第3章 3月(5)
「星杜学園1年 波原小春 168㎝ 60㎏。 けっこう大食い!」の続編なので、当小説内で直接的にはわからない人物関係・背景・エピソードも出てきますが、ご容赦下さい。
小春、モテ期到来!? 本人、相変わらず気付きません(笑
「続きましては、いよいよホワイトデーにピッタリの、白い制服を身にまとった上位3名のチョコ王子からのお返しタイムです。まずは第3位のチョコ王子、紫月友哉君からになりますが、紫月君にチョコを入れた女子生徒のみなさん、心の準備はよろしいですか!?」
いっせいにきゃーーーーーと黄色い声が上がる。
(神様、お願いです。友哉からクッキーを差し出された人が、ちゃんと受け取ってくれますように。間違っても私のプレートが優先されて、私の名前が呼ばれる事態にだけはなりませんように)
友哉がステージ上からゆっくりと降りるのが見えた。私は下を向くと目をぎゅっとつぶり、胸の前で掌をしっかりと握り合わせた。周りから見たら、何かに一心不乱に祈っている姿に見えただろう。いや、その時、私は確かに祈っていた。
でも、近付いてくる。近付いてきているのが分かる。間違いなく、友哉から私の方に向かって強い圧のこもる気が押し寄せてきている。
(どうか私のまわりにいる女子生徒の誰かでありますように)
(その子が、どうか友哉からのクッキーを受け取ってくれますように)
だがしかし、友哉は私の正面で立ち止まったんだろう。下を向いて目をつぶっていたから、自分の目で見たんじゃなかったけれど、私には手に取るように感じていた。
(友哉……)
いの一番に自分のところに来るとは予想していず、すぐには顔を上げられない。
「小春さん」
友哉に声を掛けらる。私は覚悟を決めざるを得なかった。
(なにがおきようと……サイアクでも、この場でさらし者になるだけじゃないっ!)
顔をあげた私の視線と、友哉の視線がぶつかった。その友哉は、なんていうかヤケに緊張しているようで、かつすごく困っているようで、なおかつ、とても不安そうな風情に見えた。そして、そんな友哉の顔を見た途端に、私がこれまであれこれ考えていた事が吹き飛んでった。
(友哉、おっかしーの)
急に余裕が出てくる。
「友哉、白い制服が似合うね」
私はまわりの視線をなるべく気にしないようにして、友哉に答えた。緊張している友哉を守らなくては!という、そんな気持ちが満々てきている。
「ありがとうございます。小春さん……あの、どうか、ぼくが準備したこのお返し、受け取って下さいっ!!」
友哉は、大きめの紙袋を私の方に差し出してきた。
「わぁ~。友哉、ずいぶんと大きな紙袋だねー。この中に、クッキーがいっぱい入ってるの? それはくいしんぼうのあたし用ってこと?」
隣で麻莉子が、息をのんで成り行きを見守っている。ステージ上からは、桐生の放つ気も感じられた。土壇場にきてのこの余裕は、さすがは波原小春というところか。
「あの、あの、クッキーも入ってるんですけど……他にも入っています。世界にたった一つしか存在しない、特別なものなんです」
「特別なもの?」
「はい。小春さんの為に、ぼくが心をこめて作ったモノです」
私はゆっくりと手を伸ばすと、友哉の手からその紙袋を受け取った。その瞬間、強張っていた友哉の顔が一変して、これ以上にはないというような笑顔に変わる。
「ありがとう、友哉。あたし、喜んで、これ、頂くね」
私の言葉が終わると同時に、あまりにもオーバーな体育館内に鳴り響くファンファーレの音。
(ここまでやるのは、どうみてもやりすぎだよ)
「やりました!! ようやく3人目のチョコ王子の思いが届きました! ホワイトダンスパーティーでの始めてのカップルが成立です! みなさん、拍手で祝福願います!!」
われんばかりの拍手が館内に。
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ――
「ちなみにここでプチ情報をお伝えしますと、3位の紫月くんと4位の桐生くんは、最後の最後までチョコの数を競っていました。実は締め切り直前までは、数個差で桐生くんの3位はほぼ確定していたのですが、最終日に、波原さんのチョコが紫月くんに入った事により形成が逆転したのです! なんと波原さんは、プレートに☆マークが10個刻まれているチョコ女神でした! まさしく言葉通り、紫月君に波原さんという女神がほほ笑んだのです!」
(なんて!? 私のチョコ10個分で、友哉と桐生の順位が逆転……? 麻莉子は、友哉が最下位になりそうで、友哉から最下位だけは嫌だって泣きつかれたって……だから、あたし、友哉に)
――わーわーわーわーわーわーわーわーわーわーわーーーーーーーーーーー
――ひゅーひゅーひゅー
――そんな、ともやくぅん~~~~~~~~~
いろいろな声が飛ぶ。急激に状況がわからなくなってきて、頭の中が朦朧としてくる。
「小春さん、袋を開いて貰ってもいいですか?」
そんな中、続く友哉の言葉に従って、私は言われるままにのろのろと紙袋の口を開いてみる。紙袋は、大きさの割にはとても軽くて、中を覗いてみると布のようなものが見えた。
「貸して下さい」
促されて袋を友哉に戻すと、友哉は袋の中から布のようなものを取り出した。友哉が取りだしたモノは、まるで天女の羽衣(見たことはないけれど)のように、真っ白で光沢がある、薄く透けて見える生地で作られていた。そして生地の縁を飾っている、それを眼にした時に。
「友哉、これ……?」
「はい、ぼくが今まで一生懸命タティングレースで編んでいたモチーフなんです。オーガンジーの生地を縁取ってみました。ぼくは、ぼくの願いは、ぼくが作ったベールを小春さんにかぶってもらって、一緒にワルツを踊ることでしたっ!」
……。
…………。
………………。
ち、ち、ち、ちょっと待て!
ベールをかぶる、なんて、今、友哉は言わなかったか? この私がベールをかぶって、ワルツを踊る、なんて、友哉は言ってなかったか!? こんな事のために、内緒にしたり、不審に思われたりしながらも、友哉はタティングレースに励んでいたというのか!?
「友哉くぅん、良かったねぇ~。本当に良かったぁ! 小春ちゃん、ちゃあんと友哉くんにチョコ入れてくれてたんだねぇ~。ホントの事言うとぉ、麻莉子もちょっとだけ不安だったからぁ、もうねぇ嬉しくて泣きそうだよぅ~」
感慨深そうな麻莉子の言葉が聞こえ。
「ハイ。ギリギリまで、ぼくも不安でした。はたして小春さんが、ぼくにチョコを入れてくれるかどうか。でも、信じていて良かった! 桐生君の申し出を小春さんが断った時から、もしかしたらと思っていたんです!」
「友哉くぅん、早く小春ちゃんにベールを被せてあげてよぅ」
「はい!」
その繊細な純白のベールを広げた友哉が、私の頭に被せようと近付いてくる。
「だーーーーーーーーっ!!! 待って、待って、友哉、待ってってばっ!!!」
さっきまであったはずの余裕が私からすっかり消えてしまい、突然のなりゆきに気が動転していた。
「だから、ちょっと待ってよ、友哉!」
「えっ、なんですか? 小春さん」
友哉がいったん手をとめて、不思議そうな顔で私を見る。
「た、確かにあたし、友哉にチョコ入れたよ? それは……間違いないけど(理由は言えないけど←心の声)」
「はい、ありがとうございます!」
「だ、だからね。し、知らなかったけど、友哉に選ばれたんだし……その……ワルツを踊る事も、なんとか頑張りたい……とは思う……」
「嬉しいです」
「だけどね、だけど」
「え?」
「ベールをかぶって、友哉とワルツを踊るっていうのは……」
どう考えたって、ベールから想像するのは、普通は花嫁のドレス姿でしょうよ!!
(誰かあたしを助けて!)
今ここで友哉のお嫁さんになるわけでもないし、だいたい制服にこんな繊細なベールを被ってみたところで不釣り合いだし、もっと根本的な事を言えば、私には似合わない。そう、絶対に似合わない、似合うはずがないんだ。せいぜいコントになるのがオチだよ!
「友哉、お願いだから、あたしをこんなふうなさらしモノにするのだけは勘弁してーーーーーー!!!」




