第2章 2月(13)
「星杜学園1年 波原小春 168㎝ 60㎏。 けっこう大食い!」の続編なので、当小説内で直接的にはわからない背景・エピソード・人間関係もありますが、ご容赦下さい。
いよいよバレンタインチョコ王子の投票結果発表です!^^
「えー、みなさん、それでは只今より、星杜学園恒例のバレンタインチョコ王子発表会を開催致します」
司会者の声が、マイクを通して講堂に響いた。
「バレンタイン、チョコ王子……」
背中がかゆくなってくる。なんですか、そのバレンタインチョコ王子ってのは?? そんな私の反応とは裏腹に、キャーーーーっと女子生徒の間から悲鳴に近い叫び声が上がり、講堂は更に熱を増す。私としては、できればもう少し違う形の行事で盛り上がりたいところだ。
「ご存知の方も多い事と思いますが、ここで今一度、バレンタインチョコ祭について、生徒会長の藍原より、かいつまんで御説明を致します」
司会の生徒が演台から降りると、続いて藍原さんが演台の前に立つ。
「え? まっ、麻莉子! 藍原さん、生徒会長になったの!?」
まず、その点で私は驚く。
「え~~~、小春ちゃんたら、なにぃ? 今まで、さんざんからんで来てたのに知らなかったわけぇ?」
知らない私の方が驚くよ、みたいな勢いで麻莉子に返された。
「え? あ、う、うん。全然知らなかったよ。だってさ、生徒会役員選挙なんていつあったのさ?」
麻莉子がしらーっと横目で私を見上げている。ここで友哉が、助け舟を出してくれた。
「小春さん。星杜学園では、生徒会役員選出のための選挙なんてしませんよ。生徒会役員さんは、ほぼ有志の集まりです。ボランティアみたいなものですからね」
「あ、そう、そういうものなんだ」
やはり私には分からない事ばかりの星杜学園というべきか。
そして講堂内には、2年連続でミス星杜に選ばれた、現生徒会長の藍原さんが登壇するや否や、今度は男子生徒の野太い声が満ちる。
選ばれる対象にもなっていない男子生徒たちまでもが、こんなに来てる理由にようやく納得がいった。
「みなさま、こんにちは。生徒会長の藍原琴音です。今年度も残すところあと僅かになり、星杜学園の伝統行事も終わりに近付きつつあります。このバレンタインチョコ祭は、特色ある星杜伝統行事の中でも、特に女子生徒さんには毎年人気のある行事となっています。本日、バレンタインチョコ王子に選出された方には、来月のホワイトデーまでの1ヶ月間、チョコ王子の称号が与えられることになります。そして、その栄誉を讃えて、チョコの獲得数の多かった上位3名に、ホワイトデーまでの1ヶ月間は、星杜学園で代々選出されてきたチョコ王子たちも着たという、幻の『真っ白な制服』が貸与され、その着用が許される事になります」
「真っ白な制服?」
なんだ、それ??
「この制服は、1年間に、たった3人しか着る事の出来ない、栄えある制服です!」
「「「うわぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」」」」
「「「きゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」」」
ここは盛り上がるところなのか??
「この制服には、順位に従って、それぞれゴールド、シルバー、赤銅色で製作された特別なエンブレムが付けられるており、輝かしい紋章となっています。選出された上位お三方には、存分に喜びを味わって頂きたいと思います」
――わーーーーわーーーーーわーーーーーわーーーーーー!!!!
講堂の床は、盛り上がって足を踏み鳴らす生徒たちの振動で揺れている。
(麻莉子の言うとおり、一緒に盛り上がったモノ勝ちなのか?)
私の気持ちと周りの温度差が、どんどん開いていく。
「チョコを準備して、箱に入れて下さった女子生徒の皆さま、本当にありがとうございました。皆さまからのチョコは、しかるべき施設に寄付させて頂きますので、ご了承ください。毎年、子供たちが楽しみにしていると、喜ばれています」
私は、麻莉子が、足長制度で入学してきている生徒の出身施設に、チョコが割り振られて贈られていると言っていたのを思い出した。
「また女子生徒の皆さまに事前に御配りした参加プレートにつきましては、プレートナンバーでどなたかを把握することはできますが、これは、とある理由からそうしているだけで、プライバシーを詮索するなんて事は間違っても致しませんので、そこは信用して頂きたいと思います。ただし、その『とある理由』があった場合には、公表する事もあるかもしれませんが、その点についてはご容赦下さい」
藍原先輩は、そこまで言うと深々とお辞儀をして演台から降りて、元の席へ戻っていく。すっかり貫禄が出て(もともと貫禄があったような気もするけれど)、堂々としたものだった。そういえば、その前に会長だった早見坂先輩ってどうしているんだろう? 年が明けてからというもの、噂さえも私の耳には入ってきていないけれど。
演台には再び司会をする生徒が立っていた。何やら長々と話をしていたようだけど、興味がない私はちゃんとは聞いていなかったし、だいたいまわりの叫び声でよく聞き取れないというのが現状だった。
が、いよいよ、上位者が発表される運びとなり。
さすがの私も緊張してくる。
誤解無きよう説明をしておくと、友哉の心境を思いはかっての緊張ではある。
「チョコの集計は、公明正大に粛々となされ、不正等はいっさいありません。もちろん最高獲得者から最低獲得者まで出ましたが、これまでの慣例に従いまして、ここでの発表は上位5名のみに限らせて頂きます。また、今度どのような場所においても、6位以下の順位については公にされる事はありませんので、ご理解のほどお願い致します」
その言葉を聞いて、私の全身から力が抜けていき、
「良かったぁ~~~、そっか、最下位は分からないんだ~~~」
思わず口から言葉が出た。
「え~? 小春ちゃぁん、今、なんて言ったのぅ」
麻莉子が聞き返してきたけれど、「なんでもない」と答えるだけにとどめる。もしも、この状況で、私と同じ立場にいて、『友哉が最下位であっても、永遠に分からないから安心した』なんて言える人がいれば、ぜひともお目にかかりたいものだ。
すっかり気持ちが楽になった私(よほど、友哉の順位が気になっていたらしい)、人間というものは現金なもので、気が楽になった途端、今度はチョコ王子とやらの順位が気になり始めた。麻莉子にいろいろと連れられて、それなりに候補者たちを見て回ったし、そこそこ思うところもあったりするわけで。
個人的に、あの先輩にだけは上位に入って欲しくないとは思っていたりするけれども、そう思うのは私の心が狭い事を認める事になるので、なるべくなら気にしないように……気にしている。
(あたしって、意外といい人間なのかもしれない)
と、自分で思ったり。
「それでは皆様、長らくお待たせ致しました。いよいよ、チョコ王子上位5名の発表と、栄えある白い制服の貸与式に移りたいと思います!」
これからは、司会者の言葉に一緒に盛り上がれるというものだ。
私は、皆と一緒になって床をどんどんと踏み鳴らしたり、口からはヒューヒューと冷やかしの声を発したり、手を叩いたりして、司会者の次の言葉を待つ。
(上位5人となると、うーーーん、手堅いところで……)
波原小春が、それなりに予想を立てられるところが進歩だと思う。私が想像もしなかった候補者が上位に入る事になろうとは、その時には想像もしていなかったが。
「第5位を発表いたします! 星杜学園、バレンタインチョコレート王子の第5位は!」




