冒険者ギルド
「シャーリー、これはどこに向かってるんだ?」
「ん? まずは冒険者ギルドだ。ローゼンについて、そして彼が受けた依頼についてもっと知りたい」
シャーリーの目的はまったく分かりやすいものだった。先ほどもシャーリーが言っていたように、彼には犯人として備わってしかるべき要素が多くある。
そんな彼を疑うのは当然のことだろう。だが、俺は心の中で何か彼に対して犯人であるという断定をするにははばかられるような感じがしてならなかった。
ギルドハウスはホテルから10分もしないほどの場所に位置していた。建物はそこまで大きくない。だが、高級住宅街、アスコットらしくその外装は美しく高級感が漂っていた。
シャーリーが扉を開けて中に入ると、外装とは打って変わって荒々しい格好をした男たちが数多く立ち並んでいる。皆が皆、かなり整った装備をしており、熟練のものが多いことをすぐに理解できた。
「こりゃすげえ、ロンドンとは違ってみんな歴戦の猛者って感じだな」
俺の感嘆の声に対して、シャーリーはいたって冷静に「当たり前じゃないか」と言った。
「ここはセレブや貴族が集うアスコットだぜ? 必然依頼は彼らからのものが多くなる。当たり前だが金持ちは金払いがいいからね。報酬の依頼は高くなるし、要求される冒険者のクラスも高くなるのさ」
シャーリーの解説を聞いている内に俺たちはギルドの受付カウンターへとたどり着く。カウンターには愛想よく笑う受付嬢が数人立ち並び、俺たちに対して「ご用件は何でしょうか?」とはつらつとした声で問いかけてきた。
その問いに対し、シャーリーはセディック・ローゼンの資料、および彼が先日受注したモルゲンセン卿からの依頼を見せてほしいと頼む。
「承知いたしました。少々お待ちください」
受付嬢はそう言って奥の部屋へと消えていった。
「それにしても、なんで受付で資料請求するんだ? いつものお前ならギルドの冒険者たちに聞き込みしそうなもんだが」
「彼らのボク達への視線を見ればわかる」
シャーリーの返答で俺はあたりを見回した。確かに、どうやら冒険者たちは俺たちを歓迎してくれていないらしい。鋭い目つきが俺たちを刺しているのがよく理解できた。
「彼らは死と隣り合わせの危険な職場の同僚だ。その仲間意識は非常に強いだろう。よそ者がそんな仲間のことをこそこそ調べていると知って、分かりましたと素直に協力することはない」
「なるほど、ね」
「帰りは気を付けたほうがよさそうだ」
意味深に彼女が言うと同時に、受付嬢が奥の部屋から戻ってくる。嬢が持ってきたのは2枚の紙資料。1つはモルゲンセン卿の依頼書、そしてもう1つはローゼンのメンバー資料である。
「『ロンドンからアスコットまでの護送任務・報酬は古王国の儀式剣の1刀・備考、我が屋敷までこの依頼書を持って来たれり。そこで詳細を話し任務開始とする』か。ちなみにこの報酬のことなんだが、途中で変更になったとか」
「え? ええ、よくご存じで。プライバシーの関係で詳しくは申せませんが、依頼者のモルゲンセン氏が報酬品を誤って他者に譲渡してしまったらしく……」
他者に譲渡。恐らくその他者とはマッキャロンのことだろう。彼に短剣をプレゼントしてしまったがゆえにローゼンに対する報酬を変更せざるを得なかった。
もしそれが本当だとしたらモルゲンセンは相当大雑把な性格だな。
そう思いながら俺はもう一方のローゼンの資料を眺めた。
セディック・ローゼン、シルバープレート。主な使用魔法・強化魔法、属性付与。
・スキル
魔法:F
武術:C
身体:C
探索:D
知識:F
判断:C
うーん、かなり項目がまとめられてるな。武術だけじゃ、素手やら剣や槍、弓や銃なんかで分けられるし、判断がつかない。
俺がローゼンの資料を眺めているとシャーリーがその資料に書かれている武術の文字をそっと指でなぞった。すると突然、文字が浮かび上がり、花火のように文字が散らばった。
「うわ! なんだこれ!?」
「あれ、教えてなかったかな。エーテル文字さ、魔法が込められていて、エーテルを流して触るとこんな風に仕掛けが作動する」
宙に浮かび上がった文字の中心には『武術:C』の文言。そこから八方に文字が広がっている。
格闘:C
剣術:D
槍術:E
斧術:G
弓術:G
射撃:F
盾術:E
他 :F
「なるほど、これで詳細が見れるってわけか」
「その通り」
「だけど、各値がどれくらいを指すのかがわからん」
俺の疑問に受付嬢が応えた。彼女曰く、Gが技術無し、Fが触った程度、Eが1週間ほど鍛錬を積んだレベル、Dが1ヶ月、Cが1年、Bが10年、Aが数十年、その上にSがあるそうだがそれは経験だけでは測れない特別な才能がある場合らしい。
受付嬢の話からすればローゼンの剣術は修練1ヶ月レベル。十分犯行可能な技術レベルだろう。
動機は十分、彼の性格からして怒りで短絡的な行動を起こしてもおかしくない。
そして何より、マッキャロンが短剣を盗まれたと供述している。彼がその短剣欲しさに彼からそれを盗み、短剣によってモルゲンセンへの意趣返しを果たす。シナリオとしてはまとまっているように感じる。
「このGは本当に全く扱えないってことなのかい? それとこの技術判定はしっかり更新されてるんだろうね?」
受付嬢はシャーリーの2つの問いかけどちらに対しても工程の答えを述べる。それを聞いたシャーリーは「ならいい」と言って宙に浮いたエーテル文字を元に戻した。
「ありがとう、ミス。知りたいことは分かったから僕らはこれでおいとまするよ」
シャーリーはそう言うとクルリときびすを返してギルドの出口へと向かっていく。受付嬢は「またぜひお越しください」と頭を下げて俺たちを送り出してくれた。
扉を開け外に出る。シャーリーはそのまま歩いているが、俺は彼女の言っていたことを思い出していた。『帰りは気を付けたほうがよさそうだ』。
その言葉通り、前方にはギルドの中で見た冒険者が3人、俺たちを待つように立っている。
「ちょっと待ちな。あんたらセディックの何だ?」
冒険者の内、斧を持った男が俺たちにそう問いかける。
「難しい質問だな。まあ、一言でいえば彼の裁定者、かな」
余裕の表情でそう答えるシャーリーに男たちは眉をひそめる。
「セディックとはまだ会って日は浅いが、いい奴でな。てめえらが奴に何かしようってんならただじゃ置かねえぞ!」
槍を持った男が語気を強めてそう叫ぶ。だがシャーリーが動じることはない。それどころかさらに余裕を持った感じで彼らにこう言った。
「全く、弱い犬程よく吠える。少し考えれば僕たちが彼を害するために調査を行っているわけではないことなど分かることだ。これだから馬鹿に付ける薬は無いと言うのさ」
こいつ、冒険者たちをわざと怒らせてやがる。なんでそんなことするのかって? 決まってるだろう、正当防衛で魔法を行使したいからさ。
シャーリーの思惑通り、彼らは怒り心頭の様子で俺たちに飛びかかってきた。
「ああもう! お前、俺を巻き込むんじゃねえよ!」
敵の攻撃を避けながら俺は自己中天才野郎に文句を言う。
「あはは! まあそう言うな、これも訓練だ! 僕は槍使いと斧使いを倒す、君はその剣使いを倒してくれ!」
勝手に言いやがる。
「金創《メタルクラフト》・ソード」
魔法を使い剣を作り出した俺は敵の攻撃をいなしつつ、自身に強化魔法をかけていく。
「筋力強化、感覚強化、駿足属性付与・サンダー!」
攻撃が当たらず、敵が冷静さを欠く。防御しきれないほどの一太刀を浴びせるために、剣を大きく振りかぶったその隙を見逃すほど俺は馬鹿ではない。
「複合魔法・紫電一閃!」
がら空きになって敵の胴に俺は閃光の一太刀を浴びせる。属性付与によって雷を帯びた俺の剣は敵を瞬く間に行動不能にし、膝をつかせた。
「決まっっった……」
思わず心の声が漏れてしまうが、俺はすぐ冷静になってシャーリーの方を見る。
「ご、ごべんなさい、もうしません」
「どんなことでも話します」
一人はまるでさらし首かのように顔から下が地面に埋まり、もう一方はキリストの如く十字の木の柱に縛り付けられている。
「いいかい、セディック・ローゼンについて知っていることを全部話せ。さもないと……」
そう言うシャーリーの右手からはびりびりと青く光る電撃があふれ出している。
「はひっ! そりゃ勿論そうしたいんですが、本当にほとんど知らないんです! あなた様が受付で得られたような情報以外は持ってません!!」
ひどく怯えながらそう言う冒険者に対し、シャーリーは深くため息を吐いて立ち上がる。
「あ、あの~。これは外してもらえませんか?」
「僕の手を煩わせたバツだ。誰かに取ってもらうんだね」
冷たくそう言い放つシャーリーは彼らに一瞥を与えることなく歩き去っていく。その姿はまさに悪魔の所業というのにふさわしいものだった。
「お前、人の心とかねえのか?」
「それを持てば事件を解決できるなら喜んで持つよ」
「もしかして、最初から情報を聞き出すためにやったのか?」
「もちろん、まあ、失礼な奴にお灸をすえる目的もあったが。その点で言えば君の戦い方はお粗末だ。雷魔法で麻痺をさせては意識を取り戻すまでに時間がかかる。こういうのは拘束魔法で意識を耐えさせないまま話をするのが最も効率的だ」
彼女の意図を勘違いしたことに対してほんの少しだけ申し訳なさを覚えそうになったが、話を聞いているとそんなことを思う方がばからしくなってきた。
「それで、次はどこに行くんだ?」
「ん? 観光!」
「……は?」




