第2章 2月(14)
「星杜学園1年 波原小春 168㎝ 60㎏。 けっこう大食い!」の続編なので、当小説内で直接的にはわからない人物関係・背景・エピソードも出てきますが、ご容赦下さい。
いよいよチョコ王子が発表されたようですが……小春的には、なんともビミョーだったようです(笑。
教室内には、違和感が漂っている。4月から机を並べて学んできている、よく見知ったクラスメートというのに、女子生徒の気持ちがソワソワと浮ついている。よく見知った顔の2人を、ある女子生徒は堂々と、ある女子生徒は盗み見するように視線を送っている。
「ねぇねぇ、麻莉子。友哉に注がれる視線が、一夜明けた途端に一変したんじゃないの?」
私は麻莉子にこっそり耳打ちをする。
「小春ちゃぁん、そりゃさぁ、そうなったりもするもんだと普通は思われるでっしょ~。だってさぁ、見てよぅ、真っ白な制服を着て光り輝くような友哉くんの、あのすがすがしい姿って言ったらぁ~」
麻莉子は、まるで自分の事のように鼻高々だ。
(光り輝くような、って)
「ま、まぁ、そうかもしれないけど」
説明すると、なんと友哉のチョコ獲得数は私の予想を見事に裏切り、びっくり仰天チョコレート王子3位の座を射止めることとなったのだった。
私は、その光景を何度か反芻してはいるんだけれども、どうも腑に落ちなさ過ぎて気持ちがスッキリしていない。だいたい麻莉子は、直前まで私に言ってたんだ。『友哉のチョコが集まらなくて最下位になるかもしれない』って。珍しく、麻莉子の読みが、見当はずれだったということなのか。
それと、もう一つびっくりしたのは。
3位の友哉の名前が呼ばれる前、4位が発表された時に呼ばれた名前は……なんと『桐生誠也』だった事!
4位に桐生の名前が呼ばれた時点で、ひっくり返るほど驚いた私とは裏腹に、その時の3人の表情は三者三様だった。3人っていうのは、言わずもがな桐生と友哉と麻莉子のことだ。名前を呼ばれた事で喜んでいるかと思われた桐生は多少微妙な表情を浮かべていたし、なぜだか麻莉子は『してやったり』という顔をしていて、友哉は妙に興奮して顔が紅潮していた。
続く3位に友哉の名前が発表された時には、桐生の名前を聞いた瞬間以上に驚いたもんだけど、友哉の名前が響くや否や、手を取り合って大喜びする友哉と麻莉子の2人の姿と、そしてやっぱり多少微妙な表情の桐生の姿があった。
後で麻莉子から聞いたところによると、桐生は、友哉に「順位が俺よりも上だったからって喜んでいるようだが、お互い最初のハードルをクリアしただけだからな。本当の勝負はこれからだぞ」と再宣戦布告をしたらしい。
(絶対にこの3人、なにか企んでいるよね。単純にチョコの数や順位を競ってきただけじゃないんだ)
私の疑問はどんどん膨らんできている。
ちなみに、1位は女子生徒から絶大なる人気を誇る元生徒会長の早見坂先輩が選ばれた。麻莉子の説明によると、創立記念前夜祭に選ぶミスター星杜の投票は、男子生徒も含む全校生徒になるため、早見坂には不利だったけれど、女子生徒だけが投票対象のチョコ王子には、早見坂は絶大なる力を発揮したのだろうとのことだった。
3位までの生徒には、色違いのエンブレムが胸ポケットに縫いつけられた真っ白な制服が貸与されたが、今年は1位の早見坂が3年生で、この時期はほとんど登校しないため、2位・3位の生徒はそれぞれのエンブレムの白い制服を貸与され、そしてほぼ登校しない1位の早見坂の代わりに、4位の桐生に、エンブレムなしの白い制服を着る権利が与えられたのだった。ただし、桐生はエンブレムなしの白い制服を着ることは、かたくなに拒んだらしい。しかし桐生にチョコを投じた女子生徒たちから、『どうしても白い制服を着た桐生の姿を見たい』と懇願されて、仕方なく着用することにしたのだと麻莉子から聞いた。
いつも思うんだけど、麻莉子は、どこからそういった裏情報を仕入れてくるんだろう。
そういうわけで、今日から我がクラスには、白い制服の男子生徒が2人同時に存在することとなっている。そう考えると、クラスの女子生徒たちが浮つくのもわからなくはないけれど。
「小春ちゃぁん。これから一ヶ月は、友哉くんと桐生くんはぁ、キャーキャー言われるんだろうねぇ」
「そうなのかい」
「だからねぇ、小春ちゃんはぁ、気をつけてよぅ~」
気を―― つける?
「なんであたしが気をつける必要があるの?」
「そりゃ、なんでかって言うとぉ~」
と、麻莉子と話していた時だった。友哉が話しかけてきた。
「小春さん。今日もぼく、お弁当作ってきましたから、お昼は一緒に食べましょう!」
「あっ、友哉、ホントに!? めっちゃ助かるわ~、サンキュ」
友哉のお弁当は、なんたって美味しいのだ。
そこへ、なんでか桐生までがやってくる。
「小春、今日の昼は、一緒に学食行かないか?」
「え? あ、あの、今日は友哉がお弁当を作ってきてくれたって……」
桐生から、学食に誘われるなんて始めての事だ。
(ありえないわ……)
そして、これまでは感じることのなかった、刺さるような女子生徒たちの視線。どうにも居心地が悪くてしかたない。
しかも、休み時間ごとに女子生徒のギャラリーが教室へわんさか押しかけてくるし、2人が廊下を歩いていれば歩いていたで、キャーキャー騒ぎになってるし。
――「紫月くーん、私、紫月君にチョコ入れたの~。覚えておいてね~」
――「あっ、紫月くんだ。チョコ入れたよ~、よろしくね」
――「クッキー、私にちょうだいね~」
友哉は、校内のあちこちで女子生徒たちから声を掛けられていた。たぶん桐生も似たり寄ったりと思う。私は、麻莉子と友哉の3人で行動することも多かったけど、好むと好まざるとに関わらず、友哉に声を掛けるついでに一睨みされる事も多い。時々は私に直接『誰にチョコを投じたのか』と聞いて来る女子生徒までいた。
(あたしが誰にチョコをいれようが、あたしの勝手でしょーよ!)
小さい事が意外と煩わしく感じる毎日が続き、これも友哉と桐生が白い制服を着ている期間――ホワイトデーまでの一ヶ月間とのことなので、我慢しようと思ったものの。
「麻莉子さぁ、友哉のそばにいて、女子生徒の視線で殺されそうな危機感を抱いたりしない?」
ある日、麻莉子にそう聞いた時の、麻莉子の返事はこうだった。
「え~っとねぇ、麻莉子は大丈夫なんだよぅ。だってぇ、問題なのは小春ちゃんなんだもぉん」
「へ? 問題……ってなによ?」
「うふふぅ。な・い・しょ」
友哉と桐生の確執も、チョコ祭が終わってもいまだに続いているようだし、何かある。絶対にこの先も、私が知らされていない何かが待っているに違いないと確信する。
「でも小春ちゃ~ん、大丈夫だよぅ」
「その根拠のない大丈夫って発言は、どうなの? 麻莉子」
「いやだなぁ~小春ちゃんたらぁ~。根拠はちゃんとありますよぅ。なんたって情報通の麻莉子の言葉なんだよぉ?」
「それは、そうかもしれないけどね」
麻莉子は、全て分かっているくせに、私には明かそうとはしない。
「うんうん。小春ちゃんはねぇ~、ホワイトデーまでの我慢、我慢だよぅ~」
「ホワイトデー?」
今度は、男子生徒がクッキーを投票して、クッキー姫でも決めようっていうんだろうか?
また私の知らないところで、知らない事が進んでいるような気がして不安になる。
そしてこの言葉を呟くのは、何度目になるんだろう。
「どうか、この一連の流れが映画じゃありませんように」




