第3章 3月(3)
「星杜学園1年 波原小春 168㎝ 60㎏。 けっこう大食い!」の続編なので、当小説内で直接的にはわからない人物関係・背景・エピソードも出てきますが、ご容赦下さい。
いよいよバレンタインチョコ王子たちのシンデレラ選びが始まって女子生徒たちはドキドキわくわくする中で、一人とまどう小春。
結末やいかに!?
5位のチョコ王子は、名前の名前が呼ばれると、そのままステージ上から降りて、体育館内でざわついている女子生徒の中を歩いていく。
「ここにいる中から、まず一人目のシンデレラが選ばれるんだ」
取り囲む女子生徒たちの人垣に取り囲まれた男子生徒が、クッキーの入っている(だろう)包みを持って歩いていく姿を目で追う。
「あ~~ん、もう、どうなってるのかぁ、麻莉子には見えないよぅ。小春ちゃんは、背が高いから見えるぅ?」
麻莉子はピョンピョン飛びながら、なんとか見ようとしていた。
「見えることは見えるけど、声までは聞こえないなぁ」
5位のチョコ王子は、意中の女子生徒の前までくると何やら言ってその包みを差し出したが、残念なことにその包みは受けとられることはなかったようだ。
体育館中に、悲鳴とも安堵ともつかない叫び声があがった。
「麻莉子……シンデレラは、どうやらごめんなさいをしたみたい」
「えーーーーーっ、そうなんだぁ~。でもぉ、考えようによっちゃ、その男子生徒にチョコを入れた子たちにとっては、歓迎すべき事態って事だよぅ~」
ここで、チョコ王子の後ろをついてきていた司会者の声。
「あぁーーーーーーーーーーーーーーっ!! なんということでしょう! せっかくのクッキーは、本命の彼女には受けとって貰えませんでしたぁ!!」
司会者のテンションにあおられて、絶叫に近い声で体育館内が一層どよめいた。
――「クッキー、受け取らなくて良かったぁ~」
――「もったいないよねー。あの子、誰にチョコ渡したんだろ」
――「わりと本気モードだったんじゃないの?」
いろいろな会話が耳に聞こえてくる。
「なぁんだ、結局、おもしろい事は起きなかったじゃない」
私は麻莉子に文句を言った。
「そっかぁ~、小春ちゃんはぁ、ぶっつけ本番になっちゃうって事になるんだぁ~」
「ぶっつけ本番?」
「5位のチョコ王子山下君は、残念ながらカップル成立とはなりませんでした。ということで、山下君が準備をしたクッキーは、山下くんにチョコを投じた女子生徒さんの中から、抽選でお一人の方に差し上げることになります。チョコに付いているプレート番号から、その女子生徒さんを特定できますので、分かり次第発表したいと思います」
そこでも悲鳴に近い声があがる。
――「私のチョコを選んで~~~~!」
――「山下さんのクッキーが欲しい~~~~~!」
彼にチョコを入れた女子生徒の野望が、体育館内で渦巻いている。私も女の子だし、気持ちは分からないでもないけれど。
「……あほらし」
でも、それが私の正直な気持ちだった。
「さて、ここでお断りしておきたいことがあります。女子生徒のみなさんにお配りしたプレートなんですが、実はこのプレートには少しのヒミツがあります」
館内が、一瞬静まり返る。
「プレートにヒミツ?」
私がその言葉に反応したのは、依然に麻莉子が私のプレートについて、おかしな言動をとっていた事を思い出したからだ。
「もしかして麻莉子、そのヒミツ知ってたの?」
麻莉子に質問してみたが、当の麻莉子は聞こえなかったのか返事はない。
司会者が続ける。
「プレートには、通し番号と、裏面には星杜学園の名前にちなんだ☆マークが刻んであったのですが、女子生徒の皆さんは覚えていますか?」
(☆マーク、うん、あった、あった)
「実はですね、この☆マーク、ほとんどの方のプレートには1個だけが刻まれていたんですが」
(1個?? あたしのには確か……)
「なんと特別な9枚分のプレートには、2個から10個の☆マークが刻みました!」
「えっ!??」
思わず、私の口から声が出た。
「10個の☆マークっ!?」
横で麻莉子が始めて口を開いた。
「そうなんだよぅ~。麻莉子もぉ、小春ちゃんのプレート見た時にビックリしちゃってぇ~」
「覚えてるよ! あたしのプレートには、確かに裏に10個の☆マークがあった!!」
「ねぇぇ~」
麻莉子がなぜだか、にんまりしている。
「そしてその特別なプレートが付けられたチョコは、☆マーク分のチョコの数としてカウントされることになります。つまり、最大10個の星マークがあるプレートについては、1個のチョコが10個分になります!」
(それって……あたしのチョコは、10個分の計算になるってこと?)
「今から山下君にはチョコを選んで貰いますが、もしも今説明をしたラッキープレートが付いたチョコが、山下君のチョコの中に入っている場合、そのプレートのチョコを投じた方が優先で選ばれることになります。事後説明になって申し訳ありませんが、みなさん、その点はご了承下さい」
「「「えぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!??」」」
「「「いやぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」」」
「「「そんなの、聞いてないよ。ずるーーーーーーーーーーーーい!!!」」」
ブーイングに近い悲鳴。
(いっ!? ラッキープレートの付いたチョコが優先!?)
麻莉子は、私を見上げてニヤニヤしている。
「ま、ま、麻莉子、今の事って全部知ってたの!?」
さっきは答えて貰えなかった質問を、私は繰り返す。
「当然だよぅ、なんたってぇ、情報通の麻莉子だもぉん」
そう言って、鼻高々の麻莉子。
「麻莉子、知っていたんなら、なんであたしに教えてくれなかったのよ!?」
「え~~~~~っ、なんで小春ちゃん、そんな怒ってるみたいなのかなぁ~」
「い、いや、怒ってるってわけじゃ……」
「小春ちゃぁん、いぃい? よぉく思いだしてほしいんだけどぉ。麻莉子ねぇ、小春ちゃんには確かに教えなかったけどぉ、でもぉ、小春ちゃんにチョコ投票で強制したりとかぁ、お願いもしなかったよねぇ?」
そう言われてみれば、麻莉子はプレートの事を教えてくれることはなかったけれど、確かに誰かにチョコを入れてと頼まれた事もなければ、誰にチョコを入れるのか、と聞かれた事もなかった。
(麻莉子は余計な事は言わなかったよ。言わなかったし、聞かれなかった。でも、もしもプレートの事を教えて貰っていたら……)
私の頭の中では、これから起きるかもしれない光景が、めまぐるしく駆け巡っていた。




