↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/56

第1話:1995年の夕暮れ

2026年現在。もしかすると、この世界は既に滅んでいたかもしれない。

そうなっていないのは、世界を崩壊から救った影の英雄ヒーローたちがいたからだ、ということは知られていない。


世界の理不尽を射抜く「矢」となり、激動の時代を生き抜いた友人たちの人生について、僕はいま、この手記に記しておきたいと思う。


その中心となったのは、僕の親友であり幼馴染の男――。後に、世界の裏社会から「天魔の破壊神シヴァ」として恐れられることになる、一人の少年の物語だ。


彼の物語は、すべての始まりであるあの場所――東京都六王子市に位置する私立誠修館学園高校の、何気ない日常から始まった。


古びた書斎のデスクで、僕、水島奨みずしま しょうはペンを止めた。


今や裏社会の歴史に伝説として刻まれた彼らが、かつて同じ学び舎の廊下ですれ違い、普通の高校生として笑い合っていたと言っても、伝説を知る者たちは誰も信じないだろう。


だが、僕の記憶の中の彼らは、今もあの春の陽光の中にいる。1995年――まだ街にポケベルの電子音が溢れ、携帯電話がようやく普及し始めた、あの熱狂とノスタルジーの時代の中心に。


「しーば! 早くしないと部活始まっちゃうよ!」


この誠修館学園高校は、近年急成長を遂げている巨大日系企業・葉月グループが1992年に創設した非常に新しい私立校で、僕たち新入生はその4期生にあたる。


だが、校舎の敷地奥には、その真新しさにそぐわない異質な木造建築が存在していた。


明治時代に建てられ、廃校とともに解体されるはずだった由緒ある古流武術の道場――それを葉月グループが丸ごと移築したという、通称『旧武道棟』。


その、黒光りする床板から染み出す油と古いワックスの匂いを嗅ぎながら僕たちを急かすのは、幼馴染の大川輝澄おおかわきすみだ。


肩口で跳ねる天然の茶髪、ロングボブのシルエット。空手着を収めたスポーツバッグの隙間からは、彼女がお気に入りの緋色のリボンが覗いている。


制服の上からでもわかる、空手家として鍛え上げられたしなやかで強靭な大腿部と、細身ながらも健康的で美しい体のラインは、男たちのみならず、同性の目も釘付けにする魅力を放っていた。


彼女が屈託なく笑うと、西日に埃の舞う古い廊下が一気に華やぐような気がした。


「わかってるって。……ったく、輝澄は元気すぎるだろ」


隣を歩く如月志馬きさらぎ しばは、大きな欠伸を一つ噛み殺した。


眠たげな垂れ目。だらしなく緩んだネクタイと、前ボタンをすべて外した紺色のブレザー。一見すれば、どこにでもいる「やる気のない高校一年生」そのものだ。


僕は志馬から借りた世界史の教科書を大事に抱え、二人の後ろを小走りでついて歩いていた。


その時、廊下の向こうから、周囲の空気を物理的に「静止」させるような凛とした気配が流れてきた。


生徒会役員の金文字が躍る腕章を巻き、颯爽と歩いてくるのは、2年生の神谷千鶴先輩だ。


黒髪を高く結い上げたポニーテールは、激しい運動でも決して解けないよう、太い黒紐で隙なく巻き上げられている。


非の打ち所がない日本美人のかたちをしていながら、その眼差しには武人としての鋭い光が宿っている。


何より、彼女が手に携えている、油を吸って琥珀色に変色した四つ割りの竹刀が、彼女の美しさをさらに引き締めている。


「……綺麗だ」


僕は思わず足を止めて見惚れてしまった。


1年後の生徒会長は間違いないと目される彼女のことを、男子生徒たちは「隠れ巨乳」なんて下世話な噂で茶化すこともあるが、そんな雑音も彼女の放つ気高さだけで黙らせてしまうような、圧倒的な存在感があった。


志馬は「あ、生徒会だ。面倒くせえな」とでも言いたげに、左手で右手首を掴むいつもの癖を見せながら、露骨に視線を逸らしている。


一方、輝澄は憧れの眼差しで目を輝かせていた。


「本当、千鶴先輩は格好いいよね! 私の目標なんだー」


すれ違う際、千鶴先輩は僕たちに小さく微笑みを返してくれた。


その高潔な尊さに、僕の心臓は一瞬で撃ち抜かれ、照れ臭さで視線を反らしてしまう。それは、小太りな体型でメガネをかけた見るからにオタクな僕にとっては、高嶺の花という言葉で表現するのも憚れるほどの神々しさだった。


だが、そんな余韻に浸る暇はなかった。


旧武道棟の角を曲がった先――ひび割れたアスファルトの隙間から雑草が生い茂る、昼なお暗い校舎裏から、春の穏やかな空気を汚すような不快な音が響いてきたからだ。


コンクリートの壁には、歴代の不良たちが叩きつけた拳や金属バットの跡が無数に抉れている、そんな暴力の吹き溜まり。


そこから、ドカッ、という鈍い衝撃音が聞こえた。それに続いて、嘲笑の混じった、低く湿った怒号が耳に届く。


「おい、立てよ。 空手部期待の新入生様だろ? なあ」


「や、やめてください……お金なら、さっき……」


「金の問題じゃねえんだよ。 お前のその、いかにも『僕は正しい格闘技をやってます』みたいなツラが気に入らねえって言ってんだよ」


誰が聞いても、完全な言いがかりだった。


肉体が地面に転がされる音と、服が擦れる鈍い音。それは、明らかな「多人数による一方的な蹂躙」の気配だった。


「……っ!」


輝澄の表情が、一瞬で強張った。


彼女が、最も嫌うのは、武道を「弱者を挫くための道具」にすることだ。


志馬が「あーあ、関わりたくねえなぁ」と呟くより早く、彼女の足は校舎裏へと跳ねるように向かっていた。


僕たちの平和な放課後は、その汚い怒号によって、決定的に破られたんだ。

はじめまして、作者のかね 庸介ようすけです。


カクヨムにて~世紀末格闘叙事詩~『天魔のシヴァ』の連載しておりましたが、本日より「小説家になろう」でも連載を開始します。


カクヨムの追いつくまでは、毎日【朝7:00】と【夕方18:00】に1話ずつ(合計2話)投稿していきます。話が追い付いたら、【夕方18:00】に1話ずつ(たまに2話)というペースにしたいと思います。


私のペンネームである「金 庸介」という名にピンときた方は、きっと重厚な東洋武侠の世界を愛する同志でしょう。武侠小説の神である「金庸」への最大のリスペクト、そして宿命論や義侠のぶつかり合いという骨太なドラマを、現代の路上現実ストリート・リアリズムへと融解させたい。それがこの名に込めた執念です。


実は、この物語の原型となる「Siva」というアイデアを私が構想したのは、いまから約30年前のことになります。


1990年代後半、格闘ゲームの黄金期や、当時のエッジの効いた格闘漫画、そして私自身が愛してやまない洋楽ヘヴィメタル(スラッシュメタル)の圧倒的な疾走感。あの時代の世紀末特有の、どこか不安定で、けれど熱く火花を散らしていた空気感を、そのまま小説という形で固定化させたいという衝動が、すべての始まりでした。


今回投稿した第0話から第3話までの開幕戦は、これから始まる壮大な運命の、ほんの序章に過ぎません。


第一部として描かれるのは、私立誠修館学園高校を舞台にした、瑞々しくも激しい少年少女たちの学園生活と、武の研鑽です。古武術、伝統派空手、古流柔術、骨法などなど。ルールのある格闘スポーツではなく、制約のない実戦において、生身の人間がどう戦い、どう肉体を破壊し合うのかという、ガチの理合と力学に徹底的にこだわって執筆しています。


なので、本作品では例えば、人間は鉄筋コンクリートを破壊することはできないと考えます。むしろ、如何に効率よく相手をコンクリートの床や壁に叩きつけるかにあります。なので、武侠小説が好きな私ではありますが、気弾を飛ばして相手を倒すなどというファンタジーな展開もありません。ほとんどが実在する流派や技。または伝説上で達人が使ったとされる技を元にした術理に基づいています。


そうして、日常の光を描く第一部から、第二部以降は、1998年春の香港から、世界に舞台を拡げ、世界中の格闘技、武術も登場する中、物語のスケールは実在の事件や人物をモデルとしつつ、その裏側を描いていくという広がりを見せていきます。


小太り眼鏡の軍師・水島奨の未来(2026年)からの「手記」という形で語られる、如月志馬たちの物語を、どうぞ最後まで見届けてください。


もし「面白い」「この格闘描写のキレ味は本物だ」と感じていただけましたら、ぜひ応援をよろしくお願いいたします。


………………………………………………


ここまで読んでいただきありがとうございます!


カクヨムの「近況ノート」にて、本作の武術・流派やキャラクターの裏設定、コンセプトアートなどを公開しています。ぜひご覧ください。

https://kakuyomu.jp/users/yuangui/news


もし面白かったら、「★評価」やブックマーク登録などしていただけると執筆の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。