14
「……いい目覚めだったな」
僕は夜道を歩きながら、そんな独り言をぼやく。ぼやいてしまうくらいだったのだ。夜凪さんの膝で寝るのは正直最高だった。あれは万病に効く。きっとそうに違いない。
今は夜凪さんが帰った後、夜中に起きて、軽く風呂を済ませて。彼女を迎えに行く最中だった。この角を曲がれば、夜凪さんの家に着く。
「やあ」
僕は驚いて、その拍子に足がもつれた。夜凪さんが角から顔を覗かせたのだ。
「夜凪さん、可愛らしいことするね」
「たまにはいいかなって」
彼女はくるっとターンすると勝手に歩き出す。僕は何も言わず、それについていく。もう慣れたものだった。
「安達君安達君、今日いいことあったの。聞きたい?」
「聞きたくないって言ったら?」
「踏む」
彼女は容赦なく僕の足を踏みつけた。
「痛い」
「でね。今日、というか安達君の家から帰る途中のことなんだけどね? なんと私、くじを引き当てたんだよ」
「へえ」
「あれね、コンビニのやつね」
「へえ」
「でさ、ケーキの引換券だったの」
「へえ」
「ねえ、興味なさ過ぎない?」
「へえ」
「おい」
彼女の拳が僕の腹部にめり込む。
「痛いよ……」
「ということで。今日はいい気分なので安達君に幸せのお裾分けをしたいと思います」
「わー、うれしー」
「そこ。もっと嬉しそうにしなさい」
棒読みじゃ駄目だったか。
「安達君、今日はいいとこ連れてってあげるからね」
彼女はそう言って、軽い足取りで歩いていた。
僕は若干浮ついて後をついていく。いいところか。でもこんな時間だし、どこへ行くのだろうか。
暫く歩くと、僕たちは駅のほうへと出てきていた。
「着いたよ」
夜凪さんに言われて顔をあげると、そこはチェーンのラーメン店だった。
「まさかのラーメンできたか……」
「ラーメン嫌い?」
「嫌いじゃないけど。あんまり来ないかな」
「私はよく来るの。今回は私の奢りだからね。変わりに注文も私が決めます。今日で安達君をラーメンの虜にしてやろう」
そう、意気揚々と店内に入る。
店員に案内されて席に着くと、夜凪さんはタブレットに慣れた手つきで注文していく。本当に僕の入る余地はなく、僕は夜凪さんのお勧めを食べるようだった。
「まあ、こんなもんでしょ」
彼女は注文を終えると水を一口呷る。その喉の動きをなんとなく見てると、彼女はにやついて僕を突いてきた。
「それでなんだけどさ安達君」
「なに」
僕はうざ絡みの予感がする。そしてその予感は的中した。
「膝枕はどうだった?」
「……それ本人に聞く?」
「だって、気になるじゃん」
「まあ、そうだね。うん、よかったよ」
「もっと」
「もっとって。えーっと。夜凪さんの体温が丁度良かった、かな。それから、毎日したい」
「よろしい」
夜凪さんは僕の感想に、満足気にしていた。
「夜凪さんってやらしいよね」
「なにさやらしいって」
「だって。わざわざ聞いてくるんだよ? いつもそういうことしてくる」
「それは安達君が可愛くて」
「僕に可愛い要素ある?」
「あるよ。なんでもない振りして、私からの施しを堪能してるとことか、ちょー可愛いよ?」
「施してる自覚はあるんだね。やっぱりやらしい」
「安達君は施し甲斐があるよ」
「それはどうも?」
「これからも……。いや、やっぱなんでもない」
彼女はそこで区切る。なんだか気持ちが悪いから追求しようとしたのだけれど、そこで丁度注文したラーメン一式が届く。
「お、きたきた」
彼女は割り箸を取って僕にも渡してくれる。そして即座に割って待ち構えていた。
僕の目の前に置かれたのは、ネギが山盛りのラーメンだった。それから、半チャーハンと餃子。フルセットだった。どうしよう、こんなに食べれない。
「さあ安達君。遠慮なく食べて」
「ああ、うん。いただきます」
僕は一口ラーメンをすする。これは……。
確かに美味しかった。山盛りのネギと大量の背油がマッチしている。
それからチャーハンと餃子も一口。美味い。これなら全部食べられるかも。
夜凪さんはと言えば。一心不乱にラーメンを啜っていた。気づけば髪を括り、余った横髪も耳にかけて。彼女は本気だ。話しかけないでおこう。僕も無心でラーメンを啜る。
啜って、頬張って。
僕も夜凪さんも最後に水を飲み干して、完食していた。
「どうだった?」
彼女に尋ねられる。
「そりゃあもう、美味かったよ」
彼女は何も言わず微笑んでくれた。
店外に出ると蒸し暑いけれど、満たされたお腹と、そよぐ夜風。気分は良かった。彼女も同じなのか、満ち足りた顔でぐっと伸びをする。
ふと、香った煙草の香りに夜凪さんは顔を向ける。
「ねえ安達君、やっぱりラーメン後の煙草って美味しいのかな」
「どうだろう。吸ってみる?」
「ありだね」
夜凪さんは冗談めかして笑う。
「安達君は煙草吸ってる女の子ってどう思う?」
「正直言っていい?」
「どうぞ」
「惚れる。夜凪さんが吸っててくれたら」
「でも、一緒に居られる時間少なくなっちゃうかもよ?」
「それもそうか。じゃあ。もし夜凪さんが吸うなら僕も吸うよ。それで寿命はとんとん。一緒に死ねるね」
「なにそれ」
あまりの馬鹿なことを言ったかと、彼女の笑う反応を見て思ったが、案外悪くない案な気もしている。
「じゃあ二十になったら、一緒に買いに行く?」
「そうしよう。夜凪さんって誕生日いつなの?」
「九月の初め。安達君は?」
「僕は四月の終わりだね」
「なんだ、もう過ぎちゃってるのか」
「来年は祝ってくれる?」
「……うん。きっとね」
彼女は曖昧な返事をする。ちょっと祝ってくれるかどうか怪しかった。
「安達君。今からまた家行っていい?」
「また? まあいいけど」
未耶も寝ているだろうし。
「ちょっとお腹一杯でゆっくりしたくてさ。後小説の続き読みたい」
「そっか。それもそうだね」
*
僕は足音と気配を消して家の中を歩いていた。
「夜凪さん、静かにね」
家に帰ってきたのはいいのだけれども、未耶に見つかる訳にはいかないのだ。説明が面倒すぎる。というか、どう言えばいいんだ。
「安達君、喉乾いた」
「ああうん、持ってくから。とりあえず部屋まで行こっか」
「安達君、トイレ」
「うん、そこの角、行っといで」
僕は彼女を見送って先に部屋へ行こうとしたところで、
「兄さん……?」
「みっ! や……?」
見つかってしまった。食らい廊下で、未耶は目元を擦って僕の袖を掴む。心臓に悪い登場の仕方だった。
「まだ寝てなかったのか?」
「いえ、兄さんの気配がしたので起きてきました」
「まさか毎晩……?」
「もちろん」
そんな簡単に恐ろしいことを言わないでほしい。そもそも、僕の気配ってなんだ……?
「なんかごめんな? 未耶」
「いえ、兄さんのためなら私はいつでも起きますし、どこへでも行きますよ?」
「そうか。お兄ちゃん未耶みたいな妹がいて嬉しいよ。それじゃあ未耶、今日はもう寝ようか」
僕は未耶を早く部屋に戻したくて仕方がなかった。早くしないと夜凪さんがトイレから出てきてしまう。
「安達君、アイス食べたい」
と思ったら、もう出てきてしまった。
「え……」
未耶の顔が固まる。
「兄さん、浮気ですか?」
「え……? 安達君、私以外にもいるの……?」
なんとも困ったことに、夜凪さんまで悪ノリを始めてしまった。
「待ってくれ。これは、その。……あれだ、うん。浮気しました」
言い訳が思いつかなくて、いわれのない罪を認めてしまった。
「安達君さいてー」
「兄さん、いつかはやらかすと思ってましたが……」
どうしてだろうか。何も悪いことはしていないのに。どうして僕が二人から責められているのだろうか。とりあえずこの場を切り抜けたいのだが。夜凪さんは悪ふざけをやめるつもりはなさそうだった。
しかたない、ここは開き直るか。
「いいか未耶、確かに僕は浮気した最低野郎かもしれない。でもな、浮気も悪くないもんだよ、心が湧き立つ……」
「兄さん、遠い目をしても罪は消えませんよ?」
「じゃあそうだな。兄さん、三人目も視野に入れようかな」
「罪を薄めようとしないでください」
未耶は薄っすらとした目で僕を咎める。そして僕の腕を掴み自室へと連行していく。まずい、夜凪さんは下手な泣き真似しているし、このままだと説教コース確定だった。
どうにか逃げる術はないものかと、頭を巡らせたが。
……なさそうだった。
「待って未耶ちゃん」
と、ここで鶴の一声が。
「ごめん、悪ふざけが過ぎたね」
夜凪さんが僕の手を取って未耶を止める。
「私、夜凪楓。ちょっと見た目は違うけど」
「ええ……?」
未耶は明らかに疑いの目を向けていた。それもそうだ。見た目は別人なのだから。
「あー、あれだよ未耶ちゃん。私、コスプレが趣味なの」
「はあ……」
未耶は未だ信じてはいないようで。僕に視線を向けてくる。
「そうなんだよ未耶。凄いだろ? 夜凪さんの手にかかれば見た目を変えるくらい造作もないんだよ」
「でも兄さん、浮気を認めましたよね?」
「それは……」
どうしよう。夜凪さんの秘密を隠したかったとは言えない。
「まあまあ未耶ちゃん。安達君は私の為に罪を被ってくれたんだよ。私がコスプレのこと秘密にしてるから」
未耶は未だ僕に疑いの目を向けてくる。だが一応、夜凪さんからの説明の甲斐あってか、僕の腕を離してくれた。
「わかりました。それで納得しておきます」
「ごめんね未耶ちゃん、付き合わせちゃって」
「いえ、兄に不満があったらいつでも言ってください。矯正するので」
「うん。そのときはお願いしようかな」
二人が不穏な会話をしていた。僕、夜凪さんの気分次第で矯正されちゃうのか。
「じゃあ私は部屋に戻りますが、兄さん。あんまり派手にやらないように。母さんたちも寝てますので」
「未耶、それは中学生がする心配じゃない……」
未耶は夜凪さんに「おやすみなさい」と告げて部屋に戻っていく。僕はつい溜め息をついてしまっていた。
「ごめんね安達君。楽しくなっちゃって」
「いいよ。夜凪さんだから」
そう、夜凪さんだから、なんとなく許せてしまう。そういうところが、彼女にはある。あれかな、顔がいいからかな。
「安達君、私汗流したいんだけど」
「アイスは?」
「お風呂上がりで」
「わかったよ」
僕は夜凪さんを風呂場に案内して、脱衣所の扉を閉める。
「安達君、覗いてもいいよー?」
扉越しに彼女がふざけたことを言っている。
「着替え取ってくるから」
僕は無視して着替えを取りに行った。
自室で服を見繕う。僕のサイズだとちょっと大きいけれど、まあいいだろう。
僕はまた一階に降りて脱衣所に入る。風呂場では夜凪さんがシャワーを浴びていた。
「夜凪さん、着替え置いとくから」
「うん、ありがと」
扉越しに、反響した声が聞こえる。扉一枚隔てて、服を纏わない彼女がいる。ちょっと健全な男子高校生としては胸が踊った。だが言われた通り覗くわけにはいかない。
そんなとき、脱ぎ捨てられた彼女の服が僕の目に飛び込んできた。
……このくらいなら許されるだろうか。
僕は彼女の服を手に取って、顔に近づける。顔を覆う。
彼女の香りがした。爽やかなのに、甘い、花の香り。
なんだか、これ以上はまずい気がしたので、僕は服を洗濯機に放り込んで部屋に戻った。
僕はベッドに身体を投げ打つ。まだ鼻の奥に彼女の香りが残っていて、僕の胸はざわついていた。このままティッシュに手を伸ばしてしまおうかと、今の内に済ませてしまおうかと、悩んでしまう。けれど、今してしまうのは、彼女でするようで。というか、彼女ですることそのままで。僕は手が引っ込む。けれども、済ませておかなければ、夜凪さんのことだし、この後大変なことになりそうで。
僕は悶々としていた。
していたら、そのまま三十分くらい過ぎてしまって。
僕はそろそろ夜凪さんが出てくるであろうと、ベッドから起き上がった。
一階に降りて冷凍庫の中を確認すると、丁度アイスを切らしていたから。僕は気分転換も兼ねて、コンビニへと出かけた。
*
コンビニから帰ってきて自室へと戻ると、僕は目を見開いた。
「あ、おかえりー」
夜凪さんが、その。半裸だった。
ベッドで、胡坐をかいて本を読んでいたのだけれど。下を多分、履いていない。
「夜凪さん、下は?」
「暑くて」
「いや、それ理由になってないから」
「そんなことよりアイスは?」
「ああうん、買ってきた」
僕はコンビニの袋からアイスを取り出して、彼女に渡す。
「ありがと」
彼女はアイスの袋を開けると齧りつく。
すると僕の視線に気づいたのか、
「ちら」
彼女はぶかぶかで、際どいところで下半身を隠しているシャツを若干捲り上げる。
「夜凪さん、それ以上は駄目だよ? よくないよ?」
「冗談だよ安達君。私だって乙女だからね。でも男の子ってこういうの好きでしょ? だからサービス」
彼女は笑ってそう言うけれど、結構ぎりぎりだった。ていうかもうほぼ見えてる。やっぱり下は履いていなかった。
「てかさ安達君」
「なに?」
「いい匂いだった?」
「えっと……、何が?」
「嗅いでたじゃん、私の」
「……」
バレていたのか……。
「いや、夜凪さん、落ち着いて聞いてほしい」
「うん、大丈夫、安達君が落ち着いて?」
「そうだね。……あれは、興味本位と言いますか。その、ちょっと嗅いでみたくなって」
「大丈夫だよ安達君。私別に怒ってないから」
「そう?」
「なんなら私本体を嗅ぐ?」
「いや、いいから。そういうのいいから」
「そう遠慮しなさんなって」
そう言って彼女は僕をベッドに座らせる。そしてとんでもないことし始めた。まさか、僕の膝の上に向かい合って座ったのだ。
彼女の柔らかさが、体温が、香りが、形が。直に伝わる。
「ほら安達君、あーん」
夜凪さんは食べかけのアイスを僕の口に無理やり放り込む。
「……歯に染みる……」
「もっと違う感想があるでしょ」
「えっと、美味しいです」
「楓さんが食べさせてくれたから百倍おいしいです、でしょ?」
「甘いな夜凪さん、言っておくと千倍くらいは美味い」
「もう……」
僕のおふざけに彼女は呆れてしまう。
そして彼女は、わざとらしく、僕が食べた後のアイスの先を舐めとる。
「夜凪さん、やらしいよ」
「でも安達君、こう言うの好きでしょ?」
「まあ、大好きだけど」
僕は馬鹿正直だった。そのせいか、彼女の、これは。悪戯なのだろうか。彼女の行動は加速する。
彼女は更に僕との距離を詰めた。完全な密着状態。彼女の体つきは幼い。けれども、その分、心音が伝わる。
「ほら安達君、存分に嗅いでいいよ」
彼女は身体を揺らす。動く度に、下腹部が擦れるからやめてほしい。
「僕は服の残り香でも満足だったんですけど」
「でも本体嗅いだ方がよくない?」
「まあ……」
そう言われると、嗅ぎたくなる。
……普段使ってるシャンプーと彼女の香りが混ざって。何とも不思議だ。心が落ち着く。
けれど、それとは反対に、僕の身体の一部はそろそろ暴発しそうだった。
「夜凪さんそろそろ退いてくれない?」
「え? やだけど」
「そう言わずにさ」
「やだ」
彼女は思いっ切り僕に身体を寄せる。
「やだじゃなくて……」
それをされると、下の方が擦れる……。
意識すると余計に駄目でして……。
僕の下半身は、ついに起き上がってしてしまった。
「あ、」
夜凪さんも気づいたのか、下を眺める。
「……安達君、これなあに?」
「言っておくけど夜凪さんが悪い。僕も男だから」
「まあそうだね。私が悪いよ」
あっさりと認めた。どころか。何と彼女のほうから下半身を揺らす始末だった。
「追撃やめて」
「ねえ安達君」
彼女は、衝撃的なことを言った。
「しよっか」
「…………」
僕は黙ってしまった。というか、黙るしかなかった。
「私多分上手いよ?」
「初めてだよね?」
「うん。でも記憶はいっぱいある。私、結構尽くせるほうだと思うの」
「そういう問題じゃないって」
彼女は顔を僕に寄せる。口先が、触れてしまいそうだった。
あの、海の日を思い出した。思い出したから、僕は先におでこをぶつけた。
「夜凪さん、何か焦ってる?」
「……そんなことないよ」
「でもさ。僕は夜凪さんのこと大事だから。そう簡単にはできないかな」
「嬉しいこと言ってくれるじゃん」
彼女は僕とおでこを擦り合わせる。
「ねえ、安達君って。いっつもなんだかんだ、のらりくらりで躱すよね」
「どういうこと?」
「私、これでも毎回結構ドキドキしてるんだよ? なのにさ、安達君はなんでもないような顔して私を遠ざける」
「そんなつもりはないんだけどな」
「じゃあもっと素直になりなよ。私としたくないの?」
「それは……、また別問題といいますか」
「ふーん。まあいいよ」
彼女は身体をよじる。
「夜凪さんそれやめて」
「やだね。なんかさ、珍しく安達君の本心が直に伝わるから、これ」
僕は必死で我慢しているというのに。とんでもない女だった。
「ねーえー安達君、しよーよー」
「無理」
「やーだー」
彼女は僕の身体の上で揺れる揺れる。全く落ち着きというものがなかった。
「じゃあ……」
僕は苦肉の策に出た。
腕を彼女の腰に回して、抱き寄せる。
「え……」
「なに戸惑ってるのさ」
夜凪さんの心臓は、確かに跳ねていた。
「今は、これで満足してくれない?」
「……これはずるいよ、安達君」
彼女は動きは止まった者の、まだ落ち着きはなく。なんとか逃げようと身体をよじる。
「安達君、もういいから……」
「やだ」
「私の真似しなくていいからさ……!」
「夜凪さんが悪い。大人しくしてて」
「でも……。これじゃアイス食べられないよ……」
彼女の手にアイスが溶けて滴る。でも、僕はそんなことお構いなしだった。
やがて、彼女は諦めたのか。一息ついて、僕の背中に手を添えてくれた。
「もう、これでいい?」
「よろしい」
やっと大人しくなった。
それから、僕たちは口を開くことはなかった。ただひたすら。体温と心音を交換する。
どれくらいそうしていたのだろう。僕たちはその夜。確かに触れあっていた。




