第47話:香港旅行計画・発足
それから数日後の、放課後 。
六王子の駅前にある、当時のJ-POPの有線が小さく流れるレトロな喫茶店のテーブル席において、会計の早川理恵による、電卓を叩きながらの強引な「誠修館4期生・卒業旅行計画」の会議がハイスピードで進められていた 。
「ねえ、輝澄! 私たちの高校の卒業旅行だけどさ、絶対に『香港』に行こうよ!カンフーの本場で本物の美味しい飲茶を食べて、ショッピングして、100万ドルの夜景をこの目で見るの!
どうせ海外旅行に行くなら、ランタオ島に超近代的な新しい国際空港が完成して運用を開始しちゃう来年の1998年の夏よりも前、今のうちに行きたいし!」
「えっ、イギリスから中国に返還される、あの香港武術の本場に……!?」
1997年のこの年の夏、歴史的な一大イベントとして香港はイギリスから中国へと正式に返還されることが決定していた。
その翌年の1998年には新空港が開港されるため、当時の日本人にとって香港といえば、映画館やビデオで観るジャッキー・チェンやブルース・リーのカンフーの聖地というイメージが極めて強く、輝澄とて格闘家の端くれとしてその例外ではなかった。
「カンフーの本場の術理……武道家としてすごく興味はあるけれど……でも理恵、海外への飛行機代なんて高校生の私たちには大金だし、そんなお金……」
「大丈夫、大丈夫! 今から放課後に大川ベーカリーや駅前で3ヶ月しっかり短期のバイトを詰め込めば、高校生の予算でも100%余裕で間に合うって!」
理恵は細いオーバル眼鏡の位置をクイと直すと、ニヤリと悪戯っぽい大人のツッコミの笑みを輝澄へと向けた 。
「それにさ、輝澄もこの香港旅行に、あの垂れ目の志馬くんを強引に誘ったらどう?
何か海外旅行みたいな大きな非日常のイベントのきっかけでも作らないと、あんたたち二人のもどかしい関係、進級して3年になっても1ミリも進展しないでしょ。
まあ、パスポートを取って出発するその当日までに、ある程度進展してれば、尚更最高だけどね!」
しっかり者の親友に完全に心の恋愛フラグの図星を突かれ、輝澄の白い顔が一瞬にして耳の付け根まで真っ赤に染まり上がった 。
「えっ、えっ、ちょっと理恵、喫茶店で大きな声で何言ってるの……!?
志、志馬とはただのちっちゃい頃からの幼馴染で、そんな進展とか、その……。
でもアイツ、ヘヴィメタルを聴く以外は海外のことなんて1ミリも興味なさそうだし……」
空手の実力と実戦の覚悟はどれほど次元を超えて跳ね上がろうとも、男女の恋愛に関する実力と免疫力だけは、ちっとも1ミリも上がっていない、相変わらず純気で鈍感な輝澄の可愛い反応だった 。
しっかり者の理恵が輝澄の背中を押すために言った恋愛のツッコミも、もちろん100%嘘ではない 。
が、この時の有能な生徒会会計・早川理恵の真の裏の狙いは、英語の日常会話が完璧に流暢に話せる解説役の僕(奨)を旅行のナビゲーターとして確保すること。
さらに香港の治安の悪い九龍城などの裏路地を歩く際、荷物持ち兼「最強のボディガード」として、2年生の時に廃工場を壊滅させた志馬の肉体をタダでキープすることだった 。
もしこの計画が1年生の本居真一に1文字でも事前にバレれば、彼は朧月流の「隠密行動」でストーカーのように香港行きの飛行機まで極秘についてきかねない。
そのため、男子二人の香港旅行への強制参加の件は「出発の直前の当日まで完全にトップシークレット」という、理恵のシビアな書類管理並みの徹底した情報統制が敷かれることになった 。
窓の外に広がる、1997年の穏やかな春のあたたかな陽光の下―― 。
僕たちは、こんな高校生らしい、たわいもない平和なモラトリアムの日々が、これから先も、ずっと永遠に続いていくのだと、心のどこかで盲目的に信じていた 。
輝澄の親友で、神谷千鶴会長時代には生徒会の会計も務めてるしっかり者でありながら、イマドキ(90年代末)の女の子である早川理恵です。
ついに、物語の大きな起点となる香港への卒業旅行の話が沸き上がってきました。
主要人物のプロフィールに掲載するほどではないですが、ここで彼女のプロフィールについて記載しておきたいと思います。
身長:156cm 体重:46kg 血液型:O型 1979年5月23日
サイズ: B80(C) / W56 / H82
髪型は当時のトレンドである、少し長めのシャギーを入れたストレートヘア。
校則の範囲内で制服のスカートを少し短めにし、ソックスのたるませ方にこだわりを持つなど、おしゃれに敏感。細いフレームのオーバル(楕円)眼鏡をかけています。
趣味はカラオケ(安室奈美恵、TRF、JUDY AND MARYなど)、プリクラ、MDの編集。特技は暗算と、他人の「恋愛フラグ」を敏感に察知すること。
予算管理や書類作成においては極めてシビアで有能。部活動の予算申請にやってくる体育会系の猛者たちや、無骨な真一に対しても、笑顔で電卓を叩きながら「領収書がないと1円も落とせません」とバッサリ切り捨てる度胸の持ち主。
生徒会での活動で輝澄の「真っ直ぐだけどどこか天然」な人柄に惚れ込み、大親友になる。輝澄を当時の女子高生カルチャーに巻き込んでいきます。
https://kakuyomu.jp/my/news/2912051606339492717




