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第26話:輝澄の親友

ところ変わって、六王子の誠修館学園高校・生徒会室。


「大川さん、こちらの来月の広報用資料の整理、お願いしてもいいかしら?」


生徒会室の木製デスクの奥で、神谷千鶴がいくつかの分厚い書類の束を輝澄の手へと手渡した。


新しく広報の役職を引き受けた2年生の輝澄は、お気に入りの緋色のリボンを揺らしながら「はい! 会長、私に任せてください!」と元気よく大きな声で応える。


その輝澄のすぐ隣の席で、メガネの奥の瞳を走らせながら、テキパキと有能な手際で重要ファイルを予算ごとに仕分けている一人の女子生徒がいた。


「大川さん、こっちの広報用の領収書は、こうやって年度ごとに分けるのよ」


生徒会執行部の有能な会計――2年生の早川理恵はやかわ りえである。


少し長めのシャギーを入れたストレートヘアに、細いオーバル眼鏡をかけた知的でしっかり者な彼女は、書類管理や予算のシビアな書類作成においては極めて有能であり、生徒会長である千鶴が最も深い信頼を寄せる最強の事務能力の持ち主だった。


それゆえ、誠修館学園の中でも数少ない、あの威厳ある千鶴に対して物怖じせずに対等な意見をハッキリと言える度胸の持ち主でもある。


「理恵さん、教えてくれてありがとう! 私、こういう細かいデスクワークの作業、空手の型の練習より何倍も難しいかも……」


「私たちは同じ2年生だから、理恵って呼び捨てでいいよ、輝澄。


輝澄は、毎日あそこの金山道場で空手をやってるのよね? 女の子なのに本当に格好いいわ。


私は運動なんて体育の授業も含めてサッパリだけど、電卓を叩くのと、他人の面白い『恋愛フラグ』を見つけるのは得意よ」


共通の部活の話題を探すまでもなく、二人の少女はすぐに打ち解け、笑顔を見せ合った。


正義感が人一倍強く真っ直ぐで少し天然な輝澄と、現実的でしっかり者、少し冷めた大人の客観的視点を持つ会計の理恵。


性格は完全に対照的な二人だったが、波長は驚くほどに完璧に合っていた。


………………………………………………


その放課後、二人は制服のブレザーのまま、連れ立って学校の近くにある西日の差し込む喫茶店へと立ち寄った。


「そういえば、輝澄。……同じ学年の、如月くんとは、一体どういう恋愛関係なの?」


理恵が長いストローで、当時の女子高生が大好きなメロンソーダの氷をカランと音を立ててかき混ぜながら、唐突に鋭いツッコミを切り出した。


「えっ、志、志馬!? あ、あいつはただのちっちゃい頃からの幼馴染で……。昔から本当に手がかかって放っておけない、大変なバカなのよ!」


輝澄は顔を跳ねさせて慌てて全力で否定したが、天然の茶髪ロングボブの髪が激しく揺れるその白い頬は、理恵の眼鏡の奥の目から隠しようもなく、真っ赤に染まり上がっていた。


「へぇー、ただの幼馴染ねぇ。でもあの如月くんって、脱力した垂れ目の割には、時折すごくいい目をしてるわよね。普段はやる気のない能天気な高校生だけど、たまに、周囲の人間を誰も寄せ付けないような、深い底知れない『闇』みたいなものが一瞬だけ見えるっていうか……」


理恵の、一般生徒とは思えない鋭すぎる人間観察眼の言葉に、輝澄は一瞬だけメロンソーダを前に言葉を詰まらせた。


しっかり者の理恵はまだ1ミリも知らないのだ。


志馬がその肉体の中に過酷に背負っている天魔理心流の『引導』の血塗られた宿命や、12歳の時のあの薄暗い路地裏での変質者からの救出事件のことを。


「……うん。あいつ、本当は不器用で、でも、凄く優しいんだよ。ただ、自分の体の中の力に怯えて、自分を極限まで追い込みすぎちゃう悪いところがあって……。だから私が、ずっと隣にいて支えてあげなきゃダメだって、心から思うの」


理恵は、目の前の輝澄のその一切の濁りのない真っ直ぐな真剣な表情を見て、小さく大人の笑みを浮かべた。


「輝澄って本当に、武道家らしく恋愛に関しても真っ直ぐで健気ね。いいわ、同じ生徒会の一般人枠として、私も外側からそのもどかしい関係に協力してあげる。あの如月くんが、もし道を踏み外しそうになって輝澄を泣かせたら、私がこの有能なペンで頭を突っついて正してあげるから」


二人の少女の清らかな笑い声が、オレンジ色の西日の差し込む喫茶店の店内に美しく響き渡る。


この時の彼女たちは、自分たちの学ぶ誠修館の未来を信じて疑わなかった。


この温かで穏やかな高校生の「日常」の季節が、これから先もずっと、永遠に続いていくのだと。


………………………………………………


大川輝澄と、早川理恵さん。


後に僕たちが高校卒業後、あの激動の卒業旅行を共にすることになる二人の少女が、まさにこの1996年の初夏の生徒会室において、本当の『大親友』になった。


理恵さんは、僕たちの周りの超人たちとは全く無縁の、武術の経験など1ミリもない普通の有能な女の子だった。


けれど、彼女が持つブレない明るさと、客観的で冷静な一般人の視点は、常に血生臭い闘いの予感に包まれていた僕たちの危うい青春において、「救い(オアシス)」でもあった。

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