第10話「温泉街に魔王軍の残党が襲来!? 逃げ場のない湯けむりの中で、暗殺者が選んだ答え」
温泉街で人生初のスパチャに照れまくったシズルちゃん。
美味しい料理と温泉を満喫しようとした矢先、空を覆う巨大な陰影とともに魔王軍の残党が襲来して……
温泉饅頭を買い込み、湯けむり立ち込める露天風呂へとやってきた私とシズル。
人生初のスパチャと(可愛い)の大合唱に耳まで真っ赤にしていたシズルも、温かい湯に浸かるとほっと肩の力を抜いたようだった。
(・配信画面はカメラを上空に向け、風景と私の肩から上だけを映す安全モードに切り替えてある)
「ふはあ……最高の湯加減だな」
「あ、ああ……。湯に浸かるなど何年ぶりだろうか。身体の芯から毒が抜けていくようだ……」
湯船の端で小さく膝を抱え、気持ちよさそうに目を細めるシズル。
(シズルちゃん可愛すぎだろ……)
(温泉回助かる)
(アレン様、カメラの角度をあと三度下に向けてくれ!)
コメント欄がいつもの平和な盛り上がりを見せていた、まさにその時だった。
ドオオンッ!!
天地を揺るがす激しい震動とともに、温泉街の夜空が不気味な紫色に染まった。
湯船の水面が波打ち、遠くの街並みから悲鳴と爆発音が沸き起こる。
空を見上げると、そこには山ほどもある巨大な漆黒の双頭竜が羽ばたいていた。
魔王軍の残党、黒炎竜ドゥルガー。
かつて魔王城の門番を務めていた凶悪な高位魔物が、湯けむり漂う平和な街を激しい黒炎で焼き尽くそうとしていたのだ。
「愚かな人間どもめ! 我が魔王様の仇、この街ごと灰燼に帰してくれるわ!」
「なっ……!? 魔王軍の残党がなぜこんなところに……!?」
シズルが即座に湯から上がり、濡れた肌に黒装束を纏って短剣を構えた。
(うわあああ本物の黒炎竜だ!!)
(温泉街が燃えてるぞ!?)
(アレン様! シズルちゃん! 逃げてくれ!!)
視聴者たちの悲鳴でチャット欄が埋め尽くされる。
逃げ惑う町人たち、炎に包まれる旅館。その光景を目にしたシズルは、固く拳を握りしめた。
「アレン……! 私は今まで、命を奪うことしか教えられてこなかった。
だが……今日の投げ銭で、この街の人々の温かさを知ったのだ! この手を差し伸べてくれた人々を、見捨てるわけにはいかない!」
かつて王宮の命でアレンを狙った冷酷な暗殺者は、もうどこにもいなかった。
自分の意志で人を守るために戦うと決めたシズルの瞳には、強い覚悟の光が宿っていた。
「よく言った、シズルちゃん。よし、俺たちの初タッグ討伐ライブと行こうか!」
私は錆びた剣を引き抜き、カメラの角度を二人と巨大竜が収まる最高の構図へとセットした。
(現在同時接続数、十億人突破! 全人類の熱量を物理魔力へ転換!)
スキルのアナウンスとともに、私とシズルの全身から圧倒的な光の粒子が溢れ出す。
世界中の人々が画面越しに送る(頑張れ!)(負けるな!)という声援が、奇跡の力となって私たちを包み込んだ。
「グオオオッ! 死ねぇっ!」
黒炎竜が口から放った暗黒の火柱。
だが、覚醒したシズルの身こなしはもはや竜の視線すら置き去りにしていた。
光の軌跡を描いて空へと駆け上がるシズル。
「暗影流奥義……影縫い・千華繚乱っ!」
世界中からのスパチャの光を纏ったシズルの短剣が、黒炎竜の巨大な翼を千々に切り刻む。
悲鳴を上げて地上へと叩きつけられる巨竜。
「とどめだ、アレン!」
「おうよ! 全人類の熱量を受け取れぇぇっ!」
私の放った一閃が、十億人の応援の光とともに黒炎竜の巨体を完全に一刀両断した。
湯けむりの夜空に弾ける、色鮮やかな光の粒子。
圧倒的な大勝利に、全人類の脳内画面が感動と絶賛の渦で爆発したのだった。
次回、街を救った二人の前に、まさかの「王国の真の刺客」とシズルの師匠が影から姿を現す……!?
王国との全面決戦へ向かう怒涛の展開をお楽しみに!
最後までお読みいただきありがとうございました。
温泉街を襲う魔王軍の残党を、シズルちゃんとの初タッグ&全人類のスパチャで撃破する大迫力回でした!
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