かい、彼を殺してまた戻る。それほどの余裕があったとは思えない。
よって、自動的にウィーン婦人も犯人ではないだろう。
ローゼンはかなり怪しい。恐らく、この事件は偶発的に起こった事件だと俺は考えている。計画的犯行なら、凶器をあんなところに隠すことはしないからだ。
そこでローゼンの気の短い性格なら、モルゲンセン卿がこのホテルに泊まったと判明した時点で彼を問い詰めようとする。これは想像に難くない。
そこで卿と口論になり短剣で彼を刺した。動揺し、とっさに暖炉の中に短剣を隠し、事件が発覚。
うん、これならあり得なくはない話だ。だが、1つ重要な矛盾がここには存在している。
ローゼンはどうやって短剣を手に入れたのか、だ。
モルゲンセン卿はレースの褒美で短剣をマッキャロンに贈呈した。その短絡的な行動により依頼報酬を変えざるを得なかったのだ。
では、マッキャロンから短剣を奪った? いや、ローゼンはこの事件までマッキャロンのことさえ知らなかったはず。それは彼が血の付いた短剣がマッキャロンがもらったものだと知らされた時に驚いていたことからも明らかだ。
となれば残るはあと1人……。
と最後の考察をメモに書き込もうとしていた時だった。正門の方から見知った影が別館へと入ってくるのが視界の端に映る。
「お、ようやっと到着……」
俺はそう言いかけたもののその先を言う前に口が閉じなくなった。なぜならシャーリーの恰好が先ほどまでとは打って変わってぼろぼろの服へと変わっていたからだ。
「どうしたんだい? バカみたいに口開けてさ」
「それはこっちのセリフだ。どうしたんだよその恰好?」
「ああ、これはね」
彼女がそう呟く。それと同時に彼女のみすぼらしい恰好はたちまち元の名探偵の姿へと変わってしまった。
「なんだ、魔法だったのか。いや、でもじゃあなんでそんな恰好に変身してたんだ?」
俺の問いかけに対して、彼女は不敵な笑みを浮かべる。
「まあ、少々不測の事態が発生してしまってね」
シャーリーに限って不測の事態なんて存在するのか、と俺は驚いた。普段なら、すべての事象を予測するまるで神のような存在故に、彼女にも分からないことがあるのだと、不思議なことになんだかうれしくなった。
「さあ、そんな事よりも事件だ! これで犯人の動機からどのように事件に至ったのかまで完璧に把握できた! あとはそれを彼女に伝えるだけだ!」
そう言うと彼女は容疑者たちの待つ006号室へと歩を進めていく。俺も彼女の後について行って、006号室の中へと入っていった。
中に入ると、そこにはシャーリーの張った檻の中で静かに待っている容疑者たちがいた。
「お、ようやく名探偵様のお出ましだぜ?」
ローゼンはシャーリーを見て皮肉たっぷりにそう言った。しかし彼女はローゼンの言葉など気にも留めずに魔法で作った檻をパッと消し去る。
「僕がここに戻ったのは他でもない。モルゲンセンを殺した犯人が分かったからだ」
「間違えても、犯人が俺だとか言うんじゃないだろうな?」
ローゼンがけんか腰でシャーリーに近づく。だが彼女は冷静にローゼンをいなして彼にこう言った。
「安心したまえ、君じゃあこんな手の込んだ身代わり計画立てられないだろう?」
「身代わり?」
ローゼンの問いかけにシャーリーは答えない。彼女は容疑者たちが並ぶ前に堂々と立ち、こう宣言した。
「面倒だから結論から先に言ってしまおう! 犯人は……」
掲げられた指先を俺含めた聴衆がじっと見つめる。そしてついに、その指は彼女へと振り下ろされる。
「君だ、ロゼリア・ウィーン婦人」




